鳩の会会報103(令和3年5月末締切分) |
兼題 兼題 萍(うきくさ)・父の日 |
【Advice】萍は「不安定」とか「定めなき世」を本意(まごころ)とする歌語だから、「誘ふ水あらばいなむ」(小町・古今集・雑歌)とか、黒主と小町の歌合事件(謡曲・草紙洗)などは教養として身につけて句作に臨みたい。「目立たない花」「浮遊植物」「強い繁殖力」などもこの季題のイメージだろう。 「父の日」は季題とされて日が浅いので(戦後にアメリカから移入とか)、本意に価する昇華したイメージはない。すなわち著名句もない。まだ歳時記に立項すべきではなかったと思うほどだ。こういう場合は「感謝の念」という〈まごころ〉を素直に詠む努力を重ねるしか道はない。よって、そこを逸れる表現は一律にC評価とし、コメントは付けなかった。心底を推しはかりくだされば幸い。 句の評価にABC三つの符合を用いています。その意味するところは以下の通りです。 A:省略が利いて、抒情あきらかな句 B:季感が備わるスケッチ C:焦点定まらぬつぶやき |
A 萍や時が止まったままの今日 エール ・パンデミックの現状を前置きせずとも不安が伝わる句。 |
A 萍やめぐりめぐつてまた此処に ふうせん ・自分の人生と萍が重なって美しい句。 |
A 萍や古城の堀を三味の音と 窓花 ・「古城の堀」も「三味の音」も「萍」とまことによく似合う。似合いすぎて古風にみえるのが残念。 |
B 萍や雨の力をもらふ朝 偲子 ・水中植物ゆえ「雨の力」は効果的な配合でない。 |
B 萍の花とて住めば都かな ひぐらし ・「萍の花」の所在が今ひとつ曖昧である。 |
B 舫い舟花萍が通せんぼ 和子 ・「舫い舟」なら「通せんぼ」ではない気がする。 |
B 小風来て浮草割れば白き雲 由紀雄 ・水面に映る雲であろう。 |
B 為すがまま為されるままや根無し草 つゆ草 ・「為すがまま為されるままや」という思いが萍に覆い被さり、気が重くなる。もう少し、明るいところを発見したい。 |
B 萍に置き忘れたる笹の舟 梨花 ・岸辺で遊んでいた笹舟が萍にとどまっている景色か。 |
B うきくさの如く生きてく人の群れ 直子 ・萍の本意そのままゆえ、説明的で物足りない。 |
B 萍の揺れる気配に目をこらす 喜美子 ・たしかに、その下にはきっと何かが生きていると思ってしまいますね。 |
B 浮き草やその日その日のありどころ 光男 ・これも、本意そのものゆえ、説明的でもの足りない。 |
B 萍や濃き緑分け亀動く ちちろ ・ありそうな景色ではあります。 |
B いりあひや緑も暮るる根無草 憲 ・入相時のありふれた景ゆえ、やや物足りない。 |
B 萍の空映す水ささなみに 香粒 ・焦点が「萍」から逸れてしまった。 |
B 萍に何かが鳴ける逢魔時 由美 ・「逢魔時」という強いことばに「萍」が負けてしまった。 |
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B 老ヨゼフ父の日の膳に着きたまふ 瑛子 ・「父の日」が行事として生活の中に入ったのは1900年代以降のことだから、キリストの時代になじまないが、抒情は生まれている。 |
B チラシ見て父の日今日と再確認 ミチヨ ・「父の日」と無縁になった日々に、ふと在世のころを偲んだか。 |
B 父の日や小遣ひあわせハンカチを 美雪 ・子どもたちがわずかなお金を持ち寄って、精一杯の感謝を伝える。 |
B 菊正や父逝きていつも父の日 静枝 ・亡き父の好んだ菊正宗とみた。ただし下五が舌足らず。 |
B 父の日を一度祝ひしことあらん 千年 ・現在推量「らん」でよいだろうか。 |
B 父の日や声の聞きたし写真帳 貴美 ・詠嘆「や」と願望「たし」の二箇所で切れている。一箇所にできるはずゆえ挑戦を。 |
B 父の日や子等ジャンケンの肩車 紅舟 ・肩車は父の日に限らないが、甘えることも感謝のカタチ。。 |
B 父の日は幼き日々の肩車 京子 ・「父の日や」か「父の日の幼き日々や」のいずれかにしなければ時間的な位置が定まらない。 |
C 父の日の父の遺影の厳めしく ひろし |
C 父の日や父らも日々をひたむきに 鹿鳴 |
C 父の日よよく聞いた島今リゾートよ 美知子 |
C 父の日のエッセンシャルワーカーに告ぐ 真美 |
C 父の日や思ひ出すのは母のこと 海星 |
C 父の日のいつもと同じ善き日あり 蛙星 |