□日時 2020年11月20日(木)~12月6日(日)、第4回ネット句会
□会場 「芭蕉会議」サイト会員フォーラム(専用掲示板)
そろそろ吟行句会を再開してはどうかという提案がありましたが、コロナ渦の社会を総合的に判断して、今年4回目のネット句会になりました。今回も36名と沢山の方が参加されました。新しい試みとして、希望者には「ひと言鑑賞」(感心した点)を添えて頂き、掲示板に公表しました。
なお、11月11日に相澤泰司先生早世。突然の訃報に接し、心の整理がつかないままで句会を進めましたが、投句には追悼句も寄せられ、哀しみを共にすることができました。謹んで御冥福をお祈りいたします。 <右稀記>
〈 俳 話 少 々 〉
体調と同じで、俳句はその時々で調子のよいときと、悪いときがある。今回の句会レベルが全体的に高かったことは嬉しい。自画自賛のようで気がひけるが、前回(第3回ネット句会/白山句会報第45号)の俳話少々で、やや熱く語った結果であればよいのだが。
俳諧とか俳句という文化には、各人の人生における癒しと代謝の効用が備わっている。それを支えに、賑々しい再会がかなう日まで、日常を大切に過ごされたい。
なお、今回の海紅選は本選と予選にわけてみた。捨てがたい句が多かったから。 <海紅記>
〈 句 会 報 告 〉
一部の作品について、作者の意図をそれない範囲で、表現を改めた句が含まれています。また、制限なく選句をお願いした尾見谷静枝・佐藤馨子、両氏の選、及び海紅選は互選の点数に含まれていません。
☆ 谷地海紅選 ☆
一茶忌や谷中の墓地をぶらぶらと | 静枝 | ||
立冬や里を歩けばミレーの絵 | 静枝 | ||
猫のへそ天に向かひて日向ぼこ | 馨子 | ||
妹の見立てしショール軽やかに | 馨子 | ||
石段で差し出されし手冬うらら | 千寿 | ||
小春日や少し曲がりし背中追ふ | 千寿 | ||
代筆の近況欄よ都鳥 | 宏美 | ||
紅茶葉の乱舞をながむ小春かな | うらら | ||
日向ぼこ内定通知読み返す | 美雪 | ||
始まりぬ令和二年の里神楽 | 千年 | ||
抽斗にたまりし句帳木の葉髪 | つゆ草 | ||
天高し大樹皆青空を突く | 右稀 |
☆ 谷地海紅予選 ☆
境内の茣蓙の硬さや村芝居 | 紅舟 | ||
レターパックに柚子とレシピを北国へ | 紅舟 | ||
冬の夜遺影の父と酒を酌む | ちちろ | ||
小春日や亡母に電話をしたくなり | ちちろ | ||
返信を待つ楽しみや落葉掻く | 真美 | ||
青空の青を吸ひ込み冬の水 | 真美 | ||
一叢の枯芒あり鏡獅子 | 瑛子 | ||
子等の声うれしうれしと銀杏散る | 京子 | ||
寒月や赤子の頬に頬寄せて | ふうせん | ||
朝霧や見慣れし街の薄化粧 | 玄了 | ||
山茶花や若葉マークの車椅子 | 光江 | ||
飼猫の纏ふ仕合はせ冬日和 | のぶこ | ||
譲られて席まだ温し冬日和 | ひぐらし | ||
新糠を増して味はふ小六月 | 香粒 | ||
流れゆく時の速さよ木の葉ふる | ふみ子 | ||
短日や洗濯物が干したまま | 悠 | ||
悼 相澤泰司先生 | |||
あたゝかき十一月の雲に逝き | 梨花 |
☆ 尾見谷静枝選 ☆
時雨るるや古き手紙の束ほどく | うらら | ||
政宗の寄進灯篭紅葉坂 | ひぐらし | ||
悼 相澤泰司先生 | |||
川原撫子分けてあげると言ひしまま | 梨花 | ||
時雨るゝや張り子の虎の首ゆるゝ | エール | ||
GOTOで帰る故郷炉火赤し | 和子 | ||
うづみ火やかをりほのかに旅のつれ | 笙 | ||
せんの手にこはるを掬ふ﨔かな | 笙 | ||
銀杏散るカフェに今年は一人慣れ | 京子 | ||
マスク満ち世界史画すコロナ禍よ | 憲 | ||
小春日や足踏みミシン目を覚ます | 京子 | ||
もみぢ舞ふ歓声響くミニ列車 | 喜美子 | ||
労ひの詞に言葉に似たり柚子は黄に | 宏美 | ||
返信を待つ楽しみや落葉掻く | 真美 | ||
冬虫もたそがれ知るや土手の闇 | 憲 | ||
香煙に背すぢを伸ばす今朝の冬 | 馨子 | ||
時雨るるやせめて気持ちは晴れにしよ | ちちろ | ||
手袋を脱いで選り取る古書百円 | 月子 | ||
修復の鳥居写すや神無月 | エール | ||
譲られて席まだ温し冬日和 | ひぐらし | ||
小春日や少し曲がりし背中追ふ | 千寿 | ||
雪虫の飛べば故郷に在るごとく | 海紅 | ||
冬の夜遺影の父と酒を酌む | ちちろ | ||
抽斗にたまりし句帳木の葉髪 | つゆ草 | ||
湯豆腐や「お疲れ様」と夫と吾 | つゆ草 | ||
悼 相澤泰司先生 | |||
あたゝかき十一月の雲に逝き | 梨花 | ||
日向ぼこ内定通知読み返す | 美雪 | ||
猫のへそ天に向かひて日向ぼこ | 馨子 | ||
木枯や詩集かかへて教室へ | 由美 |
何度「うーん」とうなって立ち止まったことか。
いつもの選句では、自分中心に自分が共感し、心に響く句を気楽に5句決めましたが今回は、無制限の選句の任で今までのやり方では選句できず、より広く、別の方向からもみることが必要でした。
季語の意味や古い漢字の読み方など歳時記を何度も使いました。
一つ一つの句に作者の心を感じることが多く、日常のささやかな、小さなこと、5,7,5の中に感性と情感が読めた句を選びました。
最後まで迷ったのは、次の2句です。
子等の声うれしうれしと銀杏散る
青空の青を吸ひ込み冬の水
いい句だなあ でも・・・ちょっと疑問が心をかすめて迷いました。
☆ 佐藤馨子選 ☆
時雨るるや古き手紙の束ほどく | うらら | ||
悼 相澤泰司先生 | |||
川原撫子分けてあげると言ひしまま | 梨花 | ||
境内の茣蓙の硬さや村芝居 | 紅舟 | ||
時雨るゝや張子の虎の首ゆるゝ | エール | ||
子等の声うれしうれしと銀杏散る | 京子 | ||
つきすぎず離れすぎずに鴨夫婦 | 悠 | ||
まな板に置く手の白し冬の入り | 香粒 | ||
小春日や足踏みミシン目を覚ます | 京子 | ||
寒卵立たせて興じる爺と婆 | 月子 | ||
労ひの詞に似たり柚子は黄に | 宏美 | ||
銀杏の瓦に落つる神の音 | エール | ||
返信を待つ楽しみや落葉掻く | 真美 | ||
隅といふ隅を好める落葉掃く | 海紅 | ||
朝霧や見慣れし街の薄化粧 | 玄了 | ||
歳重ね初のジーンズ神無月 | 宏美 | ||
飼猫の纏ふ仕合はせ冬日和 | のぶこ | ||
手袋を脱いで選り取る古書百円 | 月子 | ||
譲られて席まだ温し冬日和 | ひぐらし | ||
新糠を増して味はふ小六月 | 香粒 | ||
石段で差し出されし手冬うらら | 千寿 | ||
雪虫の飛べば故郷に在るごとく | 海紅 | ||
代筆の近況欄よ都鳥 | 宏美 | ||
抽斗にたまりし句帳木の葉髪 | つゆ草 | ||
小春日や父の作った卵焼き | のぶこ | ||
悼 相澤泰司先生 | |||
あたゝかき十一月の雲に逝き | 梨花 | ||
小春日や亡母に電話をしたくなり | ちちろ | ||
日向ぼこ内定通知読み返す | 美雪 | ||
悼 相澤泰司先生 | |||
自転車遠乗り雁の道まで制覇しに | 梨花 | ||
木枯や詩集かかへて教室へ | 由美 | ||
立冬や里を歩けばミレーの絵 | 静枝 | ||
流れゆく時の速さよ木の葉ふる | ふみ子 |
☆ 佐藤馨子選評 ☆
コロナ禍という未曾有の日常の中で詠まれた皆様の一句一句を、力不足を感じつつも精一杯読ませて頂きました。旅行や吟行がままならない状況にあって、身近な存在に目を向けた句が多かったように思います。
日々の暮らしの中で、当たり前過ぎて気にも留めなかったことが、新しい言葉の発見や視点を変えることによって新鮮に浮かび上がってくるということに、改めて気付くことが出来ました。
中でも特に印象に残った5句について感想を述べさせて頂きます。
25 小春日や足踏みミシン目を覚ます
暖かい縁側でミシンを踏んでいた亡き母を懐かしく想い出しました。足踏みミシンの視点に立って「目を覚ます」と表現したところが面白いと思いました。
28 寒卵立たせて興じる爺と婆
寒卵の生命力を頂いて、この冬を共に乗り越えたいという老夫婦の願いが伝わる一句です。俯瞰した目でユーモラスに描いているところが好きです。
43 隅といふ隅を好める落葉掃く
「そうそう!」と思わず相槌を打つ一句。何気ない日常の光景ですが、落葉の視点に立って「隅を好める」と詠まれたところが新鮮だと思いました。
53 飼猫の纏ふ仕合はせ冬日和
陽だまりで無防備にまどろむ猫は見ているだけで幸せな気分にさせてくれます。猫が仕合はせを「纏ふ」という表現に、大いに共感しました。
87 悼 相澤泰司先生
あたゝかき十一月の雲に逝き
相澤先生の温厚で優しいお人柄が偲ばれる一句です。
以上、僭越ながら選句と講評を述べさせて頂きました。それぞれの句の世界を追体験する楽しさと同時に我が能力の乏しさを痛感いたしました。選句出来なかった句がありますこと、お許しください。
「自分にとって残しておきたい一句を生み出すための応援歌が芭蕉会議」という海紅先生のお言葉がより一層心に響いて参ります。今回、俳句を学ぶ絶好の機会を与えてくださった海紅先生に感謝申し上げます。
佐藤馨子
☆ 互選結果 ☆
9 | 悼 相澤泰司先生 | ||
川原撫子分けてあげると言ひしまま | 梨花 | ||
9 | 悼 相澤泰司先生 | ||
あたゝかき十一月の雲に逝き | 梨花 | ||
6 | 譲られて席まだ温し冬日和 | ひぐらし | |
5 | 時雨るるや古き手紙の束ほどく | うらら | |
4 | 子等の声うれしうれしと銀杏散る | 京子 | |
4 | 圧巻の大根やぐら越しの空 | 窓花 | |
4 | 手袋を脱いで選り取る古書百円 | 月子 | |
4 | 青空の青を吸ひ込み冬の水 | 真美 | |
4 | 石段で差し出されし手冬うらら | 千寿 | |
4 | 雪虫の飛べば故郷に在るごとく | 海紅 | |
4 | 日向ぼこ内定通知読み返す | 美雪 | |
3 | せんの手にこはるを掬ふ﨔かな | 笙 | |
3 | ちちははの在りし日のこと冬の蝶 | 貴美 | |
3 | 小春日や足踏みミシン目を覚ます | 京子 | |
3 | 柿赤し介護認定受ける夫 | 光江 | |
3 | 寒月や赤子の頬に頬寄せて | ふうせん | |
3 | 銀杏の瓦に落つる神の音 | エール | |
3 | オリオンを横切ってゆく機影かな | うらら | |
3 | 川霧の向かふに高き鳥の聲 | 喜美子 | |
3 | 小春日や父の作った卵焼き | のぶこ | |
2 | 境内の茣蓙の硬さや村芝居 | 紅舟 | |
2 | つきすぎず離れすぎずに鴨夫婦 | 悠 | |
2 | マスク満ち世界史画すコロナ禍よ | 憲 | |
2 | まな板に置く手の白し冬の入り | 香粒 | |
2 | レターパックに柚子とレシピを北国へ | 紅舟 | |
2 | 冬空にあらゆることを忘れけり | 真美 | |
2 | 労ひの詞に似たり柚子は黄に | 宏美 | |
2 | 返信を待つ楽しみや落葉掻く | 真美 | |
2 | 朝霧や見慣れし街の薄化粧 | 玄了 | |
2 | 小春日や少し曲がりし背中追ふ | 千寿 | |
2 | 朝な夕な切り干しチェック日の匂い | 瑛子 | |
2 | 小春日や亡母に電話をしたくなり | ちちろ | |
2 | 鈍色の海を照らせし冬茜 | 玄了 | |
2 | 猫のへそ天に向かひて日向ぼこ | 馨子 | |
2 | 悼 相澤泰司先生 | ||
自転車遠乗り雁の道まで制覇しに | 梨花 | ||
2 | 立冬や里を歩けばミレーの絵 | 静枝 | |
2 | 短日や洗濯物が干したまま | 悠 | |
1 | 政宗の寄進灯篭紅葉坂 | ひぐらし | |
1 | 一叢の枯芒あり鏡獅子 | 瑛子 | |
1 | 時雨るゝや張子の虎の首ゆるゝ | エール | |
1 | 酒の味知らぬまま老ひ落葉踏む | 紅舟 | |
1 | GOTOで帰る故郷炉火赤し | 和子 | |
1 | カラカラと音を奏でて舞ふ落ち葉 | 春代 | |
1 | スズメ来る紅葉のお皿差し出す子 | 美知子 | |
1 | 銀杏散るカフェに今年は一人慣れ | 京子 | |
1 | ちはやふる神立風や草伏せり | 窓花 | |
1 | もみぢ舞ふ歓声響くミニ列車 | 喜美子 | |
1 | 寒卵立たせて興じる爺と婆 | 月子 | |
1 | 灰皿の卓で珈琲路地凍る | 月子 | |
1 | 冬虫もたそがれ知るや土手の闇 | 憲 | |
1 | 香煙に背すぢを伸ばす今朝の冬 | 馨子 | |
1 | 山茶花や若葉マークの車椅子 | 光江 | |
1 | 修復の鳥居写すや神無月 | エール | |
1 | 新そばをかはりばんこに老夫婦 | 玄了 | |
1 | 小春日や二羽の白鳩飛びあへり | ふみ子 | |
1 | 代筆の近況欄よ都鳥 | 宏美 | |
1 | 大根の栄養素分るかと母 | 美雪 | |
1 | 抽斗にたまりし句帳木の葉髪 | つゆ草 | |
1 | 木枯や詩集かかへて教室へ | 由美 | |
1 | 野良猫に餌やる女赤ショール | 悠 | |
1 | 流れゆく時の速さよ木の葉ふる | ふみ子 | |
1 | 鬱然と寺の大樹や冬の月 | つゆ草 | |
1 | 鰤大根母の歳過ぎ母の味 | 美知子 |
☆ 参加者 ☆ <順不同・敬称略>
谷地海紅、青柳光江、荒井ふうせん、市川千年、礒部和子、植田ひぐらし、宇田川うらら、大石のぶこ、大江月子、荻原貴美、尾崎喜美子、尾見谷静枝、梶原真美、加藤 悠、佐藤馨子、椎名美知子、柴田 憲、鈴木香粒、高橋千寿、高橋美智代、谷 美雪、丹野宏美、千葉ちちろ、内藤玄了(改め、邦雄)、西野由美、根本梨花、平塚ふみ子、備後春代、古崎 笙、眞杉窓花、水野紅舟、三木つゆ草、村上エール、森田京子、谷地元瑛子、山崎右稀(以上、36名)
<以上取りまとめ、右稀記>
< 了 >