『言葉は残る―東洋大学俳文学研究会10年の足跡』出版記念句会 |
日時 平成18年6月10日(土) 午後2時締切 三句
吟行 白山神社とその周辺
席題 梅雨・あぢさゐ
場所 東洋大学白山校舎1号館 |
谷地海紅選
十年の月日一書に濃紫陽花 |
安居正浩 |
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あじさゐに老いも若きも集ふかな |
小野修司 |
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麦の穂に広がり消えし夕日かな |
金井巧 |
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梅雨晴間すべり台の子の順を待つ |
中村みどり |
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駅前にティッシュを貰ふ梅雨晴間 |
安居正浩 |
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記念号を手に取るあした皐月晴れ |
尾崎喜美子 |
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立ち話額紫陽花で〔に〕立ち止まり |
中村みどり |
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大歓声梅雨も逃げそにボール蹴る |
谷美雪 |
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晩学に〔の〕紫陽花の咲く通学路 |
根本文子 |
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訪ね来し幼なじみに新茶かな |
園田靖子 |
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鯉跳ねて飛沫の光走り梅雨 |
市川美代子 |
〔 〕は添削 |
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梅田ひろし選
沙羅の花未亡人(ひとり)になりし友の家 |
椎名美知子 |
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十年の月日一書に濃紫陽花 |
安居正浩 |
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四葩より落ちる雫のきらめきぬ |
金井巧 |
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あじさゐの咲く頃亡き父思ひ出し |
千葉ちろろ |
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素通りの出来ぬ丸善夏つばめ |
後藤由貴子 |
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鐚銭(びたせん)の穴のゆがみや梅雨曇り |
後藤由貴子 |
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塩梅のメモ首っ引き梅仕込む |
失名 |
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意地に生きは母は悔いなし著峩の花 |
竹内林書 |
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鉄棒の蹴上がりの空五月晴れ |
櫻木とみ |
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母の日に賜(た)びし紫陽花今年また |
鈴木伊美子 |
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城跡の何処か気品の濃紫陽花 |
礒部和子 |
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互選結果
沙羅の花未亡人(ひとり)になりし友の家 |
椎名美知子 |
3 |
梅雨寒やトマトの花の実にならず |
西村通子 |
2 |
入梅や工事現場の合羽打つ |
小出冨子 |
2 |
霧雨の山あじさいに道迷う |
櫻木とみ |
2 |
十年の歩みそれぞれ梅雨晴れ間 |
根本文子 |
1 |
朝もやに棚田目覚めて河鹿鳴く |
三木喜美 |
2 |
十年の月日一書に濃紫陽花 |
安居正浩 |
4 |
栗の花木末(こぬれ)けぶりて梅雨に入る |
失名 |
2 |
薔薇園の微熱のごとき風まとひ |
梅田ひろし |
3 |
あじさゐに老いも若きも集ふかな |
小野修司 |
1 |
我が墓の著?頃の日月や |
五十嵐信代 |
1 |
素通りの出来ぬ丸善夏つばめ |
後藤由貴子 |
2 |
一輪の紫陽花果てしなき愁ひ |
梅田ひろし |
1 |
麦の穂に広がり消えし夕日かな |
金井巧 |
2 |
読みかけの本終わらずに梅雨に入る |
大江ひさこ |
4 |
梅雨晴間すべり台の子の順を待つ |
中村みどり |
1 |
鐚銭(びたせん)の穴のゆがみや梅雨曇り |
後藤由貴子 |
4 |
梅雨晴れや十年の会ここにあり |
奥山美規夫 |
2 |
雲低く庭の紫陽花色を増し |
尾崎弘三 |
1 |
意地に生きは母は悔いなし著?の花 |
竹内林書 |
2 |
もののふのごとき人の訃梅雨の冷え |
梅田ひろし |
1 |
廃業の小さき書店や梅雨深し |
金井巧 |
2 |
鉄棒の蹴上がりの空五月晴れ |
櫻木とみ |
2 |
蝶ひとつ色づく麦穂泳ぎゆく |
尾崎弘三 |
1 |
ドクダミや沈思黙考白に秘め |
大江ひさこ |
1 |
グラウンドの子等駆けこみて梅雨の入り |
五十嵐信代 |
1 |
梅雨曇風と遊びし野花かな |
三木喜美 |
1 |
梅雨空に産声高く響きけり |
園田靖子 |
2 |
晩学に紫陽花の咲く通学路 |
根本文子 |
3 |
白樺に色を添へたる山つつじ |
三島菊枝 |
1 |
梅雨晴れや双子の手をひく若き母 |
千葉ちろろ |
1 |
紫陽花や言葉は残るとふ一語 |
海紅 |
1 |
紫陽花や心を変へた恋のあり |
大江ひさこ |
2 |
行く子らの背丈に同じ額の花 |
椎名美知子 |
2 |
城跡の何処か気品の濃紫陽花 |
礒部和子 |
1 |
梅雨入りや身仕舞正し墨をする |
尾崎喜美子 |
1 |
通学路紫陽花祭にぎやかに |
織田嘉子 |
2 |
娘(こ)ら帰りシーツ寂しく梅雨空に |
織田嘉子 |
1 |
大歓声梅雨も逃げそにボール蹴る |
谷美雪 |
1 |
小路なほ狭め紫陽花咲きにけり |
後藤由貴子 |
2 |
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参加者:
谷地海紅 奥山美規夫 尾崎喜美子 小出富子 小野修司 根本文子 森つらら 西村通子 織田嘉子
三木喜美 大江ひさこ 梅田ひろし 平岡佳子 三島菊枝 安居正浩 五十嵐信代 鈴木伊美子 園田靖子 山本栄子 千葉ちろろ 礒部和子 後藤由貴子 金井巧 中村みどり 横田公子 竹内林書 谷美雪
(欠席投句者) 尾崎弘三 櫻木とみ 椎名美知子 市川美代子
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出版記念句会の記 奥山美規夫
雨が上がった。梅雨入りの鬱を吹き飛ばして、気温は一気に暑さを増していく。そのせいもあろうが、心が高ぶって目線が定まらない。十年の足跡が本にまとまり、今日はその出版記念句会である。こうしてとりあえず十年の活動にひと区切りをつけることができた。だが、この後五年、十年先のことなど約束できるわけもなく、闇に透かした白紙に近い。ただ地味な活動も文字通り、「言葉が残る」限り、何らかの形にまとめることが出来るという自信と喜びをかみしめることはできた。とはいえ「軽み」「わび」「さび」など未だわからず、言葉の重さはかりつつ苦吟する歩みは遅い。一句ができない寂しさと貧しさを呪い、視線は〆切までの時間を確かめる時計へと向かう。時間はまだある。気持ちをあらたに、句材を求めて寄り道をする。白山神社はあじさい祭りであった。
紫陽花や藪を小庭の別屋敷 芭蕉
紫陽花はもともと日本特産で、西洋に紹介したのはシーボルトであるという。愛人の名「お滝さん」にちなんで「オタクサ」と命名された。今は外国で品種改良され、逆輸入の西洋紫陽花が幅をきかしている。七変化、手毬花、よひら四葩とも呼ばれる、その神秘的な形、色に歩みを止める。その色は土壌のPH濃度よって様々に変化するという。花言葉は「移ろい」。人は賑わい、花は移ろい、心は定まらず、吐息の先の紫陽花を表現できない。軽快な太鼓音が聞こえた。めずらしい猿まわしが始まったのだ。まだ疎らな観衆を前に、猿の乗りは悪い。首輪を引っ張られ、嫌々ながら芸をこなしているのだ。この上下関係は終生続くのだろう。目の前の幼子を威嚇して、ストレスを発散させているようにも見える。その度に主人に怒鳴られ、しぶしぶこなす演技に笑いの輪がひろがっていく。その芸がうまければうまいほど、そのおかしさは哀れでもある。人の世とかわらぬ哀れと言ってよい。
句会は「あじさい」「梅雨」の二題を席題として、その他は当季雑詠として始められた。いまだに句会の形式がのみこめない人もいて、今後の工夫が必要だなどとも思う。今回は祝賀会の予定を優先させたので、句作の時間が少ないという意見もあったが、どうにか無事に終了。参加者の協力に感謝したい。
祝賀会は場所を巣鴨に移して行った。サービスタイムに店長が鐘を鳴らすという喧騒の中で、即興句会を敢行、「かつお」を季題として箸袋に一句をしたため、先生に提出する。僅か数分の思索ながら、その興味深い結果は別記の通りである。
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即興句会の記 於寿司常(巣鴨) 谷地 海紅
即興句会で佳句がうまれる理由は不意打ちに似ているからであろう。理屈をこねている時間がないからであろう。いま心にあることをそのまま言わねばならぬからであろう。金井さんと椎名さんの句がそれにあたるであろう。しっかりと生きていれば、しっかりとした句が生まれるのは当然というべきであろう。字足らずの横田さんの句に◎がついたことを不審に思う人がいるであろう。字足らずは欠陥だが、その場をきちんと見ている点は、ほかのどの句よりも評価できる。その場をきちんと写せば、人情はあとからついてくる。作者は「初鰹/大漁旗を上げて売る」と言いたかったが、「売る」が出なかった。そこは修業の余地を残すが、頭でヒネラナイ描写というものを、ここから学べるであろう。鰹を売る店のひたむきさがこの句にはにじんでる。ひたむきは生きとし生けるものの美しさであろう。なお掲出しない句が九句あり。この捨てられる運命にある句に学ぶことも多い。いつかそんな時間がとれるといい。
◎異国より稀に戻る子初鰹 |
金井 巧 |
◎鰹食べ雨空を見るゆとりあり |
椎名美知子 |
◎初鰹大漁の旗上げて□□ |
横田 公子 |
○初鰹仏壇の父にまづ供へ |
千葉ちちろ |
○記念誌は大海泳ぐ鰹かな |
無記名 |
○新しき波を力に初鰹 |
安居 正浩 |
○夕餉には織部の皿に鰹守る |
鈴木伊美子 |
○飲むほどに声の高まり初鰹 |
梅田ひろし |
○父の日に赤飯と鰹祝ひけり |
山本 栄子 |
○初鰹いなせに胡座くむおまへ |
大江ひさこ |
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