わくわく題詠鳩の会


鳩の会会報110(令和4年7月末締切分)
兼題 御祓(みそぎ)・蝉
【Advice】今回は「カレンダー茅の輪くぐりを終へて切る」という一句が生まれたことをよろこび、それ以外については言及しなくてよい気がします。この句にはボクも含めて、皆さんにめざしてほしいで境地があります。それは芭蕉も蕪村も一茶も脱帽するであろうという意味であります。こういう句を読ませていただいたことに感謝いたします。
句はABC三つの符合で評価しています。その意味するところは以下の通りです。
A:省略が利いて、抒情あきらかな句
B:季感が備わるスケッチ
C:焦点定まらぬつぶやき
A カレンダー茅の輪くぐりを終へて切る     和子
・このカレンダーは「月めくり」のそれでしょう。茅の輪くぐりは六月三十日(一定の期間を設けている場合もある)。それがわかれば、この句の奥深さがわかる。わからない人は他のどんな名句も理解できないだろう。名句とはこういう句のことである。
B 若者のさつさと潜る青茅の輪      ひろし
・茅の輪は青カヤを編むことも多いから、わざわざ「青茅の輪」と言わなくてもよいのだが、わざわざ「青」ということで「若者」と響き合う結果になった。副詞「さつさと」と共に作者の腕前。
B 御祓する旅の果てなる瀬戸の島     梨花
・「瀬戸の島」が意味ありげなまま、謎と化している。
B 忖度はよき言葉なり夏祓         千年
・「忖度はよき言葉」には賛成だが、わたしの学んだ俳句では「夏祓」はやや遠い配合。
B 十二時に黙祷一分蝉しぐれ    ちちろ
・慰霊式典などであろうか。前書きでもよいから、もう少し手掛かりがほしい。
C 御禊して行つたつもりの北の国     紅舟
・この「御禊」は「御祓(みそぎ)」というより、一般的な「禊(みそぎ)」の意で感染症対策を寓意させたか。結局行ったのか、行かなかったのかが曖昧。
C 形代の鉛筆強しこすれあり     光江
・大祓では浄めに形代(人形)をもらい、それに名前と年齢を書く。その鉛筆であろうが、「強し」はコワシかツヨシか、「こすれ」はどこか。
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A 大空の下の大木蝉しぐれ      蛙星
・大景から近景への絞り込みや、「大」という字の繰りかえしに表現上の腕前を感じる。
A 故郷の大楠木の蝉時雨     鹿鳴
・眼前か記憶かをはっきりさせたいところだが、余韻はある。
A 夕蝉や酒場の灯りぽつぽつと    真美
・この作者にこんな句を詠む時代が来たとは。
A 蝉時雨走り回つた祖母の家     京子
・捨てがたい懐旧。「祖母の家」で助けられているが、同時に手ぬるい印象も与える。
B 朝靄や序曲のごとく蝉時雨     瑛子
・明らかに「蝉時雨」の句ゆえ、「や」と切らずに「朝靄を」とすれば首尾整ってA 評価になる。この点を熟慮いただきたい。
B 羽化をして殻より大き蝉であり     海星
・蝉の羽化とはこのようなものではある。
B 遺言を書くしづけさや蝉しぐれ    つゆ草
・淋しすぎる景色。できればこの景色を脱したい。
B 真夜中に浮かぶ白さや蝉の羽化      喜美子
・幻想的な真夜の羽化。「浮かぶ」はいらないなあ。
B 夕蝉の声にひと日を鎮めけり     馨子
・「鎮めけり」は重たいなあ。
B 砂まみれ子の足拭ふ蝉の声     エール
・「拭ふ」はいらないなあ。
B 裏口を回り夕蝉鳴き始む      香粒
・「裏口に」だろうなあ。
B 雨止みて蝉時雨渦襲ひ来る     美雪
・「渦襲ひ来る」はいらないなあ。
B 唐突に落下す蝉のジジと鳴き     貴美
・「唐突な蝉の落下やジジと鳴き」かも。
B せみ達も涼を求めて木陰へと     ミチヨ
・素直でよろし。確かに暑い毎日です。
C 刻みなく蝉よ気だるき夕ごころ     憲
・〈何かを刻むように鳴く〉という意だろうか。このあたり、やや曖昧。
C 蝉なくや樹の一方に朝日さす    美知子
・蝉が鳴くことと、日の出とをもう少し強く結びつけたい。
C 初蝉や茶筅無心に動かする     由美
・せっかくの「初蝉」なのだから、「少し茶筅の手を止めて」くらいの方が情味が出る。
C いがぐりの肩で泣く泣く油蝉     ひぐらし
・「いがくり」が文字通り毬栗なのか、それとも坊主の丸刈り頭なのか読みとれなかった。
C 白き腹天に転がる蝉埋める     静枝
・「天に転がる」がイメージ出来なかった。


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