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参考資料室 |
『季語の研究』―「雨」によって日本人の四季観をみる― 中 里 郁 恵
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第二節 季語の比較
それでは、『基本季語五〇〇選』、『図説 大歳時記』(春・夏・秋・冬)を参考に、四季ごとにそれぞれの季語をみていきたい。
まずは、春の季語をみていく。春の季語で「雨」と関係する季語は大きく分けて六種類みつかり、その他、あめかんむりの付く季語を踏まえると十五種類となった。
ではまずは、「春霖」からみていきたい。「春霖」は前章で述べたとおり、「春の長雨」のことである。同じものをさしているのに、違うことばでも表現できるところが季語のおもしろさであると感じた。次に「春雷」である。雷は雨と関係してくることが多くある。しかし、あまり春のイメージを持たなかったことから、こういった季節の変化に敏感に反応し、見つけてきた人の感性に魅力を感じている。
「春泥」に、雨との関わりを感じたのは「春雨」による「ぬかるみ」が、あるからである。雨と関わる表現として、泥が使われていることで、雨の関係する「季語」の幅広さを感じた。さらに、「陽炎」も、雨が関係して出来る現象であり、他にも雨ではないが、雨と関わりのある季語があるのではないかという、期待が湧いた。
「春疾風」は、春の「時雨を伴い」やってくることがあるということから、「時雨」が関わってくることばの一つであることを知った。「梅雨」と同じように「時雨」にもさまざまな表現があることに、驚いた。最後に「花曇」である。調べていくと、雨の降る様子も含まれる「季語」であることがわかった。
次に、夏の季語についてみていきたい。夏の季語で「雨」と関係する季語は大きく分けて十三種類みつかり、その他、あめかんむりの付く季語を踏まえると二十種類となった。
はじめに、「夏の空」である。これは、梅雨の明けたころの空を指すことばなので、この季語も雨に関係のある季語である。次に「夏の雲」と、「雲の峰」である。この季語は、どちらも雲のことをさして言ったものである。雲の季語は他に、「五月雲」がある。「五月雲」は時雨と関係している季語であった。雲は、雨を降らせるもとなので、雨との関わりは深いものであると感じている。それから、「卯の花腐し」という季語がある。「陰暦四月を別名卯の花月という」ところからきたものである。「雨」を使わないで「雨」を表現しているところに魅力を感じる季語である。また、「薬降る」という季語も、陰暦の雨を表現した季語である。変わったことばであるが、どんなものか調べてみるとおもしろい。
沖縄の雨期をあらわすことばに、「夏ぐれ」がある。雨期であることから、雨のことをあらわしている季語であることは確かであるが、これが北上して、梅雨になるのである。このことから、梅雨との関わりもみられる季語だ。
そして、私たちに身近な「夕立」である。この季語は、前章でも述べたとおり、「白雨」ともよまれることがある。「夕立」はとても身近であるため、古典でも近代でもたくさんの句が詠まれている。さらに、夕立が過ぎると「虹」ができる。虹は雨上がりに起きる現象であるので、雨との関わりは深いのである。それから、「雷」である。雷は雨を降らせることもある。夏の雷は、よくあることなので雨との関係も想像しやすい。
「雹」は前章で述べたように、「氷雨」と詠まれることもある。
「五月晴」は、一見、雨とは関係ないような季語であるが、梅雨の時期の中で晴れてしまうことをさしている。そこで「五月晴」は、梅雨との関係があることがわかるだろう。
最後に、「朝焼」である。これは、朝焼が見えることで、天気が崩れてしまうということに関係してくる。雨とは、まったく関係のないような季語が、調べていくと「雨」と深い関係をもっていたりすることが、おもしろいと感じた。
では、秋の季語についてみていこう。秋の季語で「雨」と関係する季語は大きく分けて五種類みつかり、その他、あめかんむりの付く季語を踏まえると十四種類となった。
はじめに、「御山洗」である。富士のことを指している季語であるため、耳にしないことばであった。しかし、この季語も調べていくと、富士山に降る「雨」をさしている季語であることがわかった。
次に、「秋の雷」である。雷は夏の印象があるが、春や秋にも起こることがある。「春雷」と同様に、秋にも雷の季語が存在した。特徴があり、頻繁に訪れる夏と違って、雷の印象の少ない春や秋にも、ちょっとした特徴を捉えて「季語」を生み出していくことに興味を覚えた。それから、「秋の虹」である。虹は夏でも述べたように、雨との関わりが深いものである。夏との違いで、「色も淡く儚い」ものであることが、秋の物悲しさを表現しているのではないだろうか。
「霧」は、「霧雨」という季語もあるように、雨とかかわっている季語である。
最後に、「野分」である。「野分」は、「台風」をさしており、強い風のことをあらわしている。しかし、台風は風だけではなく、雨とも関わりを持っている。だから「野分」も、雨と無関係な季語とはいえないのである。しかし、「野分」は台風よりも多くの意味をもっているので、風だけの台風も「野分」には含まれているのである。また、「野分」は『源氏物語』などにも登場し、古くから人々に親しまれている季語である。だからこそ、「野分」は多くの人に詠まれているのであろう。
では最後に、冬の季語についてみていくことにしたい。冬の季語で「雨」と関係する季語は大きく分けて四種類みつかり、その他、あめかんむりの付く季語を踏まえると十九種類となった。
はじめに、「霰」である。「霰」は、雨と降ってくる、「雪あられ」というものがある。雨を含む雪を指しているため、雨にゆかりのある季語ではないだろうか。そして、「霰」は「氷雨」とも表現されている。しかし、夏の季語である「雹」も、「氷雨」という表現が使われている。さらに、「霙」にも同じ意味があるという。つまり、「氷雨」には三つの意味があり、季節を明確にしないと、どの季節のどのことばの意味を表現しているのかわからなくなってしまうと感じた。「霙」は「霰」と似たような景物であるが、「雹」は、季節も違えば、降ってくるものも違う。「雹」はまさに氷の雨である。これらのことを調べていくうちに、「季語」の難しさと奥深さを知った。
次に、「初雪」という季語がある。「初雪」は文字通り「初めて降る雪」である。しかし、気候によっては「雨に混じって」「降り出したり、雪あられで」降ることもあり、完全な雪ではないことがあるということがわかった。そこで、「初雪」も雨と関連している季語であると考えた。最後に、「風花」である。「風花」といえば、雪をイメージしやすいが、調べた結果、「雨のことも」あるということがわかった。「初雪」も「風花」も、雪という印象が強かったが、調べていくことによって、新しい発見をすることができた。
さて、あめかんむりの付く季語も調べたので、簡単に見ていきたい。
あめかんむりの付く季語で、「雪」と「雲」は「雨」との関係がまったくないとはいえないであろう。「雲」は雨の前の段階であるし、「雪」はそれらが結晶化したものであるから、無関係とは言いがたい。特に、雨の少ない冬は「雪」が多く詠まれている。「雪」も、昔からの景物としてたくさんの人に詠まれていることがわかった。
第三節 季語のまとめ
「氷雨」という表現が、「雹」以外に、「霙」や「霰」にも使われていることがわかった。また、冬は「雪」の表現が多いと考えていたが、氷や雪などが雨に混ざって降ってくる現象を表現する季語が多くあった。これも四季がはっきりしている日本の気候と、感情豊かな日本人の成せるものではないのだろうか。
以上のことから、日本は特に「雨」という自然現象が多くあることがわかる。そこに変化をみいだし、それぞれの「雨」の特徴をとらえ、さまざまな「季語」を生み出していった日本人の表現の豊かさを感じる。
「雨」に関係する季語をたどっていくと、さまざまな表現がみられ、そしてそれらは私たちの生活と関係していると感じた。
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