□日時 2021年6月10日(木)~6月19日(土)、第6回ネット句会
□会場 「芭蕉会議」サイト会員フォーラム(専用掲示板)
〈 俳 話 少 々 〉
自己診断―読者が心地よいかどうか―
反対する人がいることを承知で、〈俳句は読者のもの〉と言い続けている。これは〈俳句の十七拍という制限はやっかいだが、省略する箇所をまちがえてはならぬ〉、〈安易に切って(切字を入れて)はならぬ〉ということである。
なぜなら〈読者が理解できないから〉である。読者の理解できないものを〈独り善がり〉という。〈ひとり相撲〉と言い替えてもよい。それが好きなら、わざわざ座に集うことはない。
そうならないために、どういう努力が可能か。一案だが、句を仕上げる段階で〈これで読者は気持ちよくなるか〉と考える。その判定のために〈自分で口語訳してみる〉ことだ。以上、いつも自戒としていることのひとつを紹介した。
さて、今回の句稿を無記名状態で拝見して、キラキラする句のなかに、つゆ草、エールのお二方が含まれていた。すなわち無制限の選句をお願いした。<海紅記>
〈 句 会 報 告 〉
一部の作品について、作者の意図をそれない範囲で、表現を改めた句が含まれています。また、制限なく選句をお願いした三木つゆ草・村上エール、両氏の選、及び海紅選は互選の点数に含まれていません。
☆ 谷地海紅選 ☆
15 | 条幅に墨の濃淡風薫る | つゆ草 | |
70 | 乱舞する雀二十羽明易し | つゆ草 | |
52 | あてどなく歩きしそこに揚羽蝶 | エール | |
83 | 立ち話おとなりさんの枇杷たわわ | エール | |
87 | 梅雨めくや車窓の富士の見えぬまま | ふみ子 | |
99 | 水音は鳥の羽ばたき夏来る | ふみ子 | |
81 | 夏服や散髪の子の大人びて | 糀 | |
105 | 子らのあと追ひかけてゐる夏の蝶 | 糀 | |
56 | 「ご自由に」朝顔の苗並べをり | ふうせん | |
75 | 風渡る笊に並びし青き梅 | ふうせん | |
29 | 朝刊のインクの匂ひ走り梅雨 | 馨子 | |
46 | 農を継ぐ秋田美人や栗の花 | 馨子 |
☆ 谷地海紅予選 ☆
1 | 濃紫陽花母の着物に鋏入れ | 光江 | |
7 | 端居する母のぽつりと独り言 | 蛙星 | |
11 | 山案内あかざの杖を貸すといふ | 美知子 | |
22 | 仏壇の父にまづ注ぐビールかな | ちちろ | |
41 | 老鴬の谷渡り行くハーブ園 | 喜美子 | |
43 | 野良猫に隣りてベンチ夏は来ぬ | 憲 | |
47 | 一回りしてひと休み燕の子 | 真美 | |
68 | 紫陽花のもてなしを受け無人駅 | 喜美子 | |
51 | 一駅を歩くたそがれ夏至近し | 月子 | |
85 | 緑陰に月待塔も並びをり | 偲子 | |
89 | 百名の採点終へて夏の宵 | 窓花 | |
95 | 川原の小石眩しき立夏かな | ひぐらし | |
109 | 紫陽花のまはり明るき朝の雨 | 貴美 |
☆ 三木つゆ草選 ☆
1 | 濃紫陽花母の着物に鋏入れ | 光江 | |
4 | 五羽ゐれば五つの巣立ちつばめの子 | 海紅 | |
5 | 山法師瞼に揺らぐ逝きし人 | ふみ子 | |
9 | 梅雨の夜シドレミファソラ屋根の音 | 美雪 | |
16 | どの窓も傘の干されて夏つばめ | 偲子 | |
17 | 墨東や荷風百句に芥子の花 | 悠 | |
24 | 短夜や子の数だけの洗ひ物 | 真美 | |
29 | 朝刊のインクの匂ひ走り梅雨 | 馨子 | |
32 | 透析と生きる今年も父の日も | 和子 | |
40 | 行き行きて雲に触れたし夏野かな | 偲子 | |
50 | 目覚むれば味噌汁匂ひ夏に入る | ちちろ | |
81 | 夏服や散髪の子の大人びて | 糀 | |
83 | 立ち話おとなりさんの枇杷たわわ | エール | |
96 | マイペース歩道の脇の花ざくろ | 紅舟 | |
100 | 薔薇屋敷今日も灯の点かぬまま | うらら |
このところ不調で、ろくな句も作れていない私が選者など引き受けてよいものかと不安でしたが、先生から「このたびはよい句が出来ましたね、という判断でお願いしているのに、無理ですとか、辞退しますと言われると、他をあたるために、またボクの仕事が増えます」とメールがあって、少しでもお役に立つならという気持ちで、上記のような選句をさせていただきました。選評などは出来ませんが、以下直感的に目に留まった句の感想を述べさせて頂きます。
1「濃紫陽花」は思い出深いお母さまの着物で、小物でも作られるのでしょうか。濃紫陽花が効いていると思います。4「五羽ゐれば」は五羽の燕の子がすべて巣立ったことへの喜びと、見守っていた作者の愛に溢れる句だと思いました。9「梅雨の夜」はシドレミファソラが何とも面白いオノマトペだと感心しました。17「墨東や」は墨東が隅田川東岸(墨田区)の雅称で、永井荷風に芥子の花を詠んだ句があることを教えられ、どこか品格のある句と思いました。32「透析と」は少し重い句とも感じましたが、心に染みました。40「行き行きて」は何とも気持ちのハレバレとする句です。50「目覚むれば」は初夏のころの若葉や風の匂いはいつもと違う感じがしますので、味噌汁にそれを感じたのでしょう。最初は季が動くかもしれないと考えましたが、初夏ならではの句であると思い直しました。80「夏服や」は六月になると生徒たちは皆夏服となり、清々しさを感じます。そこが孫の姿と重なりました。83「立ち話」は何とも穏やかな日常を上手く切り取った句とみました。100「薔薇屋敷」はもう誰も住んでいないお屋敷なのでしょうか。薔薇に「あわれ」を感じます。
長くなりましたが、以上です。
☆ 村上エール選 ☆
1 | 濃紫陽花母の着物に鋏入れ | 光江 | |
7 | 端居する母のぽつりと独り言 | 蛙星 | |
21 | コロラトゥーラ青葦原を番ひ鳥 | 瑛子 | |
27 | 紫陽花やもの思ふ日の青深し | うらら | |
29 | 朝刊のインクの匂ひ走り梅雨 | 馨子 | |
37 | 早乙女の薄紅囃す笛太鼓 | ひぐらし | |
45 | 海風に紫にほふジャカランダ | 喜美子 | |
46 | 農を継ぐ秋田美人や栗の花 | 馨子 | |
51 | 一駅を歩くたそがれ夏至近し | 月子 | |
62 | 百匹に百の孤立や子かまきり | 海紅 | |
69 | 父の日の窓辺の山は青からむ | 千年 | |
70 | 乱舞する雀二十羽明易し | つゆ草 | |
88 | 銀竜草ひと息つかむ上り道 | 千年 | |
91 | 子かまきり乗せる一葉の頼もしく | 海紅 | |
105 | 子らのあと追ひかけてゐる夏の蝶 | 糀 |
突然の選句依頼のメールに驚きました。大学院の谷地ゼミのころ、すぐに臆病風に吹かれる私に「四の五の言わず」と、二度ほど指導されたことが頭をよぎり、これは断れないなとお受けしました。が、全110句を目の当たりにして、動揺が収まりませんでした。
昨夏のネット句会は、紫陽花・梅雨・暑さとお題がありましたが、今回はざっと数えても70を超す季語です。どうしようと、まず知らない言葉を調べることから始めました。
一部を紹介します。恥ずかしながら、花の名前とは知らずに検索したものもありました。5「山法師」の花言葉は友情でした。10「釣忍」はシノブグサを輪形に束ねて、軒端につるす。45「ジャカランダ」は紫色の花で、熱海市のHPへリンクされました。それで「海風」か。88「銀竜草」は別名がユウレイタケで、写真もそのものでした。7「端居(はしい)」は涼を求めて縁側などにいること。内容が分かれば、山口百恵さんの「秋桜」の一節が頭の中に流れました。21「コロラトゥーラ」はイタリアの音楽用語、ユーチューブで聴いたことがあるメロディーが流れ、小鳥の囀りの様でした。17「墨東」、65「太平楽」、85「月待塔」等々、季語以外の知らない言葉もあり、大変勉強になりました。
わが家の裏は生駒山です。自然に囲まれているので、62と91の句に描かれる「子かまきり」や105「夏の蝶」、70「雀二十羽明易し」、69「窓辺の山は青からむ」など、身近に感じるものから、好きな句、分かる句を選びました。読者の力不足をご容赦ください。
コロナ禍の閉塞感の中、無気力に過ごしていたのですが、今週はパソコンの前に座り、久々に充実した時間を過ごさせていただきました。先生をはじめ、事務局の方々、芭蕉会議の皆様に感謝申し上げます。
☆ 互選結果 ☆
10 | 五羽ゐれば五つの巣立ちつばめの子 | 海紅 | |
6 | 一駅を歩くたそがれ夏至近し | 月子 | |
6 | 夏服や散髪の子の大人びて | 糀 | |
5 | 端居する母のぽつりと独り言 | 蛙星 | |
5 | 短夜や子の数だけの洗ひ物 | 真美 | |
5 | その花を残し草取り通学路 | 京子 | |
5 | 川原の小石眩しき立夏かな | ひぐらし | |
4 | 濃紫陽花母の着物に鋏入れ | 光江 | |
4 | 紫陽花やもの思ふ日の青深し | うらら | |
4 | 朝刊のインクの匂ひ走り梅雨 | 馨子 | |
4 | 粽解く気持ちもふつとほどけゆく | 馨子 | |
4 | 行き行きて雲に触れたし夏野かな | 偲子 | |
3 | 山案内あかざの杖を貸すといふ | 美知子 | |
3 | 条幅に墨の濃淡風薫る | つゆ草 | |
3 | 三階の万緑の海我が窓は | 静枝 | |
3 | 一回りしてひと休み燕の子 | 真美 | |
3 | 紫陽花のもてなしを受け無人駅 | 喜美子 | |
3 | 子かまきり乗せる一葉の頼もしく | 海紅 | |
3 | 紫陽花のまはり明るき朝の雨 | 貴美 | |
2 | 梅雨の夜シドレミファソラ屋根の音 | 美雪 | |
2 | 爪を切る音の淫らや釣忍 | 月子 | |
2 | コロラトゥーラ青葦原を番ひ鳥 | 瑛子 | |
2 | 大皿に万緑盛りてランチかな | つゆ草 | |
2 | 野良猫に隣りてベンチ夏は来ぬ | 憲 | |
2 | 海風に紫にほふジャカランダ | 喜美子 | |
2 | 農を継ぐ秋田美人や栗の花 | 馨子 | |
2 | 暮れなづむ街羅の裾さばき | 光江 | |
2 | 走り梅雨声高に行く竿竹屋 | 月子 | |
2 | 風渡る笊に並びし青き梅 | ふうせん | |
2 | はつ夏といふも好もし風渡る | 貴美 | |
2 | 水音は鳥の羽ばたき夏来る | ふみ子 | |
2 | 浮草や新宿騒乱五十年 | 稲子麿 | |
2 | 藤棚は薄暗しさなぎの気持ち | 由美 | |
1 | 十薬や自粛の庭に広々と | 宏美 | |
1 | 山法師瞼に揺らぐ逝きし人 | ふみ子 | |
1 | 薔薇かをり通り過ぎなむ人包む | 瑛子 | |
1 | 朝顔の小さきふたば貰ひ受け | ふうせん | |
1 | 遠雷やそれでもやはりゆかまいか | ひぐらし | |
1 | どの窓も傘の干されて夏つばめ | 偲子 | |
1 | 梅雨晴の夜明け朗らかにほひたつ | 由美 | |
1 | 山滴るこは神座(かみくら)の別天地 | 稲子麿 | |
1 | 仏壇の父にまづ注ぐビールかな | ちちろ | |
1 | あめんぼう意外な方へ進みをり | エール | |
1 | 田植する子の声響くぬるぬるだ | 蛙星 | |
1 | 透析と生きる今年も父の日も | 和子 | |
1 | 夏木立光こぼれし影の濃さ | 玄了 | |
1 | 遠雷に怯えつ狗も遠吠えし | 蛙星 | |
1 | 黒々と都会の夜の梅雨の川 | 悠 | |
1 | 金魚草ふる家の土について来し | 香粒 | |
1 | 割れ舗道をも棲み処にと蟻出入り | 由紀雄 | |
1 | 登校児すこし離れてミニ日傘 | 瑛子 | |
1 | 「ご自由に」朝顔の苗並べをり | ふうせん | |
1 | 牧少し残せとぽつり紫陽花忌 | 宏美 | |
1 | 朝顔を見つめし瞳ベースボールキャップ | 玄了 | |
1 | 百匹に百の孤立や子かまきり | 海紅 | |
1 | 五月雨や五右衛門風呂の太平楽 | 稲子麿 | |
1 | 風揺らぐ緑陰の下至福の場 | 春代 | |
1 | 風薫る茶店の旗に誘はれて | 由紀雄 | |
1 | ダンスする子らのそばにはひめぢよをん | 糀 | |
1 | 梅雨めくや車窓の富士の見えぬまま | ふみ子 | |
1 | 百名の採点終へて夏の宵 | 窓花 | |
1 | 紫陽花の隣は家を毀す音 | 梨花 | |
1 | 薔薇屋敷今日も灯の点かぬまま | うらら | |
1 | 贋作の前に佇ちゐしサングラス | 宏美 | |
1 | 紫陽花の葉を滑るアリ散歩道 | 京子 | |
1 | 庭端へ熱き視線や花柘榴 | 静枝 | |
1 | 子らのあと追ひかけてゐる夏の蝶 | 糀 |
☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、青柳光江、荒井ふうせん、礒部和子、市川千年、植田ひぐらし、宇田川うらら、大江月子、大石偲子、尾崎喜美子、荻原貴美、尾見谷静枝、加藤 悠、佐藤馨子、椎名美知子、柴田 憲、篠崎稲子麿、鈴木香粒、谷 美雪、丹野宏美、高橋由紀雄、千葉ちちろ、月岡 糀、内藤玄了、中里蛙星、西野由美、根本梨花、平塚ふみ子、備後春代、古崎 笙、眞杉窓花、水野紅舟、三木つゆ草、村上エール、森田京子、谷地元瑛子、梶原真美
投句参加者数:37名
選句参加者数:谷地海紅、三木つゆ草、村上エール + 29名
<以上取りまとめ、真美記>
< 了 >