わくわく題詠鳩の会


鳩の会会報100(令和2年11月末締切分)
兼題 霧・ 草花
【Advice】鳩の会は今回が記念すべき100回目なんですね。ちょっとした歴史ですね。
さて、このたびは全五句にAが付きました。教材としてすぐれている作品ですから、皆さんで共有して、充実した日々に繋いでください。
ところで、俳句に季の言葉が求められる理由は何でしょうか。その一つは〈なにごとにも時がある〉ことを教えるためではないでしょうか。生まれるにはそれにふさわしい時がある。死ぬにもそれにふさわしい時がある。起きる、眠る、しゃべる、黙る、すべてにふさわしい時がある。そのことを承知して四季の移ろいと向き合えば、冷静に、客観的になれる。景物に誠意を以て向き合えば、その態度が〈主観〉を抑えてくれる。〈私の感性は特別であるという思い込み〉を制御できる。逆に〈私とあなたは同じなのね〉という気持ちになって、人間関係を含めた自然と一体化することができる。鹿鳴さんの「太笛をのみこむ霧の深さかな」という句は、そのよいお手本のように思いました。
句の評価にABC三つの符合を用いています。その意味するところは以下の通りです。
A:省略が利いて、抒情あきらかな句
B:季感が備わるスケッチ
C:焦点定まらぬつぶやき
A 太笛をのみこむ霧の深さかな   鹿鳴
・太笛は宮廷神楽の笛と教わっているが、この作者の職業からみて、ここは船の汽笛か。「のみこむ」という言葉の発見で、霧に生命がこめられた。
B 霧深き嶺には竜が棲むといふ     笙
・「棲む」を超える物語がほしい。
B 霧しぐれ伝ひ歩きの道を行く   香粒
・伝い歩かねばならぬ理由が霧とも、それ以外ともとれるのが惜しい。
B 霧を行く羅針盤なき小船かな   海星
・「羅針盤なき小船」に寓意が込められていそうで鑑賞しにくい。小舟に羅針盤がないのは普通ではなかろうか。
B 面会をさせぬウイルス霧の中   千年
・この「霧の中」も、特に今年は寓意のようなものが見えて、鑑賞しにくい。
B 炭捲かぬ立坑ぽつと霧に浮き   由紀雄
・「炭捲かぬ」が難解。私は炭坑町に育ちゆえ、閉山の廃坑の景色を思い浮かべる。とすれば「炭」はタンか。
B 朝霧を纏ひ手を振る別れかな   エール
・「纏い」を捨てる方向で再考すればよい句になりそう。
B 朝霧や水面すべりつ飛びつ消ゆ   美雪
・滑る、飛ぶ、消えるという三点は多すぎて焦点が定まらない。
B 朝霧の後の日差しやバスを待つ   貴美
・焦点が朝霧から逸れているきがする。
B 身延山全山霧に火が灯る       和子
・「全山の霧に灯して身延山」のように久遠寺を下五に据えると安定感がでる。
B 朝霧や外湯めぐりの下駄の音   ひぐらし
・「や」で切らない方が凝縮度が増す。下駄の音は他者か、自分か明確になるとよいのだが。
C 摩周湖のいずみ隠れし霧の中   美智代
・「霧の摩周湖」で済むのではなかろうか。
C ミルクなる霧のパーカー生徒来る   瑛子
・「ミルクなる」は「ミルク色の」と解してよいか。パーカーは霧の見立てか、生徒の服か。冬季の言葉のようで不安。
C 薄霧に落日淡く道すがら   憲
・「道すがら」が不要。つまりもっと霧の描写が必要。
C 砂子模様の色紙の余白霧の海   紅舟
・実際に見ているものは色紙か、霧の海か。凝縮度が不足。
C 影追いつ霧のロンドン駅目指す   静枝
・作者はロンドンで学んだ経験があると聞くが、その主観がまだ強くて、感動の焦点が定まっていない。
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A 草の花今日の命に宿す露   梨花
・季重ねだが、気にならないのは作者の実力。命に不可欠な露という洞察は美しい。
A 草の花時折風の友がゐて      京子
・風の友に曖昧さがあるが情は深い。「友が来て」という手もある。
A 歩くこと課して十年草の花   ひろし
・「歩くこと」と「草の花」の強い結びつきに作者の力を感じる。
A 家にゐることが孝行草の花   真美
・コロナ渦の現状を詠んだのだろうが、そうでなくても余韻ある句。添えものとしてでなく、草の花そのものを詠めるようになるとよいのだが。
B 無人駅線路の際に草の花      ちちろ
・草の花の居場所としてはありふれている。
B 箱根路や母と訪ねし草の花  喜美子
・母と訪ねしころに変わらぬ草の花というように、「変わらぬ」などを入れると、過去と現在が繋って抒情を増す。
B 野の花や旅路彩る安らかに   窓花
・「安らかに」が何の描写かあいまい。
B それなりに良き人生や草の花   千寿
・「それなりに」を捨てる方向で再考すればよい句になりそう。
B お店ごっこ葉に山盛りの草の花   光江
・「お店ごっこ」に代わる言葉はなかろうか。過不足はないのだが、なぜか締まりがない。
B 分かち合ふ人なきときや草の花   しのぶこ
・「分かち合ふ人なきとき」という自分へのこだわりを捨てて、草の花そのものを描写してほしい。
B 犬の墓牛乳びんの草の花     由美
・焦点がずれるから、牛乳瓶は捨てたい。犬の供養とはおそらく無関係ゆえ。
C 素のままでいい居場所はここよ吾亦紅   美知子
・草の花という題は千草の花をいう(つまり吾亦紅は対象外)。でも「素のままでいい」という措辞は捨てがたい。また「ここよ」は要らないので、これを捨てて再考をおすすめします。


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