時鳥(ほととぎす) | |
〔本意・形状〕 | 初夏五月頃南方から渡ってきて、よく響く独特の声で日本の空に夏を告げる。〈春は花夏ほととぎす秋は月冬雪さえてすずしかりけり〉(『道元禅師和歌集』)に詠われるように、日本の美を代表する雪月花に並ぶ鳥である。鶯と同じく初音を待たれる鳥としても知られる。昼も夜も鳴き闇夜の激情のこもるような声は「帛を裂くが如し」といわれ、また、口腔が赤いので「鳴いて血を吐くほととぎす」ともいわれる。自分では巣を作らず、托卵で繁殖する。こうした習性から多くの言い伝えがある。 |
〔季題の歴史〕 | 『至宝抄』(天正13)に「時鳥(ほととぎす)は、かしましきほど鳴き候とも、稀に聞き、珍しく鳴き、待ちかぬるやうに詠みならはし候」とある。古句では、「郭公」を「ほととぎす」と読ませることもある。 |
〔類題 傍題〕 | 杜鵑(ほととぎす)、子規(ほととぎす)、不如帰(ほととぎす)、沓手鳥(くつてどり)、橘鳥(たちばなどり)、田長鳥(たおさどり)、妹背鳥(いもせどり)、卯月鳥(うづきどり) |
〔例 句〕 | 京にても京なつかしやほととぎす 芭蕉 空になくや水田の底のほととぎす 鬼貫 寝られぬに啼いてくれるな杜宇 越人 時鳥濡髪冷えしまゝ寝まる 殿村菟絲子 ほととぎす谷戸の朝靄突き放し 星野椿 |
(堀口希望) |
余花(よか・よくわ) | |
〔本意・形状〕 | 初夏になって、まだ咲き残っている桜の花のこと。東北地方の山中などを旅していると、ふと見かけることがありその風情がいかにも珍しく、またいじらしく感じられる。よく似ているものに「春」の季語、「残花」が有るがこちらは晩春に咲き残る桜で、立夏を過ぎて初夏に咲く桜を、余花(夏季)として使い分けている。 |
〔季題の歴史〕 | 『夫木和歌抄』夏に、余花「せみのはの薄紅の遅桜折るとはすれど花もたまらず 順徳院」。『至宝抄』(天正13)『鼻紙袋』(延宝5)以下に四月として所出。『滑稽雑談』(正徳3)に、「題林抄に曰、余花、春におくれてひとり咲けるをあはれみ、山深ければ夏の来るをも知らぬかとおぼめき、青葉の中に咲ける珍しき心など詠むべし」とある。 |
〔類題 傍題〕 | 特になし |
〔例 句〕 | 余花に逢ふ再び逢ひし人のごと 高浜虚子 余花の峯うす雲城に通ひけり 飯田蛇芴 相打つて雀はげしや余花の雨 原石鼎 仔馬には里初めてや余花白き 大須賀乙字 余花の蝶しばらく波にあそびけり 西島麦南 |
(根本梨花) |