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夕暮や浮世の空のいかのほり
秋之坊(春鹿集)

句意は「夕暮になった。この世は苦しいことも多い。空に浮かんでいるいかのぼり(凧)はのどかでいいなあ」

秋の坊は加賀の人で芭蕉の門人。元禄2年芭蕉がおくのほそ道の旅で当地に立ち寄った時に入門した。元禄3年には幻住庵の芭蕉を訪ねている。

この句は「浮世」を単なる現世と見るか、憂き世と考えるかで解釈は変わるが、憂き世の方が句の深みが出る気がする。

西鶴門で芭蕉とも交流のあった椎本才麿の句に「夕暮れのものうき雲やいかのぼり (其袋)」という似た句がある。現代の本にはこちらの方が多くとりあげられているようだが、私は空の広がりと抒情性を感じさせる秋之坊の句の方が好きだ。ただ『春鹿集』が1706年(宝永3年)の刊、『其袋』が1690年(元禄3年)の刊であるので、秋之坊の句の方が後の作の可能性が高い。類想(等類)との批判があったとしても不思議ではないが、どうだったのか。

(文) 安居正浩
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