わくわく題詠鳩の会


鳩の会会報119(令和6年3月末締切分)
行く春・桜
【Advice】 鳩の会コンテンツの初めに「目的は佳句・悪句の判断力の涵養です」と書いています。自選の力を少しずつでも養ってくださいという思いです。自分の句を客観的に見直すのは難しい。でも一番大事なのは有名な選者に選ばれることでも、友だちに選ばれることでもなく、自句の良し悪しを自分で判断する力です。表現法の立場から、私はそのお手伝いをしているにすぎません。
句の評価はABC三つの符合で評価しています。その意味するところは以下の通りです。
A:省略が利いて、抒情あきらかな句
B:季感が備わるスケッチ
C:焦点定まらぬつぶやき
A 行くはるや花屋を閉づる老夫婦       由美
あわれがあります。「花守や白きかしらを突きあはせ」(去来・炭俵)を思い出しました。
A 行く春や異動の近き荷をまとめ       京子
あわれがあります。日常を客観的にながめる力が感じられます。
A 行く春に花弁ヒラリと宙を舞ひ      ミチヨ
「に」は情況・場所を示して散文的になるので、「行く春や」と詠嘆の助詞で切れ目を作りましょう。それを受け入れてもらってのA 評価です。
A 寛解の脳梗塞や春逝けり          ひろし
お見舞い申し上げます。ゆるやかなる回復をまずは吉報と拝読。病の句に「春逝けり」は重い。天文あるいは地理の季題から明るめの語を取り合わせてはいかが。
B 行く春や古寺の門忘れ傘           美雪
「古寺」である必要、「門」である必要はないから省略して、「行く春や寺に二三の忘れ傘」あたりか。
B 行く春や枠に錆びある締太鼓       蛙星
不明を恥じるが、和太鼓の知識なし。よって、推測だが、「枠」は革を張る木枠か。「錆び」とあるからには「枠」は金属か。あるいはトメガネのような部分の「錆び」か。「行く春」のもの憂さと共鳴する「錆び」に作者の苦心があると見たが自信なし。なお、読後「ゆく春やおもたき琵琶の抱き心」(蕪村・遺稿)を懐かしく思い出した。
B 行く春や土鳩の母の子鳩呼ぶ       貴美
「土鳩」は人に飼育されている鳩なはず(子どものころ、友だちが飼っていた)。その母と子の情愛と「行く春」との結びつきが表現できればよいのだが。
B ゆく春や巾着型の人心地           蕾花
「人心地」は困惑などが治まった心のさま。その形容を「巾着型の」とは斬新だが、一般性に乏しい気がする。
B 行く春や荷物すつきり軽くして       梨花
作中の(「荷物すつきり軽く」する)主体は「春」か、それとも作者か。比喩か実景かで迷い、鑑賞が行き詰まってしまった。
B 行く春や確と心に留めおく      喜美子
「行く春」は見えない。よって、何を「確と心に留めおく」のか不安になる。目に見える景色に助けを求めるとよいかも。
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A メリケンの出船の船尾追ふ桜       鹿鳴
アメリカ船の出港。それを落花が追いかける景色とすれば、場所は日本の港だろう。「船尾追ふ」に情がある。見られそうで、なかなか見られない、新鮮な画題を学んだ気分。
A ロビー中央に一樹まるごと山ざくら       ひぐらし
「山ざくら」は日本を示唆し、高級ホテルにありそうな景色だが「一樹まるごと」とはすごい。すごいだけに、前書を添えて実景であることを示したい。なお、初五の字余りは許される範囲。
B 祈り雨咲き初める大島桜         eiko
「祈り雨」難解。雨乞いの修法を「祈雨」といい、日照り続きを解消する雨を「喜雨」といって、共に読みはキウ。夏の季語。「大島桜」との取り合わせを含めて再検討か。
B 夜桜の夜な夜な艶をこぼしけり      つゆ草
「夜桜」と情景の重なる「夜な夜な」は不要。
B 居眠りの机に桜花ふうはりと       窓花
こうした景色は実在するであろう。でも、それを超える景情は感じられない。
B 世の人の憂ひを晴らす桜かな      エール
景情整っているが、古歌に「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」(業平・古今・春)があるから、桜が憂いをはらすというのは抵抗があるね。
B 桜咲く笑顔の君に直ぐ逢へる      美知子
素直かつ率直な表現がよい。初五「桜咲く」の寓意にはいろいろあろうが、この句は「笑顔の君」と共鳴して成功。
B 朝靄に老桜そつと咲き初める       馨子
「朝靄」「そつと」「咲き初む」、いずれも「老」の骨格を捉えていない。
B ひとり聞く祈祷の号鼓桜散る       真美
「ひとり聞く」「祈祷の」共に言外に出してよい表現。その上で、「号鼓」と「桜散る」から生まれる主題(何を詠みたいのか)を再考したい。
B 人も牛も住めぬ産土さくら咲く       海星
人災その他で住むことが出来なくなった故郷。「国破れて山河あり」(杜甫・春望)や「夏草や兵どもが夢の跡」(おくのほそ道・平泉)に通ずる景色が見えるが、住めなくなった原因をほのめかす必要あり。
B 初産のごとくそはつく開花かな       光江
「初産」と「開花」を似たものと扱うことには賛否がありそうです。
B 後にも前にも遍路さく桜           千年
「さく桜」は誤記か。絵柄がよいだけに惜しい。
B 杖を留め見上ぐるほどの桜かな      稲子麿
景情整っているが、ありふれた構図ではなかろうか。
B 不登校明日はおいでと門桜       和子
情はあれど、自宅(不登校)と学校(門桜)に距離があって、鑑賞に迷う。


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