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波の間や小貝にまじる萩の塵
芭蕉 (おくのほそ道)

敦賀(福井県)の種の浜での句。
句意は「波の引いたあとに、ますほの小貝にまじって美しい萩の花屑が混じっていることだ」
西行の歌に「汐染むるますほの子貝ひろふとて色の浜とはいふにやあるらむ」があり、芭蕉は大きな期待で浜に出たに違いない。しかしますほの小貝は思ったほどの感動はもたらさなかった。思いのはずれた芭蕉であったが、そこであきらめなかった。目を小貝にまじる萩の花屑に移して、小貝も花屑も生きてくる一句に仕立てあげた。
私は「萩の塵」に焦点を当てて解釈した。ただこの句にかかわるものとして、芭蕉に「小萩ちれますほの小貝小盃(薦獅子集)」や「衣着て小貝拾はんいろの月(荊口句帖)」がある。また荊口の「梅が香にさがす真蘇鈁枋の小貝哉(後の旅集)」の前書きには、「先年越より拾ひきて分けおかれし、手もとのしたはしく」と、芭蕉の持ち帰った小貝を貰ったとある。これらを見ると小貝に芭蕉ががっかりしたとは言い過ぎかもしれない。
研究者の中では「ますほの小貝も萩の花屑も合わせて美しい」とする説、「散りしおれた萩の花屑の対比でますほの小貝の艶やかさが引き立った」とする説、「萩の花屑は小貝から連想した芭蕉の見た幻である」という説などがあり、まったく違った読みのできる曖昧さのある句である。


(文) 安居正浩
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