□日時 2022年10月5日(水)~10月19日(水)、第11回ネット句会
□会場 「芭蕉会議」サイト会員フォーラム(専用掲示板)
〈 俳 話 少 々 〉
富士見市民大学(埼玉県富士見市)の依頼で、6月11日(土)の開講式に「与謝蕪村と近代俳句」という題の基調講演(公開)をした。その際、控室に世羅陽一郎(俳号安愚楽)氏が訪ねて来られ、句集『海月の涎』を恵与された。その「あとがき」を読むと、氏はわたしと同じ年齢、同じ北海道出身の文学青年で、上京後は口語俳句との縁ができたようだが、転勤族のさだめで独学で句作を続けて今日に至る。「よければ芭蕉会議を見学に来ませんか」と声をかけたところ、入会されて今回の白山句会に投句している。投句数は3句が規則だが5句投句されてきた由。幹事会に、初回ゆえのウッカリだろうからと了承してもらった。
ところで、この市民大学でわたしに割り当てられた本番の仕事は9月4日(日)から10月2日(日)まで、「与謝蕪村の世界」という全5回の文学講座であった。その第2回目であったと思う。休憩時間に慧明(ウェイミン)さんという女性が「蕪村にはわたしの国のことばが多いが」と尋ねてきた。蕪村の特色である漢文調に気づいたのであった。聞けば香港の出身という。彼女にも「興味があれば、芭蕉会議サイトを覗いてください」と話したところ、やはり入会されたようで、「会員フォーラム(掲示板)」に「初心者投稿」と前置きして「秋湿り臙脂をぼかす椅子二つ」という句を寄せたり、「海紅句抄」に感想を述べたりしてくれている。
芭蕉会議は有季定型で歴史的仮名遣いの世界だが、芭蕉に従えば「俳諧は俗語(口語)を糺す世界」であるし、そもそも歴史的仮名遣いは芭蕉や蕪村にとって現代仮名遣いであったのだから、口語俳句に関する安愚楽氏の意見は今後の俳句を考える刺激になるだろうし、中国の歴史や文学が日本の規範(模範)であったことは歴史に明らかであることを思うと、慧明さんのモノの見方にも大いに学ぶことがあるだろうと、お二人との再会を楽しみにしている。<海紅記>
〈 句 会 報 告 〉
もし俳句に清澄という殿堂があるなら、香粒さんの3句を推薦する。ITとかデジタルとかいう環境があたりまえの世界で、それが便利とか進歩という名に価することは疑わないが、〈何人もの人に手紙を書いていると、その人たちみんなに逢いたくなる〉〈わが身を託す場所をようやくみつけた心の平安〉〈野分のあとは、まだ小鳥たちも落ち着かないのか、すぐに飛び去ってゆく〉というスロー・ライフ。なんと穏やかで優しく、そしてあわれな世界であろうか。
なお、作者の意図をそれない範囲で表現を改めたものがあります。<海紅記>
☆ 谷地海紅選 ☆
手紙かく人皆ゆかし三日の月 | 香粒 | ||
行くさきの定まる安堵秋の雲 | 香粒 | ||
鳥が来てすぐ飛んでゆく野分あと | 香粒 | ||
秋夕焼けあだ名で呼んでくれし人 | つゆ草 | ||
ジェットストリーム聴きし遠き日十三夜 参考・「聞きし日遠く」とすれば百倍よくなる。 |
つゆ草 | ||
こほろぎの鳴く音や寝間の読書灯 | 貴美 | ||
愛犬の手綱を仕舞ふ野辺おくり | 貴美 | ||
けん玉に手垢の汚れ秋暑し | 蛙星 | ||
水筒のお茶あたたかく秋の暮 | 蛙星 | ||
ランドリー仕上がるまでは鰯雲 参考・「仕上がるまでの」とすれば百一倍よくなる。 |
エール | ||
母子行くかるかや揺れて夕涼し | 美知子 | ||
兄弟の笑ひじやれ合ふえのこ草 | 光江 | ||
立入禁止杭を越えゆく赤とんぼ | 糀 | ||
団塊の世代の一人秋夕焼け | 悠 | ||
土手下に自転車並ぶ鯊日和 | ちちろ | ||
喪の庭に木犀香る夕べかな | 馨子 | ||
秋めくや古書店街の並木道 | 喜美子 | ||
園児らの黄帽子の列小鳥来る | ひろし | ||
角川の歳時記重し月上る | 千年 | ||
ランナーの過ぎる風圧秋暑し | 憲 |
☆ 互選結果 ☆
10 | 秋夕焼けあだ名で呼んでくれし人 | つゆ草 | |
6 | 兄弟の笑ひじやれ合ふえのこ草 | 光江 | |
6 | 行くさきの定まる安堵秋の雲 | 香粒 | |
6 | 木犀に残る香を掃き人悼む | 海紅 | |
5 | 採血の二度目の針やそぞろ寒 | ひぐらし | |
5 | 手紙かく人皆ゆかし三日の月 | 香粒 | |
5 | 土手下に自転車並ぶ鯊日和 | ちちろ | |
4 | 半券をしをり替はりに晩夏光 | うらら | |
4 | 立入禁止杭を越えゆく赤とんぼ | 糀 | |
4 | ランドリー仕上がるまでは鱗雲 | エール | |
4 | 若き日の妻の手紙や望の月 | ひぐらし | |
3 | ランナーの過ぎる風圧秋暑し | 憲 | |
3 | 硯洗ふ父の年忌のしたく終へ | 馨子 | |
3 | 角川の歳時記重し月上る | 千年 | |
3 | こほろぎの鳴く音や寝間の読書灯 | 貴美 | |
3 | 山ぶだう手伸ばし跳んで空つかむ | 美知子 | |
3 | 五感みなゆるると解き花野かな | つゆ草 | |
3 | けん玉に手垢の汚れ秋暑し | 蛙星 | |
2 | 十六夜嘆くまいぞと黙食し | 安愚楽 | |
2 | 秋の雲ゆつくりほどき旅支度 | 京子 | |
2 | 園児らの黄帽子の列小鳥来る | ひろし | |
2 | もめごとの断りのなき望の月 | 宏美 | |
2 | 昨夜の萩今朝の朝顔見て悼む | 海紅 | |
2 | 団塊の世代の一人秋夕焼け | 悠 | |
2 | 梔子の香りは淡し返り花 | 和子 | |
2 | 和菓子屋の紺地暖簾や秋日傘 | ひぐらし | |
2 | 秋の星五十六号ホームラン | 千寿 | |
2 | 秋桜人の住まざる庭に咲き | ひろし | |
2 | 案山子乗せ軽トラの母ひと呼吸 | 安愚楽 | |
2 | 黄落のゆるゆる沈む素十忌 | 安愚楽 | |
2 | 木犀や生けし香りは儚くて | 馨子 | |
2 | 一人酒ちちろの声を友として | 光江 | |
1 | 竹林の静寂の径に秋のこゑ | ちちろ | |
1 | 藍染の灯籠の果て虫の闇 | 真美 | |
1 | 草屋根をたたく雨脚夏薊 | 和子 | |
1 | 母子行くかるかや揺れて夕涼し | 美知子 | |
1 | 天丼の南瓜狙ひし妻の箸 | 玄了 | |
1 | 塔婆建ちそつと止まりて赤蜻蛉 | 糀 | |
1 | この奥に茶畑ありぬ虫の闇 | 瑛子 | |
1 | 寂寞や真上のころと寝待月 | 憲 | |
1 | 草叢の秋盛り上げる音楽会 | 静枝 | |
1 | 露地裏の店に金色栗の菓子 | 貴美 | |
1 | 枝豆や畑仲間の香りとも | 宏美 | |
1 | 飛石の苔しつとりと初紅葉 | 真美 | |
1 | [前書】スワローズ引退セレモニーにて 去り人の底力見ゆ秋の夜 |
玄了 | |
1 | 粛々と循環のバス月夜かな | うらら | |
1 | 食糧難栗拾ひつつ下校して | 梨花 | |
1 | ちちろ鳴く終い忘れの扇風機 | 悠 | |
1 | 秋めくや古書店街の並木道 | 喜美子 | |
1 | 鳥が来てすぐ飛んでゆく野分あと | 香粒 | |
1 | それまでは狭庭の虫を聞き悼む | 海紅 | |
1 | 喪の庭に木犀香る夕べかな | 馨子 | |
1 | 朝顔の開く楽しみ今朝の色 | 京子 | |
1 | ジェットストリーム聴きし遠き日十三夜 | つゆ草 | |
1 | ゴダールは安楽死とか雁渡る | 悠 | |
1 | 瀬戸内のフェリー静かに星月夜 | 千寿 | |
1 | 野分あと鳩は小枝を咥へけり | 真美 | |
1 | 愛犬の手綱を仕舞ふ野辺おくり | 貴美 | |
1 | 十月や三冠王のホームラン | 千年 |
☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、青柳光江、礒部和子、市川千年、植田ひぐらし、宇田川うらら、梅田ひろし、大江月子、荻原貴美、尾崎喜美子、尾見谷静枝、梶原真美、加藤 悠、佐藤馨子、椎名美知子、柴田 憲、鈴木香粒、世羅安愚楽(新会員)、高橋千寿、谷 美雪、丹野宏美、千葉ちちろ、月岡 糀、内藤玄了、中里蛙星、根本梨花、三木つゆ草、森田京子、谷地元瑛子、村上エール(以上30名)
投句参加者数:30名
選句参加者数:谷地海紅 + 27名
<以上取りまとめ、エール記>
< 了 >