白山俳句会会報 No.52

白山句会 白山句会報第52号

  □日時 2022年4月5日(火)~4月19日(火)、第10回ネット句会
  □会場 「芭蕉会議」サイト会員フォーラム(専用掲示板)


 ネット句会が続いて10回目を迎えました。今回は35名の投句参加がありました。
新緑がまぶしい季節となり、吟行できる日が待ち遠しいです。 <糀記>

〈 俳 話 少 々 〉

 ロシアが2月24日にウクライナに軍事侵攻して60日以上、一日たりともこの悲劇について考えない日はない。それは誰も同じなのであろう。3月末締め切りの「わくわく題詠鳩の会」の投句に、この軍事侵攻を取り上げたと思われる「逃げ惑ふキェフ励ますや百千鳥」「戦地のニュース今朝ここは百千鳥」「遠足の楽しさ奪う戦火とは」などという句があって、私は一律に〈戦争を詠むのはまことに難しい。当事者ではないから〉という感想を述べた。その後〈じゃあ、オマエならどうする〉という声が耳鳴りのように響いていた。
 4月に入り、白山俳句会の投句のために、いつものように句帳を持って散歩に出た。まず「芹摘んで蒸気機関車にも乗りて」という句が浮かんだ。過去の体験であった。さらに歩き続けると、例の〈オマエならどうする〉という耳鳴りが再発。そこで、発言の責任をとるために、今も続く軍事侵攻と向き合って、七、八句を句帳に書き留めた。
 そのほとんどはやはり当事者意識に欠けていて、ウクライナの人々に顔向けができない。それでも、いくらか一般化できたと思う「戦争のことを忘れず花仰ぐ」「花冷えや政府専用機の帰国」の二句を投じた。責任のとりかたとしては不十分だが、これならウクライナの人々に叱られることはないと思ったので、参考のために書き留めておくことにした。
 さて、このたびは「父の声母の声して山笑ふ」「目覚むれば春月かかる父母の家」という句を詠む人の選句を見てみたいと考え、その作者である千年氏に無制限の選句をお願いした。


〈 句 会 報 告 〉

 一部の作品について、作者の意図をそれない範囲で、表現を改めたものがあります。また、制限なく選句をお願いした市川千年氏の選、及び海紅選は互選の点数に含まれておりません。
なお、このたびも笙さんの投句が締め切りを過ぎて到着。何人も排除しないという流儀にそって、この欄に御紹介いたします。

もの想ふ窓にさやけし春の虹
粛々とみつ吸ふとりやつばき散る
機知あふるいまは亡き母花かがり

「さやけし」は〈はっきりと明らか〉なさま。よってもの思ひ(心配・悩み)との相性はよくない。「粛々と」は〈厳粛に〉という意で用いたのかも知れないが、「つばき散る」と理窟で結びついてしまって惜しい。花篝を通して亡き母を偲ぶのはひとつの抒情を創り出している。何もコメントがないのは淋しいので、一言そえてみました。〈海紅記〉


☆ 谷地海紅選 ☆

3 猫の耳春の光を透かしをり 馨子
88 清明の空を仰ぎて忌明けとし 馨子
22 雪柳墓碑を包みて華やげり つゆ草
38 うららかや金婚式は再来年 つゆ草
26 富士に向ふパラグライダー風光る
75 うららかや「もう1回」と紙芝居
30 目覚むれば春月かかる父母の家 千年
66 父の声母の声して山笑ふ 千年
11 間仕切りの多い駅弁桜餅 和子
13 犬ふぐりを踏んで老犬足ならし 紅舟
39 コーラスの三年ぶりの早春賦 梨花
41 ほんたうの夢への一歩梅真白 由美
52 古墳より見る古墳群風光る ひろし
53 春眠や枕踏む猫鳴く雀 月子
59 春風に押され傘寿の背を伸ばし ちちろ
81 挨拶はもとより苦手桜餅 宏美
90 雪柳仄かに夜を灯しをり うらら
91 大伽藍全山花の浄土かな 喜美子

☆ 市川千年選 ☆

1 谷中にも露座の大仏花の雨 ひぐらし(花の雨の新たなご当地名句)
3 猫の耳春の光を透かしをり 馨子(漱石も見たかと思う猫の耳)
5 ポストまで歩けば二分初つばめ ひろし(初つばめは人を元気にしてくれる)
22 雪柳墓碑を包みて華やげり つゆ草(墓碑には雪柳も合うか)
23 走る子に最後のチャイム春の風 京子(春の風は希望の風)
33 囀りや崖を見まはる消防車 月子(囀りと消防車の意外な取り合わせ)
35 戦争のことを忘れず花仰ぐ 海紅(「銃口の一つ一つに花を乗せ」)
38 うららかや金婚式は再来年 つゆ草(超うららかな今のお二人)
41 ほんとうの夢への一歩梅真白 由美(夢と梅がマッチした句)
47 叶へたき願ひのあまた紫木蓮 しのぶこ(あまたの願いと紫木蓮がマッチ)
51 曲がる毎に漁村楽しやひじき干す 瑛子(漁村の道の狭さ楽しむ)
70 いづこからともなく落花はじまりぬ ひろし(落花の無常観が広がります)
74 花冷えや政府専用機の帰国 海紅(キエフキーウと書き換える春)
86 昇進の多き内示や黄水仙 真美(昇進内示と黄水仙の取り合せの人事句の綾)
88 清明の空を仰ぎて忌明けとし 馨子(上を向いて歩こう)
96 風船の高さに口の開きけり 蛙星(風船は仰ぎ見るものかもしれぬ)

☆ 互選結果 ☆

11 猫の耳春の光を透かしをり 馨子
7 ポストまで歩けば二分初つばめ ひろし
6 父の声母の声して山笑ふ 千年
5 西口で待ち人になる春の宵 うらら
5 走る子に最後のチャイム春の風 京子
5 抱かるる稚児のおでこを春の風 真美
5 花冷えや本日休診札揺れて うらら
4 谷中にも露座の大仏花の雨 ひぐらし
4 菜の花も人も河原も陽にゆらら 美知子
4 いづこからともなく落花はじまりぬ ひろし
4 挨拶はもとより苦手桜餅 宏美
4 清明の空を仰ぎて忌明けとし 馨子
4 褒められてどの子も伸びるつくしんぼ しのぶこ
3 朝明けやそれぞれの木に小さき芽 ふみ子
3 芹摘んで蒸気機関車にも乗りて 海紅
3 路地裏の銀座のカフェや春灯 しのぶこ
3 いづち見る宙と対座の初蛙
3 雪柳仄かに夜を灯しをり うらら
2 間仕切りの多い駅弁桜餅 和子
2 青空に南アルプス辛夷咲く
2 コーラスの三年ぶりの早春賦 梨花
2 ゴミ収集日カラス知りをり花曇り 紅舟
2 ほんたうの夢への一歩梅真白 由美
2 春鳥やいづくに運ぶ今朝のこゑ 香粒
2 古墳より見る古墳群風光る ひろし
2 一日の終はりは静か春うれひ 蛙星
2 春風に押され傘寿の背を伸ばし ちちろ
2 新しき命を待つて桜鯛 和子
2 新駅やこぶし二輪の若い街 美知子
2 囀や定期売場の長き列
2 花冷えや政府専用機の帰国 海紅
2 うららかや「もう1回」と紙芝居
2 タクシーを追ひかけてゆく花の渦 光江
2 花冷えや煎茶の熱し古き盆 貴美
2 春愁や黄昏時の帰り道 ふみ子
2 昇進の多き内示や黄水仙   真美
2 新入生ほほだけ赤く肩固く 美知子
2 大伽藍全山花の浄土かな 喜美子
2 読み返す『伊勢物語』夜半の春 ちちろ
1 花筏昔歩いた橋の上 玄了
1 春落葉陰にこつそり小さき芽 美雪
1 富士に向ふパラグライダー風光る
1 菜の花や思ひ出の中に戦禍なし エール
1 夕暮の芭蕉の句碑に桜舞ふ 光江
1 囀りや崖を見まはる消防車 月子
1 戦争のことを忘れず花仰ぐ 海紅
1 うららかや金婚式は再来年 つゆ草
1 曲がる毎に漁村楽しやひじき干す 瑛子
1 春眠や枕踏む猫鳴く雀 月子
1 午後のベンチ二人長閑にバスを待つ 静枝
1 桜舞ふマスク邪魔なりあの笑顔 美雪
1 子ら育ち花トンネルとなりにけり エール
1 若駒の息弾ませて春競馬
1 雪柳チュチュをまとひて踊る夢 ふみ子
1 春の雷ひざのかさぶた剥がれけり 真美
1 唄ふよなお国言葉や車窓春 ひぐらし
1 プーチンの心を洗へ春嵐 梨花
1 雨激し歩行器とゆく落花道 美雪
1 花吹雪蹴散らせて行く始発かな つゆ草
1 邸宅が売られ伐られた大桜
1 風船の高さに口の開きけり 蛙星
1 夕靄に孤舟の影や春大河
1 煉瓦積みのトンネル出れば花吹雪 瑛子
1 馬酔木咲く山の茶店の緋毛氈 エール

☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、青柳光江、礒部和子、市川千年、植田ひぐらし、宇田川うらら、梅田ひろし、大石しのぶこ、大江月子、荻原貴美、尾崎喜美子、尾見谷静枝、梶原真美、加藤 悠、佐藤馨子、椎名美知子、柴田 憲、鈴木香粒、高橋美智代、谷 美雪、丹野宏美、千葉ちちろ、月岡 糀、内藤玄了、中里蛙星、西野由美、根本梨花、平塚ふみ子、備後春代、古崎 笙、三木つゆ草、水野紅舟、村上エール、森田京子、谷地元瑛子、(以上35名)

投句参加者数:35名
選句参加者数:谷地海紅 + 市川千年+ 30名

<以上取りまとめ、糀記>
< 了 >



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