鳩の会会報99(令和2年9月末締切分) |
兼題 初秋・七夕 |
【Advice】全四句にAをつけられて幸いでした。この四句は表現がシンプルで奥深いところが共通していると思います。俳句は日常を詠む詩ですが、四句は目の付けどころが新鮮、発見がある。見習いたいと思いました。 句の評価にABC三つの符合を用いています。その意味するところは以下の通りです。 A:省略が利いて、抒情あきらかな句 B:季感が備わるスケッチ C:焦点定まらぬつぶやき |
A 初秋や夜半の雨にぬれし縁 由美 ・「初秋」は実は残暑厳しい時期。濡れ縁に涼を運ぶひと雨が美しい。 |
A 飼ひ犬の白髪いとしき初秋かな 貴美 ・「いとしき」と主観でなく、「みつけし」などと客観的にする方が上等。 |
A 耳かきの耳ひんやりと秋はじめ ひろし ・「秋来ぬと目にはさやかに見えねども」(敏行・古今集)の感性を思わせる。「耳」がもたらす感覚的な映像が効果を出している。 |
A 初秋の誰もやさしく年老いて 梨花 ・「初秋の」の「の」は切れ字「や」に似た弱い断絶を生んで、相応の効果を出している。場所は言外に隠しているが、「誰も(みな)」という表現で読者の想像を容易にしている点に腕あり。 |
B 温度計夜風に初秋の目盛りかな 和子 ・目の付けどころ面白し。だが「夜風」が無駄。「初秋の目盛り」とは何度なのかを示す方が面白い。 |
B 秋初め浜の足跡まつすぐに 喜美子 ・秋の到来が人を散歩に誘う。だが、「まつすぐに」とする意図曖昧。 |
B 久しぶり友それぞれの初秋哉 エール ・「友それぞれの初秋」が曖昧。 |
B 初秋や同級生の訃報聞く 美知子 ・「同級生の訃報」は普通の日常。普通から如何に離れるか悩みたい。 |
B 秋はじめ店先に仰ぐ雲の図秋はじめ 瑛子 ・「秋はじめ」の他に〈秋の雲〉という季題がみえてしまった。「雲の図秋はじめ」は「秋の雲」で済む。 |
B ある意志の転居片付き初秋かな 静枝 ・「ある意志の」は曖昧。「かな」を生かすためには「転居片付く初秋かな」「転居終へたる初秋かな」。 |
B 初秋や褪せてもそよと工事旗 由紀雄 ・心地よさが伝わる。但し「も」は無駄。「褪せてそよそよ工事旗」くらいか。 |
B 初秋の風おだやかに人のゆく 香粒 ・「人のゆく」はやや曖昧だが、「人歩む」という意と解釈した。 |
B 一風の大河はらへり秋初 憲 ・曖昧。「払ふ」「祓ふ」のいずれや。 |
B 長袖にしようかまだか秋浅し 窓花 ・「秋浅し」を使うと、〈まだ秋の初めなので服に迷う〉という理屈になってしまう。これを抜け出せれば更によい。 |
B 初秋の漁港の風や鳶の笛 海星 ・素材多くて焦点定まらず。「鳶の笛」は冬季とされているので注意。 |
C 初秋の旅なじみの店の暖簾はね 紅舟 ・「はね」の意味不明。まずは「旅」を捨てて、「初秋やなじみの暖簾くぐりけり」ぐらいかな。 |
C 目覚むればまさかの秋の初めかな ひぐらし ・おどろきは伝わるが、「まさかの秋」が難解。 |
C 薪割りの翁健やか秋初め 千年 ・「薪割りの翁」というと、そんな翁がいるのかと古風に映る。「薪割って翁健やか」の方がリアル。「秋初め」も利いていない。 |
C 初秋や宵空の風そよぐ枝 真美 ・風にそよぐ木の枝に初秋を感じる、という意か。ならば、もっとスッキリした表現にできそうだ。「宵空」はボクの辞書にないので困惑。 |
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B 願ひごと書く横顔や星祭 千寿 ・省略が利いていて、わかりやすい。但し、その姿はくりかえし描かれてきたので鮮度は低い。 |
B 年寄りのねがひは長生き七夕祭 ちちろ ・「年寄りのねがひは長生き」は普通の日常。普通から如何に離れるか悩みたい。 |
B すこやかに日々在れかしや星まつり 笙 ・「すこやかに日々在れかし」は普通の日常。普通から如何に離れるか悩みたい。 |
C ローソク乞ふ柳に短冊星祭 美雪 ・七夕に「ローソク乞ふ」のも「柳に短冊」を飾るのも北海道育ちのボクには懐かしい。但し、十七泊しかないので、どちらか一方を詠もう。 |
C 雨降れどスマホで通ふ星祭 しのぶこ ・「スマホで通ふ」がわからなかった。 |
C 七夕の織り彦いとしディスタンス ミチヨ ・「織り彦」は織姫と彦星か。極端な省略は避けた方がよい。「いとし」は不憫、かわいい、どちらの意味かわかりにくい。多分、たくさんのことを言おうとして失敗している。 |