□日時 2022年1月14日(金)~2月5日(土)、第9回ネット句会
□会場 「芭蕉会議」サイト会員フォーラム(専用掲示板)
〈 俳 話 少 々 〉
俳句会に出はじめた初心のころ、選句のために回ってくる清記用紙の他者の句をにらみながら、内心自分の句の方がすぐれていると思うことがあった。だが、その結果は案に相違して、私の句が選者の目にとまることは少なく、互選結果もみじめなことが多かった。その話を研究者で俳人の恩師にしたことがある。先生の答えは「自分の句の出来がよいときは、他人の句が立派に見えるときだね」というものだった。以後、詠む力と感じる力は同じという謙虚さを忘れないようにしている。
このたびも、味わい深い句にたくさん出逢った。なかで三句全体に詠む力がみなぎっていると感じた、うらら、馨子両名に無制限の選句をお願いした。 <海紅記>
〈 句 会 報 告 〉
一部の作品について、作者の意図をそれない範囲で、表現を改めたものがあります。
また、制限なく選句をお願いした宇田川うらら・佐藤馨子両氏の選、及び海紅選は互選の点数に含まれておりません。
なお、ネット環境の事情から、笙さんの投句が清記を過ぎて届き、皆さんに選句をお願いできませんでした。とはいえ、芭蕉会議に杓子定規は似合いませんので、この欄を借りて御紹介のみさせていただきます。
冬ばらのほんのりかをりて夕なごり
つらつらと明けゆく気色寒の水
幼げに鳴くやうぐひす小籔にて
〈冬薔薇ゆえにほんのりとした香りがする〉という感性はわかる気がします。「つらつらと」は〈念入りに〉という副詞ですから少しわかりにくい。「幼げに鳴く」は〈笹鳴き〉という言葉があるので、これを用いて再挑戦かな、と思います。 <海紅記>
☆ 谷地海紅選 ☆
23 | ささやかな予定書き足す春隣 | うらら | |
65 | お守りを二つ揺らして受験生 | うらら | |
49 | 仕立て屋の紺色スーツ春を待つ | うらら | |
29 | みかんむく笑ひ上戸は母ゆづり | 馨子 | |
39 | 癒ゆる日のやがては来ると寒桜 | 馨子 | |
93 | 母の忌や妹と買ふスイートピー | 馨子 | |
12 | 風吹けばおしやべり弾む水仙花 | 京子 | |
22 | 福の神逃げ出しさうな大くさめ | ちちろ | |
53 | 朝ドラに青春の歌寒ゆるむ | 美知子 | |
67 | やり直しきかぬ子育て虎落笛 | 喜美子 | |
72 | 一瞬に燃えたる達磨大どんど | ひろし | |
79 | 凍てつきし信号待ちの昼の月 | エール | |
83 | 大寒やまだ温かきカレーパン | 蛙星 | |
84 | 良きことを告げる光の氷柱かな | 梨花 | |
92 | 寒起こし畔によけたる遊具かな | 玄了 | |
96 | 葉牡丹の列作りをる平和かな | しのぶこ | |
99 | 寒明やただ不器用に正直に | ひぐらし | |
102 | 四角やらカーブの屋根に雪解くる | 香粒 |
☆ 谷地海紅予選 ☆
13 | 瀬戸内に百の島々日脚伸ぶ | 啓子 | |
38 | 春浅し版木に残る江戸の色 | 啓子 | |
28 | 年女招かれて行く節分会 | 和子 | |
36 | 雪明りルーペで探す旅の宿 | 和子 | |
31 | 虎落笛そろそろ矛を収めんか | ひろし | |
42 | 野を駆くる少年と犬日脚伸ぶ | ひろし | |
3 | 蕗の芽の朽ちし葉の間に並びけり | 千年 | |
4 | 雪舞つて友とどまるや昼の酒 | 稲子麿 | |
7 | 片方の靴裏返し太郎月 | エール | |
10 | 飼ひ猫の声も変はりぬ年はじめ | 貴美 | |
15 | 手袋の片方ばかり失くしをり | 蛙星 | |
17 | 寒の水疎みし母を恋ふる夜 | 月子 | |
30 | おでん鍋並びて待てり商店街 | 玄了 | |
33 | 躓きし石を蹴飛ばし久女の忌 | 宏美 | |
34 | 餅こげの香に鰹出汁雑煮よき | 由美 | |
35 | 山鳥の内緒の話聞きにけり | しのぶこ | |
45 | 松柏に初日射し込む嬉しさよ | 瑛子 | |
54 | 雑煮膳祖母母今年嫁の味 | 静枝 | |
57 | 母おはすやうにうるはし春の月 | つゆ草 | |
61 | 北国の雪のかけらが我が庭に | 紅舟 | |
74 | 蜜柑むくことの幸せふるさとは | 京子 | |
80 | ガラス戸の春の日差しに猫あくび | 春代 | |
81 | 寒紅をひきあの人に会ふ時間 | 真美 | |
91 | 足元で雀ちゆんちゆん冬日向 | ふみ子 |
☆ 宇田川うらら選 ☆
13 | 瀬戸内に百の島々日脚伸ぶ | 啓子 | |
17 | 寒の水疎みし母を恋ふる夜 | 月子 | |
29 | みかんむく笑ひ上戸は母ゆづり | 馨子 | |
51 | 鬼の面めがけ豆撒く小さな手 | 光江 | |
58 | 接岸の釣舟ゆらら春隣 | 瑛子 | |
66 | 過疎地行く空つぽのバス空つ風 | 悠 | |
79 | 凍てつきし信号待ちの昼の月 | エール | |
80 | ガラス戸の春の日差しに猫あくび | 春代 | |
93 | 母の忌や妹と買ふスイートピー | 馨子 | |
103 | 福は内ありがたきことあはははは | 美雪 | |
109 | 幾星霜狭庭暮らしの藪柑子 | 月子 |
☆ 宇田川うらら選評 ☆
よもやの「無制限選句を・・」との谷地先生からのご連絡に大いにとまどいましたが、1回目の補習課題をいただいたつもりでお受けすることといたしました。以下、相変わらずの拙い選評で失礼いたします。
13 瀬戸内に/「百の島々」は、その数700にも及ぶのだとか。
波穏やかな瀬戸内の早春の景色が目に浮かびました。
17 寒の水/〈疎んだはずの母をどうして今夜は恋しく思うのだろう。寒の水よ〉。
疎んだことを作者は悔いているのではないでしょうか。
29 みかんむく/母ゆづりが笑ひ上戸なんて、素敵な人生を約束されたようなもの。
「みかんむく」のさり気なさに好感を持ちました。
51 鬼の面/お面をかぶったのはお父さんだったのでしょうか。
若い一家の豆まきの様子が想像できほのぼのとしました。
58 接岸の/釣舟が揺れている様子の「ゆらら」が優しく春隣にも良く似合います。
一幅の墨絵を見ているようです。
66 過疎地行く/か行の繰り返しが、リズミカルで心地良い句。
過疎地の心寂しさを「空つ風」が元気に明るく吹き飛ばしていきます。
79 凍てつきし/凍てつくほどに寒い日、信号待ちをしていて空を仰げば白い月。
きっとそれは細く尖った鋸のような月だったのではと想像しました。
80 ガラス戸の/猫は居心地の良い場所を見つける名人、いや名猫?。
今日の昼寝はここにきーめた。
93 母の忌や/スイートピーがお母さんの好きだった花だったのですね。
姉妹仲良く思い出話の花も沢山咲いたことでしょう。
103 福は内/気持ちの良い爽快感のある句でした。意表をつく「あはははは」が新鮮。
日々のあれこれもこうして笑い飛ばせたら福は常に内にあり。
109 幾星霜/「幾星霜」という言葉を初めて知りました。特に感慨深い月日の例えに使うのだとか。藪鉗子は作者自身なのかもしれません。
今回は、恥ずかしながら初めて見る言葉も多々ありました。「太郎月」「好文木」「堤塘」や前述の「幾星霜」などなど、己の浅学に愕然とするばかり。中には辞書で引いても句意に届かなかったものもあります。特に「106 結網忌さすればバイカオウレン忌」。どうやら牧野富太郎に由来するらしい(すでにここで間違っていたら作者さんごめんなさい)とは思ったのですが、その先に分け入ることができませんでした。このように鑑賞力不足で見逃してしまった句も多いかと思います。どうぞお許しください。そしていつもながら、この機会を与えてくださいました谷地海紅先生と事務局の皆様に心から感謝申し上げます。早く、また皆様と集える日が来ることを願うばかりです。
☆ 佐藤馨子選 ☆
1 | 老いはついひと日遅れの柚子湯かな | 憲 | |
3 | 蕗の芽の朽ちし葉の間に並びけり | 千年 | |
13 | 瀬戸内に百の島々日脚伸ぶ | 啓子 | |
15 | 手袋の片方ばかり失くしをり | 蛙星 | |
23 | ささやかな予定書き足す春隣 | うらら | |
37 | 雪しんしん訃報に笑顔偲ぶ夜 | 悠 | |
42 | 野を駆くる少年と犬日脚伸ぶ | ひろし | |
49 | 仕立て屋の紺色スーツ春を待つ | うらら | |
65 | お守りを二つ揺らして受験生 | うらら | |
74 | 蜜柑むくことの幸せふるさとは | 京子 | |
76 | 大寒や朝の厨の水清し | 貴美 | |
83 | 大寒やまだ温かきカレーパン | 蛙星 | |
84 | 良きことを告げる光の氷柱かな | 梨花 | |
94 | 春寒の遅々たる稿を読み返し | 海紅 |
☆ 佐藤馨子選評 ☆
無制限の選句のお役目が再び巡ってくるとは思いも寄らず、海紅先生からのメールに大いに慌ててしまいました。私は小さな診療所の受付をしておりまして、続くコロナ禍の中で今が一番厳しい状況です。迷いましたが「忙しい時こそ俳句が助けてくれる」という先生のお言葉に頷く日々でもありましたので、お引き受けさせて頂きました。
長引くコロナ禍は、何気ない日々の暮らしの中に幸せがあると改めて教えてくれました。それは、皆様の句にも強く表れているように感じました。 特に印象に残った5句について感想を述べさせて頂きます。
「13 瀬戸内に百の島々日脚伸ぶ」・・・先ずは瀬戸内海に百の島々があることに驚き
ました。日々の暮らしの営みを海路に支えられているわけですから、日の短い冬は大変なことが多いでしょう。「日脚伸ぶ」に春が近づく嬉しさが伝わってきました。
「23 ささやかな予定書き足す春隣」・・・コロナの感染拡大のせいで楽しみにしていた予定が制限されてしまう状況ですが、「ささやか」でも予定が生まれて浮き立つ気持ちに「春隣」がぴったりだと思いました。
「65 お守りを二つ揺らして受験生」・・・「二つ揺らして」というところがいいなあと思いました。誰かと誰かの願いが込められた二つのお守り。さらりと一瞬を切り取った作者の温かい眼差しを感じます。無事に合格しますように。
「74 蜜柑むくことの幸せふるさとは」・・・「ふるさと」という4文字には数え切れない思い出がギュッと詰まっています。それは蜜柑をむく幸せという明快さに脱帽です。
「94 春寒の遅々たる稿を読み返し」・・・春は何となく心が落ち着きません。ましてや早春のうすら寒さ。「春寒や」ではなく「春寒の」に、稿が思うように進まない様子が伝わってきました。
以上です。力不足ゆえに選句出来なかった句がありますこと、お許しください。
海紅先生によれば「選句とは、詩歌の座ですぐれた読者になる大切な手続き」、そして「俳句は読者のもの」とのこと。(白山句会報第48号)すぐれた読者への道は遥かに遠いですが、たくさんの句に癒やされ励まされました。再び、このような機会を与えてくださった先生、そして、お世話をしてくださる幹事会の皆様に感謝申し上げます。
☆ 互選結果 ☆
8 | ささやかな予定書き足す春隣 | うらら | |
7 | みかんむく笑ひ上戸は母ゆづり | 馨子 | |
7 | 仕立て屋の紺色スーツ春を待つ | うらら | |
6 | 老いはついひと日遅れの柚子湯かな | 憲 | |
6 | 春浅し版木に残る江戸の色 | 啓子 | |
5 | 介護とか認知症とか豆を打つ | 海紅 | |
5 | 瀬戸内に百の島々日脚伸ぶ | 啓子 | |
5 | 春寒の遅々たる稿を読み返し | 海紅 | |
4 | 雪舞つて友とどまるや昼の酒 | 稲子麿 | |
4 | やり直しきかぬ子育て虎落笛 | 喜美子 | |
4 | 一瞬に燃えたる達磨大どんど | ひろし | |
3 | 蕗の芽の朽ちし葉の間に並びけり | 千年 | |
3 | 紅梅咲きぬ女人畑打つひたむきに | 瑛子 | |
3 | 大寒や日陰も日向も縮こまる | 静枝 | |
3 | 山鳥の内緒の話聞きにけり | しのぶこ | |
3 | 癒ゆる日のやがては来ると寒桜 | 馨子 | |
3 | 雑煮膳祖母母今年嫁の味 | 静枝 | |
3 | 母おはすやうにうるはし春の月 | つゆ草 | |
3 | お守りを二つ揺らして受験生 | うらら | |
3 | 球追つてタンポポの野に招かるる | 美知子 | |
3 | 春光や子どもできたと知らせ来る | 由美 | |
3 | 指いつぱい伸ばして孫が初ピアノ | 和子 | |
3 | 掌に受けていのちのおもさ寒卵 | 悠 | |
2 | 片方の靴裏返し太郎月 | エール | |
2 | 朝刊の受け口白き吹雪痕 | 由紀雄 | |
2 | 梅の寺あと継ぐ娘なほ清し | 美知子 | |
2 | 白寿を送りて | ||
天国の句会にぎやか梅二月 | 梨花 | ||
2 | うぐひすのラインスタンプ春近し | 海紅 | |
2 | 年女招かれて行く節分会 | 和子 | |
2 | 雪つむや墨絵のやうな京の街 | 喜美子 | |
2 | 過疎地行く空つぽのバス空つ風 | 悠 | |
2 | 大寒やまだ温かきカレーパン | 蛙星 | |
2 | 寒起こし畔によけたる遊具かな | 玄了 | |
2 | 裏通り口一文字の雪だるま | 静枝 | |
2 | 小正月老いては時もまたたく間 | 憲 | |
1 | 雲雀東風昼寝の犬の毛を梳かし | 窓花 | |
1 | 立春にコロナ収束待つ句会 | 紅舟 | |
1 | 風吹けばおしやべり弾む水仙花 | 京子 | |
1 | 手袋の片方ばかり失くしをり | 蛙星 | |
1 | 太陽に双手を挙げる春立つ日 | 喜美子 | |
1 | 再会の文字に赤ペン冬ごもり | 宏美 | |
1 | 虎落笛そろそろ矛を収めんか | ひろし | |
1 | 躓きし石を蹴飛ばし久女の忌 | 宏美 | |
1 | 雪明りルーペで探す旅の宿 | 和子 | |
1 | 安らげる友と再会冬銀河 | 糀 | |
1 | 野を駆くる少年と犬日脚伸ぶ | ひろし | |
1 | 冴ゆる夜や独りの空間ジャズ喫茶 | ふみ子 | |
1 | 駆けゆける少女の脛や春隣 | 稲子麿 | |
1 | 戸を引けば地までの垂氷夜勤明け | 由紀雄 | |
1 | 池の面に早春の雲流れゆく | ちちろ | |
1 | 鬼の面めがけ豆撒く小さな手 | 光江 | |
1 | 朝ドラに青春の歌寒ゆるむ | 美知子 | |
1 | から風は空気震はせ木々ゆする | 春代 | |
1 | 接岸の釣舟ゆらら春隣 | 瑛子 | |
1 | 千両の赤生け直し部屋の隅 | エール | |
1 | 晴れ着姿風花を背にピースせし | 窓花 | |
1 | 病む人のありて暖炉の燃え盛る | 月子 | |
1 | 築百年痛みを耐へて春を待つ | つゆ草 | |
1 | 大寒や朝の厨の水清し | 貴美 | |
1 | やはらかき春風ぞ吹く土手の径 | ちちろ | |
1 | 凍てつきし信号待ちの昼の月 | エール | |
1 | ガラス戸の春の日差しに猫あくび | 春代 | |
1 | 良きことを告げる光の氷柱かな | 梨花 | |
1 | 母の忌や妹と買ふスイートピー | 馨子 | |
1 | 恋猫の他は音ぜず長屋門 | 宏美 | |
1 | 寒明やただ不器用に正直に | ひぐらし | |
1 | 結網忌さすればバイカオウレン忌 | 千年 | |
1 | 厳寒やなだめるやうに面会す | しのぶこ | |
1 | 幾星霜狭庭暮らしの藪柑子 | 月子 |
☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、青柳光江、礒部和子、市川千年、植田ひぐらし、宇田川うらら、梅田ひろし、大石しのぶこ、大江月子、荻原貴美、尾崎喜美子、尾見谷静枝、加藤 悠、佐藤馨子、椎名美知子、篠崎稲子麿、柴田 憲、鈴木香粒、高橋美智代、高橋由紀雄、谷 美雪、丹野宏美、千葉ちちろ、月岡 糀、内藤玄了、中里蛙星、西野由美、根本梨花、平塚ふみ子、備後春代、藤井啓子、三木つゆ草、水野紅舟、村上エール、森田京子、谷地元瑛子、梶原真美(以上38名)
投句参加者数:38名
選句参加者数:谷地海紅 + 宇田川うらら + 佐藤馨子 + 31名
<以上取りまとめ、真美記>
< 了 >