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海士の屋は小海老にまじるいとど哉
芭蕉(猿蓑)

句意は「漁師の粗末な小屋には、水揚げされた小海老にエビコオロギ(かまどうま)も混じっているよ」

『去来抄』でこの句は『猿蓑』に取り上げるかどうかで議論になった句として有名であるが、今回は別の点に注目した。読んで気がついたのは、以前この欄で取り上げた句「波の間や小貝にまじる萩の塵」との類似性である。掲句には「小海老」と「いとど」、もう一方は「小貝」と「萩の塵」とそれぞれ形の似かよったものを登場させていること。どちらも「まじる」で句をつないでいること。加えて「小貝」の句のある『おくのほそ道』の章には「濱はわづかなる海士の小家にて」とあり「小海老」の句と同じく背景にはさびしい漁村がある。成立は掲句が元禄三年琵琶湖畔での作と考えられ、「小貝」は元禄二年敦賀の種の浜で詠まれもの。ほぼ似かよった時期であるのも興味深い。

中々面白いところに気がついたと喜んでいたら、たまたま安東次男の『芭蕉五十句』に「小海老」の句は「小貝」の句とも通う成立事情がありそうだという文章を見つけてしまった。具体的な点には触れていなかったが、類似性に着目した指摘だと思われる。素人が気付くことに新しい発見などないとあらためて認識。

(文) 安居正浩
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