春雨(はるさめ) |
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芭蕉句 | 笠寺やもらぬ崖(いはや)も春の雨(千鳥掛) 春雨や蓬をのばす草の道(草の道) 不精さやかき起こされし春の雨(猿蓑) 春雨や蓑吹きかへす川柳(はだか麦) |
〔本意・形状〕 | 『三冊子』に「春雨は小止みなく、いつまでも降り続くやうにする。三月をいふ。二月末よりも用ふるなり」とある。静かにしとしと降り続く晩春の雨が春雨であり、独特の優雅な趣を持つ雨である。そして草木の芽を育て、花の蕾をふくらます、希望のこもる雨でもある。 |
〔季題の歴史〕 | 「あしひきの山の間照らす桜花この春雨に散りゆかむかも」(『万葉集』巻十・春雑)。「わがせこが衣春雨降るごとに野辺のみどりぞ色まさりける 貫之」(『古今集』春上)。 |
〔類題 傍題〕 | 春の雨 春雨傘 膏雨(こうう) |
〔例 句〕 | 春雨や暮れなむとして今日も有り 蕪村 春雨や小磯の小貝ぬるるほど 蕪村 春雨や傘高低に渡し船 正岡子規 春雨のかくまで暗くなるものか 高浜虚子 春雨の上がりし土を掃いており 星野立子 |
山吹(やまぶき) | |
芭蕉句 | ほろほろと山吹散るか滝の音(あらの) 山吹や笠に指すべき枝の形リ(芭蕉句集草稿) 山吹や宇治の焙炉(ほいろ)の匂ふ時(猿蓑) |
〔本意・形状〕 | ばら科の落葉低木で山野に自生し、黄金が連想されることで、古くから庭にもひろく植えられている。一重、八重、白山吹もある。日本固有の植物とされる。 |
〔季題の歴史〕 | 「蛙鳴く甘南備川に影見えて今が咲くらむ山吹の花 厚見王」(『万葉集』巻八・春雑)。「吉野川岸の山吹ふく風に底の影さえ移ろひにけり 紀貫之」(『古今集』巻二・春下)。古来より詩歌に多く詠われている。 |
〔類題 傍題〕 | 面影草 かがみ草 八重山吹 白山吹 |
〔例 句〕 | 山吹や井手を流るる鉋屑 蕪村 山吹や小鮒入れたる桶に散る 正岡子規 濃山吹俄かに天のくらき時 川端茅舎 やすらかに死ねさうな日や濃山吹 草間時彦 山吹の一重の花の重なりぬ 高野素十 |
(根本梨花) |