夏の海(なつのうみ) | |
〔本意・形状〕 | 夏の眩しい光に満ちた紺碧に輝く炎天下の海である。 空には入道雲、海にはヨットが浮かび渚には海水浴の人々が集う。 |
〔季題の歴史〕 | 『四季名寄』(天保七)に兼三夏として所出。 芭蕉句 「島島や千〃にくだきて夏の海」(蕉翁全伝付録) 『おくのほそ道』本文で松島を訪れた芭蕉は「いづれの人か筆をふるい詞を尽さむ。(略)予は口をとぢて眠らんとしていねられず」とあり、句は詠めなかったことになっている。しかし本文に入らなかっただけで句はできている。句意はこの句の前書きにある「奇曲天工の妙を刻みなせるがごとく」から推測すれば「松島湾の海に大小の島〃が浮いている景観は、造化の神が島を砕いて夏の海に散らしたかのようだ」となろうか。生き生きと躍動感に満ちた句である。 |
〔類題 傍題〕 | なつうみ 夏の波 夏涛 夏の浜 夏岬 青岬 |
〔例 句〕 | 高嶺より礫うち見ん夏の海 言水 掌に掬へば色なき水や夏の海 原石鼎 子を探しに出でてむなしく夏の浜 山口誓子 乳母車夏の怒涛に横向きに 橋本多佳子 遠くより風来て夏の海となる 飯田龍太 |
牡丹(ぼたん) | |
〔本意・形状〕 | 五月の初め頃、径十数センチほどの大輪の豪華な花をひらく。黒紫、淡紅、白、黄色、絞りなどあり、また重弁、単弁と種類も多いその豊麗な美しさから「花の王」とも呼ばれ、花の富貴なるものとされる。 |
〔季題の歴史〕 | 平安時代初期薬用植物として輸入され、寺院に植えられたが後に庭園で 鑑賞されるようになった。牡丹の季は春か夏か古来問題とされてきた。 「俳諧では夏に定めている。一つには「牡丹」の豪奢な華やかさが、春よりも夏を感ぜしめるからでもあろう」(山本健吉『基本季語五〇〇選』) 芭蕉句 「牡丹蕊ふかく分出る蜂の名残哉」(新芭蕉俳句大成) |
〔類題 傍題〕 | ぼうたん 深見草 富貴草 白牡丹 紅牡丹 黒牡丹 牡丹園 |
〔例 句〕 | 牡丹散つてうちかさなりぬ二三片 蕪村 ちりてのちおもかげにたつ牡丹かな 蕪村 白牡丹といふといえども紅ほのか 高浜虚子 夜の色に沈みゆくなり大牡丹 高野素十 ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに 森 澄夫 |
(根本梨花) |