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幾人かしぐれかけぬく勢田の橋
丈草(猿蓑)

句意は「急に時雨が来た。何人かの人達が勢田の橋をかけ抜けて行くのが見えるよ」
「勢田の橋」は近江八景の夕照で知られる「瀬田の唐橋」のこと。

作者丈草は犬山藩の武士の家に生れ、24歳で出仕したが、病気を理由に元禄元年27歳で出家し京都に移住。翌年芭蕉に入門。人柄は高潔で 終生芭蕉を尊敬し、死後も弔いを続けた。芭蕉に夜伽の句を求められ「うづくまる薬の下の寒さ哉」で誉められたことでも有名。

「幾人か」の句を見て私はいつも広重の浮世絵『大はしあたけの夕立』が目に浮かぶ 。しかし絵より句の方が迫力で勝るように思う。それは何故か。多くの人が句の魅力にあげる「かけぬく」という躍動感のある表現にある。濡れまいと全速力で橋をかけぬけてゆく人の姿が生き生きと目に見える。

「かけゆく」や「かけたり」なども考えられるが勢いが出ない。言葉を選ぶ大切さがよくわかる句でもある。

(文) 安居正浩
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