わくわく題詠鳩の会兼題解説

◆ 兼題解説 夏の海・牡丹 ◆

夏の海(なつのうみ)
〔本意・形状〕 夏の眩しい光に満ちた紺碧に輝く炎天下の海である。
空には入道雲、海にはヨットが浮かび渚には海水浴の人々が集う。
〔季題の歴史〕 『四季名寄』(天保七)に兼三夏として所出。
芭蕉句 「島島や千〃にくだきて夏の海」(蕉翁全伝付録)
『おくのほそ道』本文で松島を訪れた芭蕉は「いづれの人か筆をふるい詞を尽さむ。(略)予は口をとぢて眠らんとしていねられず」とあり、句は詠めなかったことになっている。しかし本文に入らなかっただけで句はできている。句意はこの句の前書きにある「奇曲天工の妙を刻みなせるがごとく」から推測すれば「松島湾の海に大小の島〃が浮いている景観は、造化の神が島を砕いて夏の海に散らしたかのようだ」となろうか。生き生きと躍動感に満ちた句である。
〔類題 傍題〕 なつうみ 夏の波 夏涛 夏の浜 夏岬 青岬
〔例   句〕 高嶺より礫うち見ん夏の海     言水
掌に掬へば色なき水や夏の海    原石鼎
子を探しに出でてむなしく夏の浜  山口誓子
乳母車夏の怒涛に横向きに     橋本多佳子
遠くより風来て夏の海となる    飯田龍太
牡丹(ぼたん)
〔本意・形状〕 五月の初め頃、径十数センチほどの大輪の豪華な花をひらく。黒紫、淡紅、白、黄色、絞りなどあり、また重弁、単弁と種類も多いその豊麗な美しさから「花の王」とも呼ばれ、花の富貴なるものとされる。
〔季題の歴史〕 平安時代初期薬用植物として輸入され、寺院に植えられたが後に庭園で
鑑賞されるようになった。牡丹の季は春か夏か古来問題とされてきた。
「俳諧では夏に定めている。一つには「牡丹」の豪奢な華やかさが、春よりも夏を感ぜしめるからでもあろう」(山本健吉『基本季語五〇〇選』)
芭蕉句 「牡丹蕊ふかく分出る蜂の名残哉」(新芭蕉俳句大成)
〔類題 傍題〕 ぼうたん 深見草 富貴草 白牡丹 紅牡丹 黒牡丹 牡丹園
〔例   句〕 牡丹散つてうちかさなりぬ二三片    蕪村    
ちりてのちおもかげにたつ牡丹かな   蕪村
白牡丹といふといえども紅ほのか    高浜虚子
夜の色に沈みゆくなり大牡丹      高野素十
ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに   森 澄夫
(根本梨花)


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