鳩の会会報102(令和3年3月末締切分) |
兼題 蕨・残雪 |
【Advice】「わくわく題詠鳩の会」下段の「鳩ノ会の歴史」を見ると、「自分の俳句の良し悪しを(自分で)判断する力を養うことを目的とする題詠句会」とある。繰り返しになりますが、そのためには自分の句に与えられた評よりも、他者の句に添えられた評が勉強になるかも。「世の中捨てたものじゃない」という作者の思いが伝われば高評価しているつもり。いま、生きて、共にここにあることを喜ぼうではありませんか。 句の評価にABC三つの符合を用いています。その意味するところは以下の通りです。 A:省略が利いて、抒情あきらかな句 B:季感が備わるスケッチ C:焦点定まらぬつぶやき |
A 早蕨や昔牧場なりし山 鹿鳴 ・旧事追懐。春の到来に陰影を添えて優し。 |
A 門前の店はひつそり干蕨 貴美 ・静けさと干し蕨が似合う。 |
A わらびなど摘みにゆきたし日和下駄 笙 ・よい天気にはく「日和下駄」がまことに効果的。 |
A 早蕨や生家の祖母は名産婆 つゆ草 ・「早蕨」と助産師との取合せはあやうい気もするが面白い。 |
A 採れすぎた蕨は店の自販機へ 和子 ・ありそうな日常で面白い。 |
A 人還る土の色かも干蕨 千年 ・実感が備わる句。泣き言になっていない点もよい。 |
A 早蕨やふと立ち寄つた道の駅 エール ・春の到来の実感。「ふと立ち寄つた」がうまい。 |
B ボタ山の脇にも萌ゆる蕨かな 窓花 ・「脇にも」の「も」がなければ、鹿鳴氏の「早蕨や昔牧場なりし山」に匹敵する佳句だが残念。 |
B 丹沢の早蕨うれしお裾分け 瑛子 ・お裾分けしたのか、されたのか。 |
B 早蕨やよきへだたりに山ふたつ ひろし ・「よきへだたり」が漠然としている。 |
B 早蕨に拳並べて天を突く 喜美子 ・「早蕨の」「早蕨は」「早蕨や」のいずれかであって、「早蕨に」ではない気がする。 |
B わらび採りぽきりと折れしところよし 美雪 ・心地よさを詠んだのだろう。「ところ」でなく「音」とする手もある。 |
B 生き生きと話題は蕨語る母 京子 ・「生き生きと」とあれば「語る」は要らないのだが。 |
B 幼な子の手に早蕨のうぶ毛映ゆ 由紀雄 ・なぜ「幼な子」か。世間で「うぶ毛」というようだが適切でない。綿毛がよいか。 |
C ちがふ葉の陰にひょっこり鉢蕨 香粒 ・「ちがふ葉」曖昧。 |
C あれつ蕨摘みし歓声きのうのごと 静枝 ・実はいつのことなのか、曖昧。 |
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A 残雪を農事暦に納屋あける 紅舟 ・季節の表情は農事に欠かせない情報なのである。 |
A 五合庵になほ堆し去年の雪 ひぐらし ・越後は国上寺の塔頭の一つで座禅修行空間。良寛が二十年余り住んだ。 |
B アパートの外に珍し残る雪 蛙星 ・なぜ珍しいのか曖昧。 |
B 残雪や北アルプスの明け渡る ふうせん ・ステレオタイプというのか、いかにも「北アルプス」らしい点がもの足りず。 |
B 残雪や野原さまよふ北きつね ちちろ ・これもありふれた景。発見がほしい。 |
B 雪形や水車の零すひかりの輪 海星 ・「雪形」と「ひかりの輪」は結びつきがあるようで、実は分離してしまった。 |
B 残雪を朱に藍に染め富士暮れる 美知子 ・これも夕富士の一語で片付いてしまう。抒情がほしい。 |
B 残雪や山を背にする道の駅 偲子 ・語法的には「残雪の山を」でしょうね。しかし、そうすると絵葉書で終わってしまう。 |
C 残雪に唱ふ園児の川堤 梨花 ・なにを唱えているか、なぜ川堤なのか不明瞭。 |
C ものごころに伊吹おろしよ残雪よ 憲 ・「ものごころに」がわからなかった。 |
C クレバスのごとく這ふ跡残る雪 真美 ・「クレバス」は「這ふ」のでなく、裂ける(割れる)のではなかろうか。 |
C 澄みわたりべにの大山残る雪 ミチヨ ・「べにの大山」がわからなかった。オオヤマ、それともダイセン。「べに」は花か。 |
C 地に花々や残雪の富士そびゆ 由美 ・「地に花々や」が熟さない表現。蕪村に「富士ひとつ埋み残して若葉かな」。 |
C 残雪を一枚剝げば角五つ 直子 ・「角五つ」が難解。ツノかカドかスミか。 |