鳩の会会報113(令和5年1月末締切分) |
兼題 寒・葱 |
【Advice】 俳句は十七拍しかない不十分な韻律。それを自覚せずに盛りつけ過ぎている、その結果として意味不明になっている句が多かった。芭蕉は〈俳諧は俗語を正す詩である〉と言ったが、「寒月光」や「寒九郎」はその「俗語」(詩歌に縁の薄い言葉)に近い。よって、「寒月」との違い、「寒九」の違いを明確に出来れば、〈俗語を正す試み〉になる。
句はABC三つの符合で評価しています。その意味するところは以下の通りです。 |
B 大寒や煮上がる湯葉のふつくらと 馨子 ・寒さをはねのけるあたたかさが心地よい。 |
B 大寒の空は太古の蒼さかな ひろし ・「太古の蒼さ」は抽象的。 |
B 大寒の雑木林のがらんだう 海星 ・「がらんだう」は伽藍堂由来の語で、淋しい景色にいう。落葉樹が多いのだろう。 |
B 大寒や大樹伐られて小木となり つゆ草 ・「小木となり」は説明過多。不要とも言える。 |
B 大寒や産湯をわかす火の赤く 由美 ・火は赤いのが普通。よって「火の盛ん」などとする知恵も必要。 |
B 振袖の矢尻が寒の空気裂く 和子 ・「振袖」とあるから、この「矢尻」は帯結び。ただ「空気裂く」は強烈で、ウガチ過ぎかと思う。 |
B 挨拶もなく転居せし寒の内 真美 ・「寒の内」に冷えた人間関係の寓する意図か。あまり奨められない手法。 |
B 寒月光わが影を踏み坂登る 梨花 ・「寒月光」とは新しい日本語か。「寒月」で間に合うし、余韻も深いのではなかろうか。 |
B 戦艸を食む人もいる寒さかな 千年 ・「戦艸」は造語と見た。「艸」だから「食む」と遊んだ。写実句ではないが、社会性の強い作意に一定の味わいがある。ただし、「寒さ」は「寒」という今回の題とやや意味を異にする。 |
B 春寒や土間に秋葉の火伏札 ひぐらし ・「火伏札」とあるから、鬼や火之要慎で有名な秋葉神社(浜松)か。ただし、「春寒」は「寒」という今回の題とやや意味を異にする。 |
C 大寒や寒見ゆるごと我に沁む 憲 ・特に「寒見ゆる」という言葉が映像を結ばす、わかりにくい。 |
C 大寒や吾子は二ヶ月夢のなか 京子 ・「二ヶ月夢のなか」が映像を結ばす、わかりにくい。 |
C 大煙突けむり際だつ寒九かな 鹿鳴 ・どこの「大煙突」なのか、映像を結びにくい。「寒九」でなく、農業で吉兆とする「寒九の雨」の中の煙突か。いずれにしろ曖昧。 |
C 寒九郎水道管に派手な帯 美雪 ・「寒九の雨」や「寒九の水」でなく、「寒九郎」とした理由難解。「派手な帯」も凍結予防か、何かの儀式か迷う。 |
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B 父さんの作る焼きそば葱いつぱい 光江 ・子ども俳句とすれば面白いが、この作者の句としては不満。 |
B ばあばへときつねうどんの葱つまみ エール ・苦手な葱を孫が祖母に寄こした句とみた。ただし、「つまみ」という結びが不安定。 |
C 泥付きの葱の大束引きずつて 紅舟 ・「引きずつて」それでどうしたのかという言外、つまり主題がわかりにくい。 |
C 葱買つて坂下る人夕日背に 美知子 ・「葱買つて坂下る人」と「坂下る人夕日背に」と二つの情景に分離するので、何かを捨ててシンプルな絵にしたい。 |
C 友の逝き白寒菊の咲いており 貴美 ・友人の死と白菊の花の関係がわからない。「咲いており」を捨てれば打開策が見えるかもしれない。 |