わくわく題詠鳩の会


鳩の会会報111(令和4年9月末締切分)
兼題 朝顔・月
【Advice】モノ(現実)を見ること。これが人生を豊かにするもっとも大切なこと。でも見たままを十七拍にしても人生を喜ぶことにつながらない。十七拍にまとまったら数時間、できれば一日くらいは時間をおいて読み直してください。自分の心を動かすものが残っていますか。残っていないときは、その句は捨てましょう。捨てたくないときは〈無駄なフレーズ〉はないか検証してください。その際、たくさん捨てること、口ずさむことが役立つ気がします。坐骨とか椎間板とかの神経痛で机上仕事がままならず、遅くなったことをお詫びします。
句はABC三つの符合で評価しています。その意味するところは以下の通りです。
A:省略が利いて、抒情あきらかな句
B:季感が備わるスケッチ
C:焦点定まらぬつぶやき
A 快復の声の明るし牽牛花             馨子
・朝顔は中国から入った薬草の和名。漢名は牽牛子(ケンゴシ)といい、別に牽牛花(ケンギユウカ)とも伝える。命名の背景は曖昧だが、いずれにしろは薬物の材料。こうした歴史が「快復の声」と重なって滋味あり。
B 曇天に咲く朝顔のあはれかな         蛙星
・「あはれかな」を言外に出して再考かなあ。
B 放置自転車に朝顔のびて今日三つ        千寿子
・「今日三つ」は要らないなあ。
B 朝顔や垣根に絡む藍一輪             智子
・「一輪」は要らないなあ。
B 朝顔の切り絵の見舞ひいろいろに         香粒
・「いろいろに」は要らないなあ。
B その先の空を弄る牽牛花           ひぐらし
・〈いじくる〉には奇を衒う感じで損している。
B 津々浦々朝顔日記の一年生          梨花
・中七下五と「津々浦々」の結びつきが弱い。
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A 波の音の届く枕辺望の月             千年
・陰暦十五夜の月を賞美する句。この作者の草庵を訪ねたことがあるゆえに、波の音がリアルに聞こえてくる。但し上五は〈ナミノネ〉とは読みたくないので、「波音の」として十七拍に収めたい。
B 島かげを薄むらさきに月のぼる         鹿鳴
・ひとつの景色を描き切っているが、抒情に乏しいなあ。
B わが影と同行二人月の道             憲
・「同行二人」は巡礼で弘法大師と共にあるという意。それを「自分の影法師と共に」と言い替えた。満月は月輪(ガチリン)とも呼ばれ、仏道では〈悟りの姿〉を意味する知識を踏まえれば、奥の深い句である。
B しろがねの櫂のしづくや月渡る         海星
・美しい月夜の海に舟を出している景色か。櫂からこぼれる白銀のしずくは月光のなせるわざ。たしか、この句のような歌詞があったような、なかったような。その点が不安。
B 月を詠む西行の背か夢うつつ         直子
・「夢うつつ」は作者で、そこに西行が出てきているという句か。私事ながら、上京する前の郷里で見た夢に、三島由紀夫がボクを訪ねてきて、一緒に喫茶店へ出かけて文学の話をしたことを思い出した。喫茶店の名は「赤シャツ」だが、今はない。なお、芭蕉や蕪村が夢に出てきたことはない。
B 利根川のしろがねびかり今日の月         ひろし
・銀光りという言葉は使ったことがあるが、〈しろがねびかり〉という言い方もあるか。但し、抒情に乏しいなあ。
B 茶渋濃き湯呑みに注ぐ月夜かな         真美
・濃茶を飲んでいつまでも月見をするということか。とすれば理屈っぽい。
B 里帰り一人住む母月を待つ         和子
・里帰りと月の出を待つという二つに分離してしまって惜しい。
B 次々に面影よぎる良夜かな         喜美子
・月はあれこれと思い出させるという句か。面影の輪郭を明らかにしてほしい気がする。
B 十六夜やKA DOKA WA 「俳句」ページ繰る 美知子
・新鮮。出版不況の今だから、角川が喜ぶことでしょう。
B お月さま無事の一日ありがとう         美雪
・このように汚れのないモノローグがあってよい。
B 遠き日の父におぶさり月の道         京子
・「遠き日や」と詠嘆にすれば数段上等になる。
C レコードの針の掠れや月今宵         つゆ草
・「月今宵」は真如とも言われる整った姿。それと「レコードの針かすれ」は似合わない、なじまない。
C 月天心きりりと変わる家を見し         瑛子
・「きりりと変わる」は説明しすぎゆえ言外に隠したい。読者が感情移入する余地がないから。参考「月天心貧しき町を通りけり 蕪村」。
山下公園
C しづしづと電飾の艇月の湾         由美
・「電飾」と明月がかち合って抒情を損なってしまった。


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