鳩の会会報112(令和4年11月末締切分) |
兼題 小春・枯野 |
【Advice】いろいろ手を尽くしているのですが、坐骨神経痛はおさまらず、小刻みに時間を捻出して、順序よく仕事を片付けていましたら、遅くなってしまいました。申しわけありません。肉体の不調は頭脳の不調までもたらすというのが実感です。 句はABC三つの符合で評価しています。その意味するところは以下の通りです。 A:省略が利いて、抒情あきらかな句 B:季感が備わるスケッチ C:焦点定まらぬつぶやき |
A 新嫁の手土産にわく小春かな エール ・嫁も優しい、迎える親も優しい。そして「小春」はさらに優しい。 |
A 伸びた枝ぱちんと落とす小春の日 紅舟 ・小春日和の心地よさが「伸びた枝」を発見させてくれた。 |
A 無事の報ただ幸せな小春かな 美知子 ・素直さが心地よい句。「無沙汰は無事の便り」というが、の怪我・病気・故障もなく過ごすことのありがたきこと。 |
A 小春日の部屋ゆつくりとストレッチ 由美 ・外に出るのはやや不安な日もある。部屋の中は更に小春らしいにちがいない。 |
A 小春日のみんな仲良きドッグラン 海星 ・ふさわしい場所を与えられるとこんな景色に出逢えるのだね。 |
A 老猫を窓辺に誘ふ小春かな 馨子 ・優しさも、淋しさもほどほどにある暮らし。これを充実というのかもしれぬ。 |
A 異国艦来し立待の小春凪 憲 ・恐そうな異国船が「小春凪」で優しい絵柄になってみえる。蕪村の物語ふうな句を思わせる。歴史の残りそうな点がおもしろい。 |
A 小春空猿は素知らぬ貌をして ひろし ・猿も心地よい気候を独り占めしたいのだろう。 |
A 小春日の強き握手やエアポート 真美 ・「エアポート」は硝子張りの箇所が多いから「小春日」でいいのだろうな。「強き握手」は若々しく新鮮な表現で、さまざまな感傷を想像させる。 |
A おにぎりを割ればめんたい小春空 つゆ草 ・イイ句だなあ。「小春」が利いている。「めんたい」が好きであることが伝わる。 |
A まばたきに雲打ち替はる小春風 香粒 ・「打ち替はる」とはなんとも美しい日本語。秋の空の真実をとらえるばかりか、人生の一瞬をも描いているようにみえる。 |
B 佳き人に行き逢ふ予感小六月 喜美子 ・「小六月」をこんなふうに優しく詠む若々しさが憎い。 |
B 青空に教会そびえ小春かな 京子 ・「青空」と「小春」が打ち消しあってモッタイナイ気がする。 |
B 団十郎小春の空をひと睨み ひぐらし ・「睨み」に「小春の空」が利いていない。 |
B 物干しのタオルが揺らぐ小春かな ちちろ ・「小春」には「揺らぐ」でないほうがよい。 |
B 小春日に健やかなれと接種券 和子 ・「接種券」は疫病下の今だからわかるが、長く読者を得られるかはあやしい。 |
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B 紫紺めく枯野の枝と頭蓋骨 慧明 ・散文にしてみると、〈暗い紫色に包まれた枯野の木々。その一本の枝に頭蓋骨が掛かっていることだ〉となる。これと作者の意図が違う場合、その理由は何かを考えてみよう。俳句という文化と日本語を楽しむために。 |
B 夕陽へと向かふ道ある枯野かな 鹿鳴 ・「夕陽」と「枯野」が何かを寓しているように読めるが、読者としてはそれが謎。少し不安になる。 |
B パスワード打ちて枯野に分け入りて 梨花 ・「枯野」が比喩になっているようで、やや抽象的か。 |
B 亡き人の声を励みの大枯野 千年 ・「励み」にして何をしている様子か。この点やや抽象的。 |
B 夜間飛行の枯野の端をわたりけり 貴美 ・結びを「夜間飛行かな」とする工夫が欲しい。 |