□日時 2021年10月5日(火)~10月20日(水)、第7回ネット句会
□会場 「芭蕉会議」サイト会員フォーラム(専用掲示板)
〈 俳 話 少 々 〉
芭蕉はみずから句集や撰集を編みませんでした。作品を後世に遺すかどうかの判断を弟子にゆだねていました。蕪村は仲間と発句会を重ねるようになって衆議を採用しました。参加者が互いに他者の作を選ぶ方法で、のちに互選と呼ばれるものです。
白山句会もこの互選を採用していますが、句会報に整理される前に、希望者が自分で選んだ句について「ひと言鑑賞」(感心した点)を添えて、それを掲示板に掲載して参考に供しているのは行き届いたことだと思います。
ただし、そこでは必ず見解の相違というものが生まれます。そのときに参考にしてほしくて、無制限の選句をお願いする人を選んでいます。このたびは髙橋千寿・中里蛙星両氏にお願いしました。理由は海紅選の句を御覧ください。そして、千寿・蛙星氏を含めたみなさんの句を、なるほどイイ句だと納得して下さることを願っています。それが芭蕉会議の美学を築く道を開いてくれると信じています。<海紅記>
〈 句 会 報 告 〉
一部の作品について、作者の意図をそれない範囲で、表現を改めた句が含まれています。また、制限なく選句をお願いした髙橋千寿・中里蛙星両氏の選、及び海紅選は互選の点数に含まれていません。
☆ 谷地海紅選 ☆
33 | 秋の虹通りがかりの人と見る | 千寿 | |
78 | ユニフォーム並ぶ物干し鰯雲 | 千寿 | |
13 | 母の皺父の白髪に秋思かな | 蛙星 | |
45 | バス停に壊れたベンチ秋の雨 | 蛙星 | |
16 | 一斉に山々の伏す秋夕焼 | ひろし | |
111 | 雲の秋合流点の岸に立ち | ひろし | |
20 | 蜻蛉の雨に打たれてたぢろがず | 糀 | |
73 | 九段坂青松虫の呼び止むる | 糀 | |
25 | まだ会へぬけれども同じ月仰ぎ | 馨子 | |
39 | おもかげやカンナの花の丈高く | 馨子 | |
29 | 養生テープ剥がす台風一過かな | 瑛子 | |
38 | コスモスの風吹き父の見ゑ隠れ | 京子 | |
51 | 虫の音や家人の布団直しけり | 玄了 | |
54 | 天高し自販機で買ふ山の水 | うらら | |
61 | 薄紅葉くぐりレンガの旧校舎 | 真美 | |
62 | 莟やら花やら白き萩風に | 由美 | |
86 | 里芋や煮つころがしに取りかかる | 月子 | |
87 | 露草のコバルト色の踊り出し | 紅舟 |
☆ 谷地海紅予選 ☆
3 | 落日の明るさばかり野紺菊 | 美知子 | |
4 | 俳句とは心の杖よと敬老日 | 美雪 | |
10 | 月照らす原発被災の町無人 | 悠 | |
14 | 秋茄子の味噌汁かをる朝の活 | 光江 | |
17 | 残された母の遺品に糸瓜水 | 和子 | |
21 | 行く秋やカーナビまかせ田舎道 | ひぐらし | |
28 | 納骨の読経響きて梅紅葉 | ふうせん | |
52 | 花野つて秋の季語なのと少女らが | 稲子麿 | |
53 | 渋柿や夫と渋抜き三年目 | 糀 | |
69 | 名月や宇宙旅行も夢でなく | 喜美子 | |
95 | 庭石の秋の蛙の独唱す | ふうせん | |
96 | 二人とも産土ことば草の花 | 宏美 | |
98 | 俺はまだ野良だこほろぎもう寝るか | 由紀雄 | |
103 | 道端の野草色づく小さい秋 | 春代 | |
108 | 小名木川萬年橋に小鳥来る | 梨花 |
☆ 髙橋千寿選 ☆
9 | 降り立てば故郷の村蕎麦の花 | 喜美子 | |
10 | 月照らす原発被災の町無人 | 悠 | |
16 | 一斉に山々の伏す秋夕焼 | ひろし | |
19 | 忘れじと告ぐるごとくに彼岸花 | 稲子麿 | |
20 | 蜻蛉の雨に打たれてたぢろがず | 糀 | |
25 | まだ会へぬけれども同じ月仰ぎ | 馨子 | |
40 | 秋澄むや水面に映る雲白し | ちちろ | |
49 | 鰯雲共に行きたや幾山河 | 喜美子 | |
69 | 名月や宇宙旅行も夢でなく | 喜美子 | |
73 | 九段坂青松虫の呼び止むる | 糀 | |
80 | 月が来てだんご食べたか覗ふ子 | 由美 | |
82 | ルビーかとみせて柘榴のおとしだね | 笙 | |
85 | カラカラと色無き風に風見鶏 | 悠 | |
97 | 三日月のかけら拾ひし水面かな | エール |
今回の選句にあたって、まだ句の善しあしがよく分からぬ私は、何を基準にするかということから考えることにしました。そこで「白山句会報第48号」の「俳話少々」を思い出しました。ここで先生が、〈独り善がり〉の句にならないために「いつも自戒としていることのひとつ」としてご紹介くださっているのが「句を仕上げる段階で〈これで読者は気持ちよくなるか〉と考える」ということです。この「読者が心地よいかどうか」を選句の拠り所とさせていただくことにしました。
では、私にとって「心地よい句」とはどのような句なのか。それは、読んだあとに、 ①美しい景色が浮かぶ句 ②心が温かくなる句 ③共感を覚える句、の3点であると考えました。全114句を拝読して、14句を選ばせていただきました。その内訳は以下の通りです。なお、選ぶことができなかった素晴らしい句がたくさんあると思いますが、初心者のことゆえご容赦いただけましたら幸いです。
①美しい景色が浮かぶ句
9 降り立てば故郷の村蕎麦の花/16 一斉に山々の伏す秋夕焼/40 秋澄むや水面に映る雲白し/82 ルビーかとみせて柘榴のおとしだね/85 カラカラと色無き風に風見鶏/97 三日月のかけら拾ひし水面かな
②心が温かくなる句
80月が来てだんご食べたか覗ふ子
③共感を覚える句
10月照らす原発被災の町無人/19忘れじと告ぐるごとくに彼岸花/20蜻蛉の雨に打たれてたじろがず/25まだ会へぬけれども同じ月仰ぎ/49鰯雲共に行きたや幾山河 /69 名月や宇宙旅行も夢でなく/73 九段坂青松虫の呼び止むる
最後に、この場をお借りして海紅先生、事務局の皆さま、芭蕉会議の皆さまに心より感謝申し上げます。このような状況下にありながらも、こうして句会を楽しませて頂いておりますこと本当に有難く思います。
☆ 中里蛙星選 ☆
2 | 弓道着の少女急ぐや秋の駅 | うらら | |
9 | 降りたてば故郷の村蕎麦の花 | 喜美子 | |
14 | 秋茄子の味噌汁かをる朝の活 | 光江 | |
20 | 蜻蛉の雨に打たれてたぢろがず | 糀 | |
25 | まだ会へぬけれども同じ月仰ぎ | 馨子 | |
30 | 初めての顔にあいさつ豊の秋 | 宏美 | |
33 | 秋の虹通りがかりの人と見る | 千寿 | |
47 | 雨あがる日差しは秋を告げてをり | 月子 | |
51 | 虫の音や家人の布団直しけり | 玄了 | |
54 | 天高し自販機で買ふ山の水 | うらら | |
89 | 中腰で稲穂をつつむ無骨な手 | 窓花 | |
104 | かまきりに残る仕合せ不仕合せ | 海紅 | |
109 | 再読はうれしと思ふ秋灯 | 月子 |
海紅先生から「無制限選句」のお話をいただいた時、即座に「いやいや、無理ですって!」とお断りしようと思いましたが、少し考えて「何事も経験だし、せっかくのお話だから」と思い直し、お受けさせていただきました。私の選句は「解釈が難しい句」や「上手い句」ではなく、読者(ここでは私)が「いいな、と思った句」に絞って選ばせていただきました。まだまだ未熟者の私ですので、選評も拙い表現ばかりになってしまった事、どうぞご勘弁下さい。
2「弓道着の」は柔道でも空手でもなく、弓道着が秋に合うな、と感じました。9「降りたてば」は、蕎麦の花の香りで故郷を感じたのでしょうか。いいと思いました。14「秋茄子の」は、朝の味噌汁でシャキッ!とするようでいいですね。20「蜻蛉の」は、蜻蛉ならありそうな景だと思いました。25「まだ会へぬ」は女性の句でしょうか。ロマンがあっていいと思いました。30「初めての」は、馴染みではなく「初めての顔」と詠んだ所がいいと思います。33「秋の虹」も「通りがかりの」がいいですね。実景が浮かびます。47「雨あがる」は暑さもひと雨降って、ふと秋を感じた所がうなずける点でした。51「虫の音や」は、私は奥様がご主人の布団を直している、と思いました。優しさがいいですね。54「天高し」は都会ならではの句でしょうか。同じ経験があるので、うなずける句です。89「中腰で」は「無骨な手」に黙々と働く老夫が浮かびました。いい句だと思います。104「かまきりに」は、虫の世界にも仕合せ、不仕合せがあるという、作者の発想が面白いです。109「再読は」は、秋の夜に、昔読んだ小説を読み返す愉しみが感じられていいと思いました。
私の選句、選評は以上です。本当に拙い選評で恥ずかしい限りです。ただ、こういう機会を与えてくださった海紅先生に感謝致します。ありがとうございました。また、お世話役の皆様、会員の皆様、ありがとうございました。長々と失礼致しました。
☆ 互選結果 ☆
8 | 一斉に山々の伏す秋夕焼 | ひろし | |
8 | ユニフォーム並ぶ物干し鰯雲 | 千寿 | |
5 | 弓道着の少女急ぐや秋の駅 | うらら | |
5 | 短日を草刈り終へて使ひ切る | 和子 | |
5 | 天高し快音連発草野球 | ふみ子 | |
4 | 月照らす原発被災の町無人 | 悠 | |
4 | 新涼やセラピードッグ静かに来 | 由美 | |
4 | 秋茄子の味噌汁かをる朝の活 | 光江 | |
4 | 秋の虹通りがかりの人と見る | 千寿 | |
4 | かまきりに残る仕合せ不仕合せ | 海紅 | |
4 | キラキラの秋刀魚手土産病む人に | つゆ草 | |
3 | 思ひ入る国字の鰯なます食む | 憲 | |
3 | 蜻蛉の雨に打たれてたぢろがず | 糀 | |
3 | 養生テープ剥がす台風一過かな | 瑛子 | |
3 | 秋澄むや水面に映る雲白し | ちちろ | |
3 | 天高し自販機で買ふ山の水 | うらら | |
3 | 己が非をみとめて戻る爽やかに | 海紅 | |
3 | 薄紅葉くぐりレンガの旧校舎 | 真美 | |
3 | 母一人鶏頭染まる家に住む | 京子 | |
3 | 九段坂青松虫の呼び止むる | 糀 | |
3 | ルビーかとみせて柘榴のおとしだね | 笙 | |
3 | どこまでも道まつすぐに秋の空 | ひぐらし | |
3 | 中腰で稲穂をつつむ無骨な手 | 窓花 | |
2 | 俳句とは心の杖よと敬老日 | 美雪 | |
2 | 玉砂利に西日さしたる秋彼岸 | 玄了 | |
2 | 残暑光ヒメノボタンを土手に植ゑ | 千年 | |
2 | 渡し場に残る踏石秋日傘 | 梨花 | |
2 | まだ会へぬけれども同じ月仰ぎ | 馨子 | |
2 | 初めての顔にあいさつ豊の秋 | 宏美 | |
2 | 馬肥ゆるお国訛りの湯治宿 | ひぐらし | |
2 | 雨あがる日差しは秋を告げてをり | 月子 | |
2 | 花野つて秋の季語なのと少女らが | 稲子麿 | |
2 | 秋空に雑踏恋ひし市恋ひし | 瑛子 | |
2 | 子規に種送る鴎外鶏頭花 | 千年 | |
2 | 風止みてこぼるる萩の地上の絵 | 光江 | |
2 | 図書館へ続く道の辺花カンナ | うらら | |
2 | 三日月のかけら拾ひし水面かな | エール | |
2 | 花おしろい下校の子らの声近し | 馨子 | |
1 | 落日の明るさばかり野紺菊 | 美知子 | |
1 | 刈田踏む供のカラスも微笑まん | 由紀雄 | |
1 | 降り立てば故郷の村蕎麦の花 | 喜美子 | |
1 | 犬の尾の上向く朝の秋桜 | 真美 | |
1 | 背に夕日貼り絵になりし秋の山 | ふみ子 | |
1 | 萩の庭二人緑茶で串団子 | ちちろ | |
1 | 明月をスマホに送る友ありて | 紅舟 | |
1 | 芭蕉葉のまだ乱れざる彼岸かな | 千年 | |
1 | 草虱ぼやきつ妻は一つづつ | 憲 | |
1 | 三日月や絹のブラウス繕ひぬ | 貴美 | |
1 | 語りたや友のつて絶え吾亦紅 | 美知子 | |
1 | 紫蘇花に羽すりあはす秋の蝶 | 香粒 | |
1 | バス停に壊れたベンチ秋の雨 | 蛙星 | |
1 | 名月や砂漠の仏跡風渺々 | 悠 | |
1 | 真つ赤だな秋の歌声川下る | 美雪 | |
1 | 鰯雲共に行きたや幾山河 | 喜美子 | |
1 | 虫の音や家人の布団直しけり | 玄了 | |
1 | 渋柿や夫と渋抜き三年目 | 糀 | |
1 | 粒餡の好きな義父母の墓洗ふ | 梨花 | |
1 | 秋風や上り坂道なんのその | ふみ子 | |
1 | 莟やら花やら白き萩風に | 由美 | |
1 | 秋晴れや地図を片手に腕まくり | 玄了 | |
1 | 脈拍の平均値かな柿日和 | 宏美 | |
1 | 月が来てだんご食べたか覗ふ子 | 由美 | |
1 | カラカラと色無き風に風見鶏 | 悠 | |
1 | 露草のコバルト色の踊り出し | 紅舟 | |
1 | 通り雨止んで灯下の虫の声 | 真美 | |
1 | 台風の情報耳に塩むすび | 美雪 | |
1 | 俺はまだ野良だこほろぎもう寝るか | 由紀雄 | |
1 | どこからかカレーの香り秋の宵 | 千寿 | |
1 | 故郷を繋ぐ彼方に鰯雲 | 静枝 | |
1 | 休耕田風の足跡秋うらら | 光江 | |
1 | 素十忌や八郷も色づき人恋し | 京子 | |
1 | 再読はうれしと思ふ秋灯 | 月子 |
☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、青柳光江、荒井ふうせん、礒部和子、市川千年、植田ひぐらし、宇田川うらら、梅田ひろし、大江月子、尾崎喜美子、荻原貴美、尾見谷静枝、梶原真美、加藤 悠、佐藤馨子、椎名美知子、柴田 憲、篠崎稲子麿、鈴木香粒、谷 美雪、丹野宏美、髙橋千寿、高橋由紀雄、千葉ちちろ、内藤玄了、中里蛙星、西野由美、根本梨花、平塚ふみ子、備後春代、古崎 笙、眞杉窓花、水野紅舟、三木つゆ草、村上エール、森田京子、谷地元瑛子、月岡 糀
投句参加者数:38名
選句参加者数:谷地海紅、髙橋千寿、中里蛙星 +31名
<以上取りまとめ、糀記>
< 了 >