□日時 2022年6月12日(日)
□会場 江東区立芭蕉記念館1F会議室
〈 俳 話 少 々 〉
江東区芭蕉記念館には研究会や句会で五十年余り通っている。句作の折はいつも裏木戸が散策の出発点。威圧的な防潮壁を嫌って隅田川テラスでのんびりと過ごす。この日は五月雨で水量の増した大河をながめたが、梅雨晴れ間の暑い一日で、「五月雨の大河に夢を捨てに来し」「五月雨の大河に捨つる十余年」という、体内の汚物を吐き出すような句しかできないうちに締切時刻が近づく。それでも、会場に戻る途中で傘をさすHさんたちの話の輪に加わることができたことは幸いであった。その際に、今は晴雨兼用の傘があることを教わった。それが「雨傘の即ち日傘再会す」である。この句のみを保存し、五月雨の句群は破棄することになるだろう。五月雨の句も〈ある日の正直な私〉ではあるが、〈私という作品〉ではないからだ。吟行を試みても心が整わない日はまともな選句をする自信がない。それで、句作歴の長い根本梨花さんに無制限の選句をお願いした。 <海紅記>
〈 句 会 報 告 〉
一部の作品について、作者の意図をそれない範囲で、表現を改めたものがあります。また、制限なく選句をお願いした根本梨花氏の選、及び海紅選は互選の点数に含まれておりません。
なお、ネット環境が整わないという事情で、このたびも笙さんの投句が手紙によって届き、皆さんに選句をお願いできませんでした。いつものように、この欄を借りて御紹介のみさせていただきます。閑古鳥の句には季節や俳句に救われている作者が見えるようです。
かき氷ふかき眸とおもふとき
あぢさゐのつひのいろ香やこぬか雨
吉兆のよかんめく音や閑古鳥 <海紅記>
☆ 谷地海紅選 ☆
あいの風吹く先生の声円く | ふうせん | ||
梅雨晴の並び干さるるスニーカー | ふうせん | ||
初夏の風よ書斎の君に吹け | 真美 | ||
久々の句会嬉しき梅雨晴間 | 真美 | ||
潮の香も少し朝涼隅田川 | 千年 | ||
川岸の紫陽花ばかり鮮やかに | 糀 | ||
夕暮にあと一畳の草刈し | エール | ||
その先は夏の海へと隅田川 | うらら | ||
着水のしぶき走らせ鴨涼し | 馨子 | ||
井戸端にパパも参加の梅雨晴間 | 千寿 | ||
山桃の木もあり記念館の庭 | 紅舟 | ||
麦の秋ふつとゴッホのうかびけり | 憲 | ||
ベーゴマと蚊やりの記憶河の町 | 悠 | ||
おかはりの自由な店や雀の子 | 宏美 | ||
ソーダ水ごくりと喉を鳴らしけり | 蛙星 |
☆ 根本梨花選 ☆
雨傘の即ち日傘再会す | 海紅 | ||
五月雨の大河に夢を捨てに来し | 海紅 | ||
六月の波研ぎ澄す隅田川 | 琳 | ||
父母のおもかげ涼し鴨の川 | 琳 | ||
夕暮にあと一畳の草刈し | エール | ||
五月闇父をいたはる母の背 | エール | ||
白あぢさゐ雨を湛えて毬となり | 馨子 | ||
着水のしぶき走らせ鴨涼し | 馨子 | ||
萍や次も東の内示有り | 千寿 | ||
黴の香の古書の書き込み草書体 | 千寿 | ||
納骨の街を後にし梅雨入りかな | 京子 | ||
夏蓬摘むこと午後を満たしけり | 偲子 | ||
ベーゴマと蚊やりの記憶河の町 | 悠 | ||
ひとつぶの真珠光りて夏の葬 | 月子 | ||
万緑や人を癒して癒されて | つゆ草 | ||
規制緩和に戸惑ふ化粧夏帽子 | 紅舟 | ||
久々の句会嬉しき梅雨晴間 | 真美 | ||
あいの風吹く先生の声円く | ふうせん |
☆ 互選結果 ☆
4 | その先は夏の海へと隅田川 | うらら | |
4 | 風の香や芭蕉の影を踏みながら | うらら | |
4 | 次々と集ふ句友や青芭蕉 | 馨子 | |
4 | 薫風や書架の隅まで行き渡る | 京子 | |
4 | 片影をひろひて迷ひ句会場 | 紅舟 | |
3 | 井戸端にパパも参加の梅雨晴間 | 千寿 | |
3 | 黴の香の古書の書き込み草書体 | 千寿 | |
3 | 紫陽花の青さ染み入る雨の音 | 美恵 | |
3 | 夕暮にあと一畳の草刈し | エール | |
3 | 右左より笑ひ合ひ風薫る | ふみ子 | |
3 | リュウグウの砂紫陽花のスペクトル | 由美 | |
3 | 緊張はたちまち笑顔七変化 | 真美 | |
3 | 潮の香も少し朝涼隅田川 | 千年 | |
2 | 雨傘の即ち日傘再会す | 海紅 | |
2 | ひとつぶの真珠光りて夏の葬 | 月子 | |
2 | 舫ひ船かもめ集ひて会議かな | こま女 | |
2 | みずすまし墨一滴の大河かな | 光江 | |
2 | 青梅のかさなりあへり庵の庭 | 香粒 | |
2 | 柏餅我が身に深く武州の血 | ひろし | |
2 | 蚕豆や笑ひ上戸に泣き上戸 | 宏美 | |
2 | あいの風吹く先生の声円く | ふうせん | |
1 | 梅雨晴れや雲もうもうと路地の先 | 玄了 | |
1 | 武豊53歳、祝ダービー制覇 優駿を撫でしその手のしなやかさ |
玄了 | |
1 | ほととぎす波間の雲に消えしまま | 梨花 | |
1 | 薫風の万年橋を子の走る | 梨花 | |
1 | ベーゴマと蚊やりの記憶河の町 | 悠 | |
1 | 橋の名に堀割名残り夏柳 | 悠 | |
1 | 五月闇父をいたはる母の背 | エール | |
1 | 緑濃き蓮の浮葉に通り雨 | エール | |
1 | 草むらの手から飛び出す青蛙 | 光江 | |
1 | 門前の僧に目礼山法師 | 光江 | |
1 | 古池に句碑見つけたり木下闇 | ひぐらし | |
1 | 梅雨寒や稲荷に祀る石蛙 | ひぐらし | |
1 | 白あぢさゐ雨を湛えて毬となり | 馨子 | |
1 | 七変化足裏見せて寝釈迦仏 | 美雪 | |
1 | 砂場には子供と鳥と夏草と | うらら | |
1 | 夏は来ぬなじみのカフェは閉じたまま | 美知子 | |
1 | 梅雨晴の並び干さるるスニーカー | ふうせん | |
1 | 隅田川さすがに犬はマスクせず | 千年 | |
1 | 父母のおもかげ涼し鴨の川 | 琳 | |
1 | 雨上がり古刹を覆ふ茂りかな | ふみ子 | |
1 | 川岸の紫陽花ばかり鮮やかに | 糀 | |
1 | ソーダ水ごくりと喉を鳴らしけり | 蛙星 | |
1 | 夏蓬摘むこと午後を満たしけり | 偲子 | |
1 | 門前の葉裏におおきな蝸牛 | 喜美子 | |
1 | ふるさとは藺草畑や父祖の墓 | 月子 |
☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、市川千年、中村こま女、根本梨花、江田 琳(江田浩司)、三木つゆ草、鈴木香粒、水野紅舟、高橋千寿、青柳光江、佐藤馨子、平塚ふみ子、西野由美、宇田川うらら、月岡 糀、村上エール、荒井ふうせん、梶原真美、藤代美恵さん(体験参加) (以上、19名)
☆ 欠席投句者 ☆ <順不同・敬称略、*は動画撮影のため>
*内藤玄了、梅田ひろし、礒部和子、中里蛙星、高橋ミチヨ、丹野宏美、柴田 憲、植田ひぐらし、大江月子、加藤 悠、森田京子、備後春代、椎名美知子、尾崎喜美子、谷 美雪、大石偲子(以上、16名)
<以上取りまとめ、真美記>
< 了 >