□日時 2022年4月5日(火)~4月19日(火)、第10回ネット句会
□会場 「芭蕉会議」サイト会員フォーラム(専用掲示板)
〈 俳 話 少 々 〉
ロシアが2月24日にウクライナに軍事侵攻して60日以上、一日たりともこの悲劇について考えない日はない。それは誰も同じなのであろう。3月末締め切りの「わくわく題詠鳩の会」の投句に、この軍事侵攻を取り上げたと思われる「逃げ惑ふキェフ励ますや百千鳥」「戦地のニュース今朝ここは百千鳥」「遠足の楽しさ奪う戦火とは」などという句があって、私は一律に〈戦争を詠むのはまことに難しい。当事者ではないから〉という感想を述べた。その後〈じゃあ、オマエならどうする〉という声が耳鳴りのように響いていた。
4月に入り、白山俳句会の投句のために、いつものように句帳を持って散歩に出た。まず「芹摘んで蒸気機関車にも乗りて」という句が浮かんだ。過去の体験であった。さらに歩き続けると、例の〈オマエならどうする〉という耳鳴りが再発。そこで、発言の責任をとるために、今も続く軍事侵攻と向き合って、七、八句を句帳に書き留めた。
そのほとんどはやはり当事者意識に欠けていて、ウクライナの人々に顔向けができない。それでも、いくらか一般化できたと思う「戦争のことを忘れず花仰ぐ」「花冷えや政府専用機の帰国」の二句を投じた。責任のとりかたとしては不十分だが、これならウクライナの人々に叱られることはないと思ったので、参考のために書き留めておくことにした。
さて、このたびは「父の声母の声して山笑ふ」「目覚むれば春月かかる父母の家」という句を詠む人の選句を見てみたいと考え、その作者である千年氏に無制限の選句をお願いした。
〈 句 会 報 告 〉
一部の作品について、作者の意図をそれない範囲で、表現を改めたものがあります。また、制限なく選句をお願いした市川千年氏の選、及び海紅選は互選の点数に含まれておりません。
なお、このたびも笙さんの投句が締め切りを過ぎて到着。何人も排除しないという流儀にそって、この欄に御紹介いたします。
もの想ふ窓にさやけし春の虹
粛々とみつ吸ふとりやつばき散る
機知あふるいまは亡き母花かがり
「さやけし」は〈はっきりと明らか〉なさま。よってもの思ひ(心配・悩み)との相性はよくない。「粛々と」は〈厳粛に〉という意で用いたのかも知れないが、「つばき散る」と理窟で結びついてしまって惜しい。花篝を通して亡き母を偲ぶのはひとつの抒情を創り出している。何もコメントがないのは淋しいので、一言そえてみました。〈海紅記〉
☆ 谷地海紅選 ☆
3 | 猫の耳春の光を透かしをり | 馨子 | |
88 | 清明の空を仰ぎて忌明けとし | 馨子 | |
22 | 雪柳墓碑を包みて華やげり | つゆ草 | |
38 | うららかや金婚式は再来年 | つゆ草 | |
26 | 富士に向ふパラグライダー風光る | 糀 | |
75 | うららかや「もう1回」と紙芝居 | 糀 | |
30 | 目覚むれば春月かかる父母の家 | 千年 | |
66 | 父の声母の声して山笑ふ | 千年 | |
11 | 間仕切りの多い駅弁桜餅 | 和子 | |
13 | 犬ふぐりを踏んで老犬足ならし | 紅舟 | |
39 | コーラスの三年ぶりの早春賦 | 梨花 | |
41 | ほんたうの夢への一歩梅真白 | 由美 | |
52 | 古墳より見る古墳群風光る | ひろし | |
53 | 春眠や枕踏む猫鳴く雀 | 月子 | |
59 | 春風に押され傘寿の背を伸ばし | ちちろ | |
81 | 挨拶はもとより苦手桜餅 | 宏美 | |
90 | 雪柳仄かに夜を灯しをり | うらら | |
91 | 大伽藍全山花の浄土かな | 喜美子 |
☆ 市川千年選 ☆
1 | 谷中にも露座の大仏花の雨 | ひぐらし(花の雨の新たなご当地名句) |
3 | 猫の耳春の光を透かしをり | 馨子(漱石も見たかと思う猫の耳) |
5 | ポストまで歩けば二分初つばめ | ひろし(初つばめは人を元気にしてくれる) |
22 | 雪柳墓碑を包みて華やげり | つゆ草(墓碑には雪柳も合うか) |
23 | 走る子に最後のチャイム春の風 | 京子(春の風は希望の風) |
33 | 囀りや崖を見まはる消防車 | 月子(囀りと消防車の意外な取り合わせ) |
35 | 戦争のことを忘れず花仰ぐ | 海紅(「銃口の一つ一つに花を乗せ」) |
38 | うららかや金婚式は再来年 | つゆ草(超うららかな今のお二人) |
41 | ほんとうの夢への一歩梅真白 | 由美(夢と梅がマッチした句) |
47 | 叶へたき願ひのあまた紫木蓮 | しのぶこ(あまたの願いと紫木蓮がマッチ) |
51 | 曲がる毎に漁村楽しやひじき干す | 瑛子(漁村の道の狭さ楽しむ) |
70 | いづこからともなく落花はじまりぬ | ひろし(落花の無常観が広がります) |
74 | 花冷えや政府専用機の帰国 | 海紅(キエフキーウと書き換える春) |
86 | 昇進の多き内示や黄水仙 | 真美(昇進内示と黄水仙の取り合せの人事句の綾) |
88 | 清明の空を仰ぎて忌明けとし | 馨子(上を向いて歩こう) |
96 | 風船の高さに口の開きけり | 蛙星(風船は仰ぎ見るものかもしれぬ) |
☆ 互選結果 ☆
11 | 猫の耳春の光を透かしをり | 馨子 | |
7 | ポストまで歩けば二分初つばめ | ひろし | |
6 | 父の声母の声して山笑ふ | 千年 | |
5 | 西口で待ち人になる春の宵 | うらら | |
5 | 走る子に最後のチャイム春の風 | 京子 | |
5 | 抱かるる稚児のおでこを春の風 | 真美 | |
5 | 花冷えや本日休診札揺れて | うらら | |
4 | 谷中にも露座の大仏花の雨 | ひぐらし | |
4 | 菜の花も人も河原も陽にゆらら | 美知子 | |
4 | いづこからともなく落花はじまりぬ | ひろし | |
4 | 挨拶はもとより苦手桜餅 | 宏美 | |
4 | 清明の空を仰ぎて忌明けとし | 馨子 | |
4 | 褒められてどの子も伸びるつくしんぼ | しのぶこ | |
3 | 朝明けやそれぞれの木に小さき芽 | ふみ子 | |
3 | 芹摘んで蒸気機関車にも乗りて | 海紅 | |
3 | 路地裏の銀座のカフェや春灯 | しのぶこ | |
3 | いづち見る宙と対座の初蛙 | 憲 | |
3 | 雪柳仄かに夜を灯しをり | うらら | |
2 | 間仕切りの多い駅弁桜餅 | 和子 | |
2 | 青空に南アルプス辛夷咲く | 悠 | |
2 | コーラスの三年ぶりの早春賦 | 梨花 | |
2 | ゴミ収集日カラス知りをり花曇り | 紅舟 | |
2 | ほんたうの夢への一歩梅真白 | 由美 | |
2 | 春鳥やいづくに運ぶ今朝のこゑ | 香粒 | |
2 | 古墳より見る古墳群風光る | ひろし | |
2 | 一日の終はりは静か春うれひ | 蛙星 | |
2 | 春風に押され傘寿の背を伸ばし | ちちろ | |
2 | 新しき命を待つて桜鯛 | 和子 | |
2 | 新駅やこぶし二輪の若い街 | 美知子 | |
2 | 囀や定期売場の長き列 | 糀 | |
2 | 花冷えや政府専用機の帰国 | 海紅 | |
2 | うららかや「もう1回」と紙芝居 | 糀 | |
2 | タクシーを追ひかけてゆく花の渦 | 光江 | |
2 | 花冷えや煎茶の熱し古き盆 | 貴美 | |
2 | 春愁や黄昏時の帰り道 | ふみ子 | |
2 | 昇進の多き内示や黄水仙 | 真美 | |
2 | 新入生ほほだけ赤く肩固く | 美知子 | |
2 | 大伽藍全山花の浄土かな | 喜美子 | |
2 | 読み返す『伊勢物語』夜半の春 | ちちろ | |
1 | 花筏昔歩いた橋の上 | 玄了 | |
1 | 春落葉陰にこつそり小さき芽 | 美雪 | |
1 | 富士に向ふパラグライダー風光る | 糀 | |
1 | 菜の花や思ひ出の中に戦禍なし | エール | |
1 | 夕暮の芭蕉の句碑に桜舞ふ | 光江 | |
1 | 囀りや崖を見まはる消防車 | 月子 | |
1 | 戦争のことを忘れず花仰ぐ | 海紅 | |
1 | うららかや金婚式は再来年 | つゆ草 | |
1 | 曲がる毎に漁村楽しやひじき干す | 瑛子 | |
1 | 春眠や枕踏む猫鳴く雀 | 月子 | |
1 | 午後のベンチ二人長閑にバスを待つ | 静枝 | |
1 | 桜舞ふマスク邪魔なりあの笑顔 | 美雪 | |
1 | 子ら育ち花トンネルとなりにけり | エール | |
1 | 若駒の息弾ませて春競馬 | 悠 | |
1 | 雪柳チュチュをまとひて踊る夢 | ふみ子 | |
1 | 春の雷ひざのかさぶた剥がれけり | 真美 | |
1 | 唄ふよなお国言葉や車窓春 | ひぐらし | |
1 | プーチンの心を洗へ春嵐 | 梨花 | |
1 | 雨激し歩行器とゆく落花道 | 美雪 | |
1 | 花吹雪蹴散らせて行く始発かな | つゆ草 | |
1 | 邸宅が売られ伐られた大桜 | 悠 | |
1 | 風船の高さに口の開きけり | 蛙星 | |
1 | 夕靄に孤舟の影や春大河 | 憲 | |
1 | 煉瓦積みのトンネル出れば花吹雪 | 瑛子 | |
1 | 馬酔木咲く山の茶店の緋毛氈 | エール |
☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、青柳光江、礒部和子、市川千年、植田ひぐらし、宇田川うらら、梅田ひろし、大石しのぶこ、大江月子、荻原貴美、尾崎喜美子、尾見谷静枝、梶原真美、加藤 悠、佐藤馨子、椎名美知子、柴田 憲、鈴木香粒、高橋美智代、谷 美雪、丹野宏美、千葉ちちろ、月岡 糀、内藤玄了、中里蛙星、西野由美、根本梨花、平塚ふみ子、備後春代、古崎 笙、三木つゆ草、水野紅舟、村上エール、森田京子、谷地元瑛子、(以上35名)
投句参加者数:35名
選句参加者数:谷地海紅 + 市川千年+ 30名
<以上取りまとめ、糀記>
< 了 >