鳩の会会報104(令和3年7月末締切分) |
兼題 蝸牛・青林檎 |
【Advice】蝸牛といえば、「蝸牛の歩み」とか「蝸牛角上の争い」などと知識に走ってしまいがちだが、夏の景物として暮らしの中に再発見するほうが新鮮。その意味で、墓参の際に目撃した「父母にあひたし」や、「学童の傘で」覆われた句は一つの手本といってよい。 青林檎は、熟さない林檎と、品種として青いが十分甘い林檎とがあって難しい。こんな場合も、結局は「アトリエの夜」や林檎の「小包」のように平易な描写を心掛けて、逆にいえば「若々しい」とか「新鮮」という見立ては避けて、鑑賞は読者の想像力にゆだねる方がよいと思う。 句の評価にABC三つの符合を用いています。その意味するところは以下の通りです。 A:省略が利いて、抒情あきらかな句 B:季感が備わるスケッチ C:焦点定まらぬつぶやき |
A 父母にあひたし墓の蝸牛 喜美子 ・実情、つまり人生で大事なことに触れている。貼り付いている蝸牛が切ない。 |
A 学童の傘で覆ふやかたつむり 光江 ・物語の一点を描写して余韻あり。詩はこれでよいのだと思う。 |
B 騒がしい巷をよそに蝸牛 エール ・退職後の私の日常を覗かれたのかと、ヒヤリとした。 |
B 蝸牛亀より速いかもしれぬ 千年 ・きわめて遅いことを「蝸牛の歩み」というが、観察すると亀よりは早いかもしれぬという発見。 |
B でで虫や水滴々の四目垣 憲 ・一景ではある。「滴々」は擬態語だから漢字は避けて、「たらたら」と平仮名が望ましい。 |
B 防潮堤闇夜を急ぐかたつむり 梨花 ・一景ではある。「急ぐ」が蝸牛の常識から逸れる点が惜しい。 |
B かたつむり屈んで見る子にVサイン 美知子 ・蝸牛の角をVサインと見立てたのならば、童心といってよい可愛らしさ。 |
B 隠棲をあこがれてゐるかたつむり 海星 ・蝸牛はすでに隠棲の姿である。では憧れているのは作者か。そのあたりやや曖昧。 |
B 濡れそぼつ葉裏に二匹かたつむり ちちろ ・蝸牛は雌雄同体ゆえ、この二匹は恋人同士ではなさそうだ。とすれば、たまたま一枚の葉裏に二匹いるのか、二匹は別々の葉にいるのか、そのあたりで戸惑う。 |
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A アトリエの夜の静寂や青林檎 瑛子 ・青林檎を核にした宇宙が描かれた。アトリエという枠組みが知的である。 |
A 小包の母の手紙と青林檎 ふうせん ・人生で大事な事柄を詠んでいる。 |
A 青りんご半分づつに仲直り 偲子 ・青りんごで、若々しい二人と思われる。 |
B 青林檎ベンチに風が吹いてゐて 鹿鳴 ・林檎園か、ベンチの人の手の上か。青林檎の場所が不安定。 |
B 触れる子も首すくめたりかたつむり 由紀雄 ・子どもの領分を描いた一服の絵。 |
B 青りんご見れば浮かるる咀嚼音 蛙星 ・なぜウキウキするのかが曖昧。 |
B 青りんご食みても口を開かぬ子 ひろし ・どんな子なのか、今ひとつ曖昧。 |
B 団塊の加齢なぐさめ青林檎 静枝 ・青林檎を配合したねらい曖昧。「なぐさめ」は「慰めてくれて」か「慰めよ」かが曖昧。 |
B 白みゆく夜汽車の窓辺青林檎 ひぐらし ・車内か車外の景色か、青林檎の位置が曖昧。 |
B ママごめん酸つぱいと置く青林檎 和子 ・子育てに見られる一景。 |
B ひととせをめぐる重さや青林檎 かりつ ・林檎の熟してゆくプロセスか。 |
B はしか枕辺ほうじ茶と青りんご 由美 ・伝染病「はしか」の子の看病の景か。但しこの解釈に自信がない。 |
B 無人駅渋く酸っぱや青林檎 美雪 ・なぜ無人駅なのだろうか。 |
B アルバムにあの日の笑顔青林檎 千寿 ・青春時代を青林檎に見立てたか。 |
B 高校一年制服きりり青林檎 紅舟 ・青年を青林檎に見立てたのだろう。 |
B スケボーの選手は十代青りんご つゆ草 ・青年を青林檎に見立てたのだろう。 |
B 青林檎波を捉えて銀メダル ミチヨ ・青年の五輪選手を青林檎に見立てたのだろう。 |
C 青林檎かじり胎動増しにけり 真美 ・こんなことがあるのだろうか。胎動の語は読者を戸惑わせる。 |