越後屋は呉服店で現在の三越の前身。更衣の時期には夏物の生地を切り売りしていた。
句意は「越後屋から絹を裂く音が絶え間なく聞こえてくる。更衣の季節になったのだなあ」
都会派其角らしい歯切れのいい句である。
しかし許六は『俳諧問答』で「うまく作ってはあるが、其角のような蕉門の高弟が詠むような句ではない。このように今風のものを持ち出して句にするのはもっての他だ。末端の弟子たちが新しい句とはこういうものだと勘違いしてしまうではないか」と厳しく指摘している。許六は越後屋や絹物を切り売りすることなど、今風のものを詠むことが新しいのではなくて、古くからある言葉や景の中に誰も気づかなかったことを見つけるのが新しさだと言いたかったようである。
この事は現代の俳句にも当てはまる。はやりの言葉や現代的な事象を詠み込むと新しい句が出来たと思ってしまうが、そういう句はすぐ古びて忘れられてしまうのが常である。
許六の意見はまっとうなものであったのだが、掲出句は其角の代表句として現代にも生き残っている。この句に関して言えば「たいした句ではない」という許六の見立ては、大きくはずれたと言えるかもしれない。
|
(文) 安居正浩 |