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五七の追善会
卯の花も母なき宿ぞ冷まじき
芭蕉(続虚栗・夏・貞享四)
前書は五七忌、つまり死後三十五日の仏事における吟詠という意味。句は、毎年美しくながめる卯の花も、母親が死んでしまった今日のこの家には、荒寥として淋しいばかりだという意。表面には顕れていないが、母を失った門人其角の哀しみに共感する作。卯の花は古歌におびただしく詠まれた歌題だから、当時の読者は〈卯の花の憂き世〉(躬恒・古今・夏)とか〈卯の花とアラバ垣根、雪〉(連珠合壁集)などの連想とともに鑑賞できたのかもしれない。一方で古典に通じることの容易ならざる現代だが、この句の鑑賞をよい機会に「卯」と「憂」の音の響き、「卯の花の垣根」、雪と見紛う花の色などのイメージを共有しておくことは、粗末になりつつあるわたしどもの語彙の修復につながるだろう。其角の母は貞享四年四月八日没。芭蕉は嵐雪とともに、五月十二日の追善の会に列席し、其角との三ツ物(発句・脇・第三)「卯の花も母なき宿ぞ冷まじき 芭蕉/香消え残るみじか夜の夢 其角/色々の雲を見にけり月澄みて 嵐雪」を手向けた。
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