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参考資料室 |
『季語の研究』―「雨」によって日本人の四季観をみる― 中 里 郁 恵
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第三章 「雨」が使われている季語
第一節 季語
以下の文献を参考に、「雨」が使われている「季語」について述べていく。
『基本季語五〇〇選』山本健吉 講談社学術文庫
『合本 俳句歳時記 第三版』角川書店
『大歳時記 第一巻 句歌春夏』集英社
『図説 大歳時記 春』角川書店
『図説 大歳時記 夏』角川書店
『図説 大歳時記 秋』角川書店
『図説 大歳時記 冬』角川書店
【春】
・春の雨(春雨・暖雨)
〔解説〕春に降る雨の総称。
(例句)不精さやかき起されし春の雨 芭蕉
雛見世の灯を引くころや春の雨 蕪村
寺に入れば石の寒さよ春の雨 高村光太郎
・春雨(膏雨・春雨傘・春霖・青柳)
〔解説〕特に晩春の時期に降る雨。
(例句)春雨や蓬をのばす草の道 芭蕉
春雨や食はれ残りの鴨が鳴く 一茶
春雨や槍は霜に焦げながら 芥川龍之介
・春時雨(春の驟雨)
〔解説〕春になって降る時雨のこと。
・春の長雨(春霖・菜種梅雨)
〔解説〕春の雨季にあたり、気温が低めで、降る雨が雪に変わることもある。
・梅若の涙雨
〔解説〕陰暦三月十五日の梅若忌には江戸では雨が多いとされ、天が梅若をあわれんだ涙雨だろう、ということからきている。
・杏花雨
〔解説〕四月五日ごろに降る春雨。これは雪の場合もあるようである。
・菜種梅雨(春の長雨)
・花の雨
〔解説〕サクラの花に降る雨。もしくは、サクラの咲くころの雨である。
(例句)紙衣に濡るとも折らん雨の花 芭蕉
花の雨買ひ来し魚の名は知らず 安住敦
・春驟雨
〔解説〕春のにわか雨のことである。
【夏】
・夏の雨(夏雨・緑雨)
〔解説〕夏に常に降る雨のこと。ただし、五月雨・梅雨・夕立のような特色ある雨ではない。
(例句)着ながらにせんたくしたり夏の雨 一茶
田水にも浮く鳥の来つ夏の雨 吉田冬葉
・迎へ梅雨(梅雨の走り・前梅雨・走梅雨)
〔解説〕五月の末ごろ、早い年では五月中旬に梅雨らしい現象がおとずれる。梅雨に入る前にあらわれる雨期。
・梅雨(ばいう・黴雨・荒梅雨・梅雨湿り・走り梅雨・迎へ梅雨・送り梅雨・戻り梅雨・青梅雨・梅雨雲・梅雨夕方・梅雨前線・梅雨時・梅雨寒・梅雨冷・ついり・梅霖・梅の雨・梅雨空・梅天・五月空・五月雲・梅雨曇・五月曇・墜栗花雨・梅雨じめり・黄梅雨)
(例句)降る音や耳も酸うなる梅の雨 芭蕉
北海の梅雨の港にかゝり船 高浜虚子
妻とあればいづこも家郷梅雨青し 山口誓子
・梅雨空(梅天・五月空・皐月空)
・空梅雨(旱梅雨・涸梅雨)
〔解説〕梅雨の時期なのに雨の降らない年があり、田植えができなかったり、野菜が枯れてしまうことがある。
・五月雨(さつき雨・さみだる・さみだるる・五月雨雲・五月雨傘・皐月雨・梅霖)
〔解説〕梅雨と同じだが、梅雨は時候にも使われることがあるが、五月雨は雨そのものをさしている。
(例句)五月雨や天下一枚うち曇り 宗因
五月雨を集めて早し最上川 芭蕉
五月雨や芋這ひかかる大工小屋 蕪村
五月雨や上野の山も見あきたり 正岡子規
五月雨や小袖をほどく酒のしみ 夏目漱石
五月雨や簑の裡にて腰屈む 山口誓子
・送り梅雨(送梅雨・送りばいう・返り梅雨・戻り梅雨)
〔解説〕梅雨があがるころ、大雨が多く降ったり、雷鳴をともなうこともある雨。
・虎が雨(虎が涙雨・虎が涙)
〔解説〕陰暦五月二十八日の雨。毎年この日は雨が多く降ると言い伝えられている。
(例句)草紙見て涙たらすや虎が雨 路通
女郎花つんと立つたり虎が雨 一茶
寝白粉香にたちにけり虎が雨 日野草城
・濯枝雨
〔解説〕中国で古く、大雨のことをさして言ったことば。
・分龍雨
〔解説〕中国で陰暦五月に降る驟雨をいう。
・樹雨(きあめ)
〔解説〕若葉や青葉のころ森林を通ると、雨も降っていないのに木の葉から大粒の雨が降ってくる。霧が森林を通るとき葉の上で水滴になって降ってくるもの。
・白雨(夕立・ゆだち・よだち・驟雨・夕立雲・夕立風・しらさめ・はくう・夕立晴・夕立後)
(例句)白雨や門脇どのの人だまり 蕪村
白雨や蕗の葉かへす山の風 中勘助
・喜雨(慈雨・雨喜び)
〔解説〕夏、日照りが長く続いて草木が生気を失いかけている時に降る雨。歓喜の雨である。
・氷雨(雹)
〔解説〕激しい雷雨の時に降る氷のかたまり。「氷雨」は霰や霙にも使われている。
・梅雨雷(梅雨の雷)
〔解説〕梅雨のころに鳴る雷。
・梅雨曇(ついり曇・梅雨雲)
〔解説〕五月雲に覆われて、どんよりしている空の状態。
・梅雨闇(五月闇・夏闇)
〔解説〕暑い雲に覆われている梅雨のころの天候を、昼間ですら暗いということから出たことば。
・梅雨晴(五月晴・梅雨晴間・梅雨晴る・梅雨の晴)
〔解説〕梅雨が明けて晴天が続くようになったとき。または、梅雨の合間の晴天をさしていうこともある。
(例句)梅雨晴れや二軒並んで煤払ひ 一茶
梅雨晴や小村ありける峠口 水原秋桜子
【秋】
・秋の雨(秋霖・秋黴雨・秋雨・秋ついり・後の村雨・豆花雨)
〔解説〕毎年九月中旬から、十月半ばにかけて降る秋の長雨。
(例句)鼬啼いた離宮に暮るる秋の雨 蕪村
馬の子の故郷はなるる秋の雨 一茶
紫陽花や青にきまりし秋の雨 正岡子規
三日降れば世を距つなり秋の雨 水原秋桜子
・洗車雨(洒涙雨)
〔解説〕陰暦七月六日に降る雨を洗車雨。
・秋時雨(秋の時雨)
〔解説〕時雨は冬に多いので、単に時雨といえば冬になるが、晩秋にもよく降ることがある。山の近いところに多く、平野には少ない。空は晴れているのに思いもよらぬ雨が降り、まもなくやんでまたもとの晴天に戻るがなにかわびしい感じがする。
(例句)竹売つて酒手にわびむ秋時雨 北枝
秋もはや日和しぐるる飯時分 正岡子規
秋時雨神にぬかづく時に降る 高浜虚子
・霧雨(霧・朝霧・夕霧・夜霧・山霧・海霧・野霧・狹霧・霧襖・霧の籬・農霧・霧の香・霧の海・霧立人・霧の下道・霧の雫・胸の霧・心の霧)
(例句)雨霧の蓑しろがねに岩魚釣 水原秋桜子
・露時雨
〔解説〕秋になって露が一面に降りて、しぐれが降ったようになることがある。これが露時雨である。
【冬】
・初時雨
〔解説〕その冬初めて降る時雨のこと。
(例句)けふばかり人も年よれ初時雨 芭蕉
初しぐれ眉に烏帽子の雫かな 蕪村
黒門やかざり手桶の初時雨 一茶
焼跡の小村すぐるや初しぐれ 高村光太郎
・時雨(時雨るる・朝時雨・夕時雨・小夜時雨・村時雨・片時雨・めぐる時雨・北時雨・北山時雨・横時雨・時雨雲・時雨傘・時雨心地・時雨の色・川音の時雨・松風の時雨・木の葉の時雨・涙の時雨・袖の時雨・袂の時雨・さんさ時雨・月時雨・山めぐり・泪の時雨)
〔解説〕時雨の雨ともいい、秋冬ころに陰晴定めなく降る雨をいう。
(例句)ししししし若子の寝覚の時雨かな 西鶴
作り木の庭をいさめるしぐれかな 芭蕉
難波女の駕に見て行くしぐれかな 几董
天地の間にほろと時雨かな 高浜虚子
もの書きて端近くゐればゆく時雨 山口誓子
・冬の雨(雨氷・凍雨)
〔解説〕冬に降る雨のこと。
(例句)面白し雪にやならん冬の雨 芭蕉
冬の雨柚の木の刺の雫かな 芭蕉
冬の雨火箸ともして遊びけり 一茶
煙突の煙棒のごと冬の雨 高浜虚子
・寒の雨(寒九の雨)
〔解説〕冬の雨のうち、特に時期を寒と限定したもの。
・液雨(入液・出液)
・雨氷
〔解説〕山国によく見られ、高いところで雨が降っている場合にできやすい。
・雪時雨(雪しぐれ)
〔解説〕時雨が雪となり、あるいは雪混じりで降ってくる状態。
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