□日時 2021年11月15日(月)~12月5日(日)、第8回ネット句会
□会場 「芭蕉会議」サイト会員フォーラム(専用掲示板)
〈 俳 話 少 々 〉
親しい距離にある友人に〈わたしはイサカイとモメゴトが何より苦手〉ということがある。そのワケは〈仕合わせの実感は人間関係(Relationships)のなかにしか生まれない〉と考えているから。昨今の地球上に起こっていること、起こりつつあることを見ていて、その思いは強まるばかり。
さびしさに堪へたる人のまたもあれな庵並べむ冬の山里(西行・新古今・冬)
吉野山やがて出でじと思ふ身を花散りなばと人や待つらむ(西行・新古今・雑)
前者は〈自分のように淋しさに堪えている人がいたら、庵を並べて一緒に住みたいな〉といい、後者は〈もう吉野山を出まいと思う私を、花が散ってしまったら山を下りてくるだろうと、人は待っているのだろうか〉という。世を背く西行でさえ、人間関係のなかに仕合わせを手探りしている。
手探りする手段はいくつもあろうが、そのひとつに俳諧(俳句)という文芸がある。尾形仂先生の『座の文学』(S48、角川書店)という著書の前後に、密室のモノローグから脱しようとした現代詩人たちの試行錯誤があって、連衆の精神的共同性が取り沙汰された。思いあがるつもりはまったくないが、平成22年(2010)まで大学の研究会だったものを一般に開放して、再出発した白山句会も同じ流れのなかにあることは否定し得ない。それが今回で50回目になると聞いて、少し襟を正すと共に、幹事会の諸兄姉にあらためて御礼申し上げる。<海紅記>
〈 句 会 報 告 〉
一部の作品について、作者の意図をそれない範囲で、表現を改めた句が含まれています。なお、海紅選の一部の句に「注」として短い参考意見を添えました。また、師走であることを踏まえて、このたびは制限なく選句をお願いすることを遠慮いたしました。
☆ 谷地海紅選 ☆
31 | 冬晴やひとり闊歩の御堂筋 | エール | |
67 | ポケットの団栗見せる小さき手 | エール | |
98 | 冬匂ふ特急電車の過ぎしあと | エール | |
9 | 自販機のにぶき点滅冬の夜 | ひぐらし | |
81 | 今朝届く母の手紙と冬林檎 | ひぐらし | |
26 | 片岸に寄り添ひながら冬の鴨 | うらら | |
注・鴨は冬季ゆえ、「鴨の陣」という語を薦めます。 | |||
104 | 冬の田にビービー弾の赤青黄 | うらら | |
28 | 米寿賀にはにかむ母の小春かな | 糀 | |
注・「米寿の賀」と助詞を加えることを薦めます。 | |||
56 | 園児みな良い子となりしクリスマス | 糀 | |
43 | 影富士の藍美しき冬落暉 | 瑛子 | |
85 | どの人もマスクに帽子師走くる | 瑛子 | |
68 | ケーキ屋の残りは五つ冬灯 | つゆ草 | |
95 | 褒められて緋色マフラー風を切る | つゆ草 | |
33 | 鯛焼きの天然ものの活きの良さ | ミチヨ | |
注・下五「活き活きと」と修正することを薦めます。 | |||
113 | 息白き指先重ねマフの中 | ミチヨ | |
55 | 栗おこは女三代寡黙にす | 和子 | |
78 | スカイツリー初冬三百六十度 | 和子 | |
5 | 年重ね心細しや木の葉髪 | 春代 | |
11 | メールより長き通話や冬籠 | 真美 | |
13 | 父母若し皆姿勢よく大火鉢 | 香粒 | |
17 | 公園に小さな足音小六月 | 喜美子 | |
18 | 大根の丸き真白き肩を引く | 梨花 | |
注・語法的には「丸く」と連用中止にするのがよい。 | |||
19 | 初しぐれ旅の誘ふ予告とも | 宏美 | |
注・語法的には「旅に」の方が安定する。 | |||
24 | 疫病の戯画のごとくの冬三とせ | 月子 | |
29 | 冬銀河折たく柴の記読み進め | ひろし | |
注・下五「進む」と終止形に落ち着かせることを薦めます。 | |||
30 | 飼犬の名をパスワードに冬籠り | 貴美 | |
注・「名がパスワード」と中七で小休止させることを薦めます。 | |||
37 | 小春日ややはらかに鳴る駅ピアノ | 馨子 | |
39 | 心に鞭笑顔保てよ十二月 | 美雪 | |
注・省略しなければ「心に鞭打つて笑顔を保てよ」となるのだろうね。とすれば「心に鞭打つて笑顔や」と縮める方が伝わる。 | |||
41 | 尼寺の障子真白しヤブカウジ | 悠 | |
注・「障子」も藪柑子も冬季。でもこの季重ねはあまり気にならない。 | |||
42 | 蓮根掘る祖母の背中の逞しく | ふうせん | |
46 | ハンチング似合ひし人の懐手 | 蛙星 | |
47 | 冬風や木々の断捨離始まりぬ | ふみ子 | |
48 | 小六月テニスコートの音軽やか | 由美 | |
注・「軽く」「軽し」などの方が完成度は高い。 | |||
49 | 冬日和俄かに並ぶ植木鉢 | 静枝 | |
53 | 除草せしヘクソカズラの実は黄金 | 千年 | |
59 | おはやうの口もとゆるむ息白し | 光江 | |
73 | 公園の芝に寝転びいわし雲 | 玄了 | |
注・「寝転ぶ」と終止形にする方が韻文らしさが増す。 | |||
87 | 吉右衛門逝く衣川雪便り | 悠 | |
注・「武蔵坊弁慶」の類の前書が必要である。 | |||
91 | 逆上がり大空回す冬日和 | しのぶこ | |
107 | 猿の名はすみれとりようた冬日浴び | 京子 | |
注・下五を「冬日浴ぶ」「冬日濃し」などと終止形にして安定させることを薦めます。 |
☆ 互選結果 ☆
9 | 小春日ややはらかに鳴る駅ピアノ | 馨子 | |
7 | 話したきことの半分冬月夜 | うらら | |
6 | 池辺なる波郷碑落葉降り止まず | 憲 | |
6 | 寒釣の隣り合ひても無言なり | 蛙星 | |
6 | 自販機のにぶき点滅冬の夜 | ひぐらし | |
5 | 巫女二人語らふ社の小春かな | ちちろ | |
5 | 漆黒の筆の払ひや冴え返る | つゆ草 | |
5 | 逆上がり大空回す冬日和 | しのぶこ | |
5 | 褒められて緋色マフラー風を切る | つゆ草 | |
4 | 冬の蝶黙して語らざりしこと | 稲子麿 | |
4 | 熱燗に話し好きなる元教師 | 海紅 | |
4 | ポケットの団栗見せる小さき手 | エール | |
4 | ケーキ屋の残りは五つ冬灯 | つゆ草 | |
4 | 吉右衛門逝く衣川雪便り | 悠 | |
4 | 猿の名はすみれとりようた冬日浴び | 京子 | |
4 | 片手だけ手袋はづし指切りす | ちちろ | |
4 | 園児みな良い子となりしクリスマス | 糀 | |
3 | 城跡に一陣の風冬紅葉 | 京子 | |
3 | 重ね着の中のせがれの古着かな | 海紅 | |
3 | 手を引かれのぼる坂道冬うらら | 千寿 | |
3 | 現し身の翳によりそふ冬日かな | 笙 | |
3 | 冬匂ふ特急電車の過ぎしあと | エール | |
3 | 独り身のころの蒲団を捨てにけり | 海紅 | |
3 | 米寿賀にはにかむ母の小春かな | 糀 | |
2 | 柚子撮つて採られて籠に収まりぬ | 千年 | |
2 | メールより長き通話や冬籠 | 真美 | |
2 | 父母若し皆姿勢よく大火鉢 | 香粒 | |
2 | 飼犬の名をパスワードに冬籠り | 貴美 | |
2 | 影富士の藍美しき冬落暉 | 瑛子 | |
2 | 喜寿過ぎて竹馬のきずも武勇伝 | 美知子 | |
2 | 表裏見せて流るる木の葉かな | 千寿 | |
2 | ハンチング似合ひし人の懐手 | 蛙星 | |
2 | 冬日和俄かに並ぶ植木鉢 | 静枝 | |
2 | 木枯らしの風鈴鳴らす破屋かな | 稲子麿 | |
2 | 栗おこは女三代寡黙にす | 和子 | |
2 | スカイツリー初冬三百六十度 | 和子 | |
2 | しゆんしゆんと湯気立つ音にまどろめば | ふうせん | |
2 | 雪催ひ雀親子の行き処 | 喜美子 | |
2 | 新雪に地図だと尿す子ら嬉々と | 由紀雄 | |
1 | 割れガラス変へて山茶花額となる | 和子 | |
1 | 着ぶくれて半月仰ぐ午前零時 | 美雪 | |
1 | 桟橋に出航の銅鑼ゆりかもめ | 悠 | |
1 | 川暮れてなほ透き通る櫨紅葉 | 瑛子 | |
1 | 花八つ手老舗の饅頭いつも列 | 静枝 | |
1 | 木もれ日の降る妃の墓に返り花 | 由美 | |
1 | 公園に小さな足音小六月 | 喜美子 | |
1 | 大根の丸き真白き肩を引く | 梨花 | |
1 | 初しぐれ旅の誘ふ予告とも | 宏美 | |
1 | 疫病の戯画のごとくの冬三とせ | 月子 | |
1 | 片岸に寄り添ひながら冬の鴨 | うらら | |
1 | 冬うららこかげにそつとべにさうび | 笙 | |
1 | 冬銀河折たく柴の記読み進め | ひろし | |
1 | 冬晴やひとり闊歩の御堂筋 | エール | |
1 | 鯛焼きの天然ものの活きの良さ | ミチヨ | |
1 | 菊坂や見返り影を一葉忌 | 憲 | |
1 | 防波堤コート手に持ち歩く人 | 玄了 | |
1 | 蟷螂や枯れて落ち着く箒の柄 | しのぶこ | |
1 | 冬風や木々の断捨離始まりぬ | ふみ子 | |
1 | 手作りの柚子味噌ありて荷の届く | 香粒 | |
1 | 除草せしヘクソカズラの実は黄金 | 千年 | |
1 | 宛名のみ楷書の文字よ十二月 | 宏美 | |
1 | 従妹てふ友の逝きし日冬椿 | 貴美 | |
1 | 白鯨のごとき浮雲小春空 | ひろし | |
1 | 神無月万葉に在り畏みぬ | 憲 | |
1 | 寒雀喰はれもせずに遊びけり | 月子 | |
1 | 今朝届く母の手紙と冬林檎 | ひぐらし | |
1 | 小春日よ続けと願ひ見舞ひけり | 馨子 | |
1 | 冬日和カラス一声鳴きにけり | ふみ子 | |
1 | 紅葉散る急ぐ家あり水のあり | 宏美 | |
1 | まだ暗き沼に散らばる鴨の群れ | ひろし | |
1 | 父母の敷きし蒲団の重さかな | 蛙星 | |
1 | カイロ貼りのんびり歩く自分の日 | 春代 |
☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、青柳光江、礒部和子、市川千年、植田ひぐらし、宇田川うらら、梅田ひろし、大石しのぶこ、大江月子、荻原貴美、尾崎喜美子、尾見谷静枝、梶原真美、加藤 悠、佐藤馨子、椎名美知子、篠崎稲子麿、柴田 憲、鈴木香粒、高橋千寿、高橋美智代、高橋由紀雄、谷 美雪、丹野宏美、千葉ちちろ、月岡 糀、内藤玄了、中里蛙星、西野由美、根本梨花、平塚ふみ子、備後春代、古崎 笙、三木つゆ草、村上エール、森田京子、谷地元瑛子、荒井ふうせん(以上38名)
投句参加者数:38名
選句参加者数:谷地海紅 +34名
<以上取りまとめ、ふうせん記>
< 了 >