わくわく題詠鳩の会


鳩の会会報107(令和4年1月末締切分)
兼題 氷柱・金目鯛
【Advice】 少しお付き合いのある著名な俳人が、「よい句か、わるい句かの判断は1秒で足りる」といっていた。ボクにそんな芸当はできないが、言わんとすることは理解できる。1秒でわかるのは景色である。景色は美しい言葉を連ねても描けない。整った表現になって初めて景色が見える。省略は整った表現にするためであって、十七拍に縮めるための作業ではない。今回の作品を拝見して、そんなことを考えた。振るわなかった人は景色の整ったA評価の句に学んでみてください。なお、「ここ数年忙しい日常が続いて、参加がむずかしかった」という啓子さんから、久しぶりに「裸木・氷柱・金目鯛」を題とする3句の投句があった。「鳩の会」は「二つの兼題から一題を選び、一句を投句」がきまりだから、ルール違反だが、これも忙しさのあらわれと理解し、このたびは兼題の二句を選の対象とした。あしからず。
句はABC三つの符合で評価しています。その意味するところは以下の通りです。
A:省略が利いて、抒情あきらかな句
B:季感が備わるスケッチ
C:焦点定まらぬつぶやき
A 日向から日陰へ長き氷柱かな     真美
・詩の手本。「氷柱」が生きものの如し。目を奪われるほど。景色も抒情も語法も非の打ちどころなし。
A 床上げの朝眩しき氷柱かな   ひぐらし
・詩の手本。作者の境涯ではなさそうだが、それに匹敵する「氷柱」の存在感。
A とけ初めし氷柱のごとき旅心    エール
・解けはじめた氷柱の雫を「旅心」とは美しい。感染症下でますます同感。
A 一滴の目薬のごと氷柱溶け     和子
・それることなく、上手に目に落ちてくれる感じが出ている。
A 奧山の流れを止めて氷柱かな    喜美子
・「奥山の流れ」がいい。「止めて」で詩になった。
A 歪みたるわが顔映る氷柱かな    ちちろ
・結晶度の高い氷柱なら鏡になりそうだ。歪んだ自分の顔という観察がおもしろい。
A 宿の軒氷柱の見ゆる朝餉かな     貴美
・旅宿の朝食とみた。予想通りの旅ができている充足感あり。
A 秘密基地防空壕に氷柱かな     鹿鳴
・旧防空壕に作った子どもの秘密基地と解した。「氷柱」で哀れ深い味わい。
A 水撒いて峡の氷柱を育てけり     海星
・職人仕事という、秩父芦ヶ久保の氷柱を想像した。「けり」でなく「たる」の方が臨場感あり。
A 氷柱伸ぶ朝のひかりのひとしづく    啓子
・解けゆく水は「氷柱」を伸ばす水でもあるところおもしろい。
B 生まれつつ氷柱日に舞ふ軒の先    由紀雄
・報告に終わっている。
B 大氷柱わが心音の高鳴りぬ    ひろし
・「心音の高鳴り」がどんな主観の反映かわかりにくい。
B 紅潮の頬に氷柱の白きあと       光江
・こんなことをして遊んだ記憶はある
B 氷柱取りし子の笑くぼ輝きけり   しのぶこ
・拍数が整っていない気がする。
B 二刀流氷柱両手にチャンバラを     美雪
・相手に折られたら負け。雪国育ちには経験のある情景。
C これがその氷柱なのかと触れてみる      蛙星
・読者にどんな「氷柱」なのかが届かない。
C 袋田はしづくも滝よ氷柱群る      憲
・報告に終わっている。
C 刃物のごと氷柱を鞘で覆ひたし     紅舟
・詠みたいことは「氷柱」の鋭さ、それとも寒さか。
C 朝日浴び氷柱きらめく乳しぼり     由美
・「乳しぼり」は比喩か実景か迷う。
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A 金目鯛尾びれ飛び出し煮付けかな    ミチヨ
・飛び出す尾びれで高級魚らしい味わいがでた。語法的には「飛び出す」がいいね。
A 金目鯛魚嫌ひが平らげる         京子
・「魚嫌ひが平らげる」で高級魚感が出た。金目鯛も本望でしょう。
A 竜宮の乙姫のごと金目鯛      梨花
・これは泳いでいる姿とみたいね。
A しばらくは見つめ合ひたる金目鯛    啓子
・豪華さに、しばらく箸をつけられないという心か。
B 金目鯛鈴張るまなこそつと煮る     香粒
・「金目鯛鈴張るまなこ」だけで詩。特に「鈴張る」は美しい日本語の財産。「そつと煮る」を言外へ出せるとよいのだが。
C 覗かれし室戸深海金目鯛         千年
・正確には「室戸深海の」であろうか。そう迷わせる点に少し難あり。
C 亡姑仕こみ濃い味付けの金目鯛    美知子
・報告に終わった。
C 金目鯛大きな皿を海原に         瑛子
・「大きな皿を海原に」がわからなかった。しばらくして、大皿を海原のようにみせて、立派な金目鯛の料理が出ている景と思えてきた。難解なのは「海原に」が舌足らずのせいか。
C 金目鯛こつてり味は母の愛    つゆ草
・報告に終わった。
C 半身ずつほぐす金目鯛温し      窓花
・報告に終わった。


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