□日時 2024年2月24日(土)
□会場 カルテモのオフィス(葛西)
〈 俳 話 少 々 〉
1月の「集い」で話した芭蕉の「とりはやし」論は〈つまるところ、俳句(発句)は季節の詞と、それ以外のものとの配合である。だが二者を並べればよいわけじゃなく、主観を以て相互映発する工夫をしなければダメ〉ということでした。
このミニ講義を納得、感心してくれた人は多い。でも、理屈がわかれば、すぐ実践できるというものでもない。めげずに句作を楽しむことが大切である。
このたびの海紅選に「ベンチにはランドセルあり春寒し」「置き去りのテニスボールや春寒し」の二句が含まれていた。句会終了後に作者の理恵子さんがボクに〈どうして選ばれたか分からない〉〈自分の句のどこがよいか分からない〉とつぶやいた。
前者は「春寒し」と「ベンチ」、後者は「春寒し」と「テニスボール」の配合(取り合わせ)。読者は読後に、〈ランドセルの持ち主の小学生はどこで何をしているのだろう〉と思わせる。〈テニスをしていた人はどうしちゃったのか〉と思わせる。それが「とりはやし」で「春寒し」の世界を豊かにしている。でも、それを作者自身がわかっていない。こういう例はままあることだが、こうして説明すれば作者はむろん、作者以外の人も理解を深めてくれるのではないか。そんな期待で長めの「俳話少々」になってしまった。
<海紅記>
〈 句 会 報 告 〉
互選は三句投句、五句選の結果です。ただし、海紅選と梨花選は詩情の有無を優先して、五句を超える数を選んでいますので、互選の点数に含めてはおりません。なお、一部の作品について、作者の意図をそれない範囲で表現を改めたものがあります。<海紅記>
☆ 谷地海紅選 ☆
節分会今日は生き生き過疎の寺 | 静枝 | ||
梅開く庭で一服椅子も出し | 静枝 | ||
目覚めれば故郷の音雪解川 | 喜美子 | ||
リハビリや杖をコツンと梅を見に | 喜美子 | ||
孫ふたり大学入試神頼み | 紅舟 | ||
あたたかや迷ひ迷ひてカルテモへ | 紅舟 | ||
バレンタイン大きい方が息子宛 | 千寿 | ||
風光る忠敬像は歩くごと | 千寿 | ||
ベンチにはランドセルあり春寒し | 理恵子 | ||
置き去りのテニスボールや春寒し | 理恵子 | ||
春炬燵妻の寝床に成り果てぬ | 安愚楽 | ||
橋渡り坂を上つて春の猫 | うらら | ||
冴え返る水琴窟の響きかな | 馨子 | ||
手作りのふつくら顔の雛飾る | 京子 | ||
春風や検査帰りの背中押し | 玄了 | ||
寒明けやごみ収集の若き声 | 笙 | ||
春一番江戸前あなご握り寿司 | ひぐらし | ||
春めくやメトロ路線図なぞりをり | 真美 | ||
オフィスの机に今日からチューリップ | 光江 |
☆ 根本梨花選 ☆
節分会今日は生き生き過疎の寺 | 静枝 | ||
冬の田や古代に続く煙立つ | 静枝 | ||
春風や検査帰りの背中押し | 玄了 | ||
番傘で男一人の花見かな | 朗子 | ||
オフィスの机に今日からチューリップ | 光江 | ||
春霞富士ぼんやりと車窓から | 美雪 | ||
銀髪におちよぼ口していちご狩り | 朗子 | ||
親しきは長女が多し黄水仙 | うらら | ||
春炬燵妻の寝床に成り果てぬ | 安愚楽 | ||
父の切る髪不揃ひに春日和 | 糀 |
☆ 互選結果 ☆
6 | 節分会今日は生き生き過疎の寺 | 静枝 | |
5 | 八万羽の雁の帰りし沼の黙 | 梨花 | |
4 | 目覚めれば故郷の音雪解川 | 喜美子 | |
4 | 父の切る髪不揃ひに春日和 | 糀 | |
4 | 津波引き浮寝の鳥の海となる | 月子 | |
4 | 春立つ日背を射る光独り占め | 美雪 | |
3 | 前面に海をひらきて暖かし | 海紅 | |
3 | 手作りのふつくら顔の雛飾る | 京子 | |
3 | 癇癪の子のうす目開くしやぼん玉 | 糀 | |
3 | かがよひて春の予感の波間かな | つゆ草 | |
3 | 白梅のすき間すき間に光る海 | 梨花 | |
3 | 手から手に祖母と丸める餅の花 | 梨花 | |
2 | 親しきは長女が多し黄水仙 | うらら | |
2 | 信号待つオープンポルシェ梅の風 | 瑛子 | |
2 | 語らひの部屋はそのまま雛飾る | 京子 | |
2 | 番傘で男一人の花見かな | 朗子 | |
2 | 雪もよひ輪島で買ひし塗りの椀 | 月子 | |
2 | 梅一輪一行のみの日記かな | 宏美 | |
2 | 置き去りのテニスボールや春寒し | 理恵子 | |
2 | ふきのたう老いの秘め事ほろにがく | 朗子 | |
1 | ひめやかにみいる絵巻や風光る | 笙 | |
1 | 寒明けやごみ収集の若き声 | 笙 | |
1 | スマイルの似合ふ駅前梅三分 | 蛙星 | |
1 | 卒業期恋とは呼べぬ恋もあり | 蛙星 | |
1 | 春光や句会の朝の汁旨し | 貴美 | |
1 | 春野菜売る人の声や寺の道 | 貴美 | |
1 | 風光る忠敬像は歩くごと | 千寿 | |
1 | 春めきて目当ての靴は売り切れに | 千寿 | |
1 | 深川の法螺貝響く春を待つ | エール | |
1 | 春暁や旅の行程つらつらと | エール | |
1 | なにかしら生きづらさ来て日向ぼこ | 安愚楽 | |
1 | 橋渡り坂を上つて春の猫 | うらら | |
1 | 老桜や羽を休ませ芽吹きたり | 馨子 | |
1 | 春風や検査帰りの背中押し | 玄了 | |
1 | 銀髪におちよぼ口していちご狩り | 朗子 | |
1 | 草の芽に遠き追ひかけどなたかな | 蕾花 | |
1 | 街路道裸木続き空高し | 春代 | |
1 | 早春の句会に季語の定まらず | 紅舟 | |
1 | 春浅しバターの香満つパティスリー | 真美 | |
1 | 巣立つ子のリメイク鞄テディベア | 光江 | |
1 | 流氷や漁師の歌ふ北帰行 | 悠 | |
1 | 春光や耳さす風のすべり台 | 由美 | |
1 | 梅東風や我が背の君の心恋し | 窓花 |
☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、青柳光江、今関理恵子、荻原貴美、尾崎喜美子、尾見谷静枝、梶原真美、
椎名美知子、世羅安愚楽、高橋千寿、谷美雪、丁子蕾花、月岡糀、内藤玄了、根本梨花、舩坂朗子、三木つゆ草、水野紅舟、村上エール(以上19名)
☆ 欠席投句者 ☆ <順不同・敬称略>
植田ひぐらし、宇田川うらら、大江月子、加藤悠、倉持宏子、丹野宏美、佐藤馨子、
里中蛙星、西野由美、備後春代、古崎笙、眞杉窓花、森田京子、谷地元瑛子
(以上14名)
<取りまとめ、エール記>
< 了 >