鳩の会会報97(令和2年5月末締切分) |
兼題 時鳥・余花 |
【Advice】むろんボクの独断と偏見だが、Aを付けられる句が一つしかなかった。それを踏まえて、何を書こうか。 芭蕉のことばに①「発句(俳句)は頭よりすらすらと言ひ下し来たるを上品とす。(略)発句は汝が如く二ツ三ツ取り集めするものにあらず。金(コガネ)を打ち延べたる如くなるべし」(『去来抄』修行)、②「発句(俳句)はモノ(素材)を合はすれば出来(しゅつたい)せり。その能く合はするを上手といひ、悪しきを下手(へた)といふ」(『去来抄』修行)。 ①の例句:白藤や揺れやみしかばうすみどり(不器男・芝不器男句集) ②の例句:万緑の中や吾子の歯生え初むる(草田男・火の島) なんというシンプルな構造であろう。この二つの型ですべてを説明できるとは思わないが、まず身につけるべきは、この詩歌の基礎である。基礎を身につけた者だけが応用の段階へ進むはずだから。 なお、句の評価にABC三つの符合を用いている。その意味するところは以下の通り。 A:省略が利いて、抒情あきらかな句 B:季感が備わるスケッチ C:焦点定まらぬつぶやき |
A あの世からこの世へエール時鳥 智子 ・時鳥の本意を踏まえて余情ゆたか。昨年の晩秋、ボクらは共通の友を亡くした。 |
B ほととぎす我にも恋ふる頃のあり ひろし ・蕪村に「岩倉の狂女恋せよほととぎす」(句集)。古来エロスは美しく、そして哀しい。 |
B ほととぎす藪ぬけ通ふ青果店 瑛子 ・時鳥と青果店の一体感うすし。 |
B 時鳥やや重たげに過ぎりをり 千年 ・「やや重たげに」は意味ありげながら、読者には通ぜず。 |
C 思はざる鹿島の杜やほととぎす 憲 ・「思はざる」というが、ホトトギスはむしろ鹿島社に似合いではなかろうか。 |
C チャイム聞こえぬ学校や時鳥 真美 ・「チャイム聞こえぬ学校」とは何ぞや。ウィルス渦による休校を踏まえるとすれば前書必要。 |
C 高原に啼くやむかうへ時鳥 かりつ ・「むかうへ」がどこかわからない。たとえば「高原の奥へ奥へと時鳥」などとはっきりさせたい。 |
C 毎朝のおうたの稽古ほととぎす 窓花 ・時鳥の声を「稽古」とみているなら、本意を見失っている。 |
B 古稀と言ふ人力車夫や余花の風 千寿 ・人力車に乗って吹かれる風を「余花の風」といってよいか、少し迷うが、この程度の離れ具合はひと味かも。 |
B 十和田湖の余花の並木で雨に会ふ 和子 ・ある瞬間をとらえている点で成功しているが、雨でなく、「余花にあふ」としなければ、詩が生まれない。 |
B 廃校に一人遊びの余花であり 梨花 ・校庭に遊ぶ子どもか。「廃校」「一人遊び」「余花」はトコトン重くて、読者は救われず。なお、ボクは「であり」という結び方に馴れていない。教示を乞う。 |
B 振り返り振り返り去る余花の駅 しのぶこ ・「振り返り振り返り去る」は重し。 |
B まつさらな御朱印帖や余花の里 ひぐらし ・他力本願(浄土真宗)育ちのボクに朱印の知識はなかったので、旅行で御朱印を求める友人をみたときは不思議だった。句は真新しい朱印帳ということで、何やら新しい時間の始まりを思わせる。ただし、「余花の里」との結びつきは弱い。 |
B 待ちゐたるかのやうに余花渓谷に 由美 ・「かのやうに」はくどいので捨てよう。 |
B 旅寝後なほ懐かしき余花の白 貴美 ・「後」はノチと読んでみたが、自信なし。「旅寝後」は寝付いた後か、帰宅後か不明瞭。「なほ懐かしき」は「なほまなうら(眼裏)に」などと視覚に訴えるほうが客観性を帯びる。結果として「旅寝してなほまなうら(眼裏)に余花のあり」くらいかな。 |
B 余花匂ふ雨のしづけさ猫の駅 笙 ・上五、中七は「雨のせいで余花がほどよく匂う」という成句は美しい。だが、「猫の駅」がわからず、戸惑った。周囲に助言を求めると、猫を駅長にしてマスコットとしているニュースがあるという。自信はないが、これか。とすれば、当座性の高いテーマだから、前書をつけるのが望ましい。 |
B 人を見ぬ静かな村は余花の雨 ちちろ ・「人を見ぬ静かな村」は曖昧。ウィルス自粛を踏まえるとすれば前書が必要。 |
C 葉隠の余花の白さよ人見知り 光江 ・葉隠れのさまを「人見知り」と見たとすれば、勇み足だね。「葉隠の余花の白さよ」だけで百パーセント、詩である。 |
C 渓魚手に羽音を追へば白き余花 由紀雄 ・盛り込み過ぎなので、省略を心掛けて、たとえば何の「羽音」かわかるようにしよう。また、季重ねになっても、具象的にするために「渓魚」は特定の淡水魚の名を挙げた方がよい。 |
C 草叢に鴉のむくろ余花の雨 海星 ・恐ろしい景色。句に詠まずともよし。 |
C 余花の園走れガンバレ一等賞 美雪 ・春の運動会の一景か。余花の味わいが反映されていない。 |
C 何気なし曲がつたとたん余花の道 静枝 ・不意に余花に遭遇した喜びをいいたいのだろう。だが、失礼ながら「何気なし曲がつたとたん」は不要。 |