陽炎(かげろう・かげろふ) |
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芭蕉句 | 丈六に陽炎高し石の上(笈の小文) 枯芝ややゝ陽炎の一二寸(笈の小文) かげろふの我肩にたつ紙衣(かみこ)哉(伊達衣) かげろふや柴胡(さいこ)の糸の薄曇(猿蓑) |
〔本意・形状〕 | 光と影とが微妙なたゆたいを見せる現象。特に、春の晴れた日に野原などで見られる現象をさすことが多い。麗らかな春の感じの季語である。 |
〔季題の歴史〕 | 平安時代以降の和歌では、あるかなきかに見えるもの、とりとめのないもの、見えていても実体のないもののたとえとされることが多い。 柿本人麻呂の「東の野にかぎろひの立つ見えて返り見すれば月かたぶきぬ」以来、詩歌の歴史の中に多く題材として用いられた。古く「かぎろひ」と言い「陽炎燃ゆる」「陽炎へる」「陽炎ひて」「陽炎立つ」「陽炎揺るる」と使い、言いかえも多い。 |
〔類題 傍題〕 | 糸遊(いとゆう)・遊糸(ゆうし)・野馬(やば・かげろう)・かぎろい |
〔例 句〕 | 野馬(かげろふ)に子共あそばす狐哉 凡兆 陽炎や筏木かはく岸の上 太祇 ちらちらと陽炎立ちぬ猫の塚 夏目漱石 原爆地子がかげろふに消えゆけり 石原八束 妻亡しのむなしさもまたかぎろへる 森 澄雄 |
白魚(しらうお・しらうを) | |
芭蕉句 | 鮎の子の白魚送る別れかな(続猿蓑) 白魚や黒き目を明ク法の網(韻塞) 藻にすだく白魚や取らば消えぬべき(東日記) あけぼのやしら魚白き事一寸(真蹟短冊) |
〔本意・形状〕 | 長さ6~7センチ、やせ形の半透明で、腸も透いて見え、黒点を措いたように目が鮮やかである。姿が美しく、煮ると味は淡白で上品である。 |
〔季題の歴史〕 | 和歌、連歌時代はあまり注目されず、江戸の俳諧時代になって注目されだした。黙阿弥(もくあみ)の「三人吉三(さんにんきちざ)」の大川端の場で「月もおぼろに白魚の、篝もかすむ春の宵」など、よく知られたセリフもある。 |
〔類題 傍題〕 | しらお・白魚捕・白魚汲む・白魚舟・白魚火・白魚汁 |
〔例 句〕 | 白魚やさながら動く水の色 来山 白魚をふるひ寄せたる四ツ手かな 其角 町空のくらき氷雨や白魚売り 芝不器男 思ひだけ白魚に柚子したたらす 細見綾子 白魚汲みたくさんの眼を汲みにけり 後藤比奈夫 |
(根本梨花) |