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参考資料室
茶の句一覧(資料公開)
浜田 真由美

【はしがき】古典俳諧の発句において、お茶に関する作品を集成したものです。提供者の浜田さんは茶道に造詣が深く、俳諧における茶道について、すぐれた卒業論文を提出された平成二十七年度の東洋大学文学部卒業生です。論文そのものは大学に帰属しますので、論文作成の過程で集められた発句一覧を提供していただきました。御厚情に感謝しつつ、今後の学習に役立てたいと思います。(芭蕉会議・谷地)

芭蕉の句
山のすがた蚕が茶臼の覆かな (土芳筆全伝@)
白炭やかの浦嶋が老の箱 桃青(江戸通町@)
小野炭や手習ふ人の灰ぜゝり 桃青(向之岡@)
けし炭に薪わる音かをのゝおく (続深川集@)
しばの戸にちゃをこの葉かくあらし哉 ばせを(続深川集@)
摘けんや茶を凩の秋ともしらで 桃青(東日記@)
侘テすめ月侘斎がなら茶哥 芭蕉(武蔵曲@)
馬に寐て残夢月遠し茶の烟 ばせを(笈日記@)
馬上落ンとして残夢残月茶の烟 (蕉翁句集草稿)
馬上眠からんとして残夢残月茶の烟 (三冊子)
馬に寝て残夢残月茶の烟 (三冊子)
露とく/\心みに浮世すゝがばや 芭蕉(野ざらし紀行@)
五つむつ茶の子にならぶ囲炉裏哉 (茶の草子@)
夕がほや秋はいろ/\の瓢かな 芭蕉(曠野@)
長嘯の墓もめぐるかはち敲 翁(いつを昔@)
蝶もきて酢をすふきくのすあへ哉 (むすび塚@)
てふも来て酢をすふ菊の鱠哉 (蕉翁句集@)
朝茶飲む僧静也菊の花 翁(芭蕉盥@)
山吹や宇治の焙炉の匂ふ時 芭蕉(猿蓑@)
稲雀茶の木畠や迯どころ 翁(西の雲@)
稲すゞめ茶木畠や迯処 芭蕉(真蹟懐紙@)
口切に境の庭ぞなつかしき 芭蕉(深川@)
炉開や左官老行鬢の霜 翁(韻塞@)
木がくれて茶摘も聞やほとゝぎす 芭蕉(炭俵@)
するが地や花橘も茶の匂ひ 芭蕉(炭俵@)
秋ちかき心の寄や四畳半 翁(鳥の道@)
名月の夜やおも/\と茶臼山 (射水川@)
 
茶の湯
鶯に燈を引しほの茶湯かな 野角(渡鳥集@)
夕㒵にいつをむかしぞ茶湯釜 何麦(渡鳥集@)
朝顔に島原ものゝ茶の湯哉 無腸(続明烏@)
名月にあかりもいらぬ茶湯哉 亀翁(三日月日記@)
茶の湯とてつめたき日にも稽古哉 亀翁(俳諧勧進牒@)
茶の湯者の袖の雫や松の露 露川(西国曲A)
炉ふさぎや上へあがりて蹈んで見る 朱拙(後れ馳@)
炉をふさぐ思案さ中や初桜 吾仲(乍居行脚@)
夏切の茶に追悼や和哥の友 守朴(伊達衣A)
口切と隣あはせや根深汁 吟水(北国曲A)
口切や台目をかよふ柄杓の影 洒堂(白馬@)
炉開の日をしめし野の土菜哉 嵐雪(続其袋@)
大服やけさはきのふを初昔 旦藁(みつのかほ@)
春雨や鴬這入ル石灯篭 杉風(韻塞@)
とく/\の水まねかば来ませ初茶湯 素堂(素堂句集A)
連句「茶のよしあしも水次第也」 甲乙(其便@)
梅咲リ松は時雨に茶を立ル比 杉風(武蔵曲@)
小服綿に光をやどせ玉つばき 角上(続猿蓑@)
客亭主ともに老けり炉の名残 諷竹(青莚@)
炉ふさぎや鉢にもえたつ小きりしま 沙明(菊の香@)
早梅や懸燈台のうすあかり 史邦(北の山@)
八畳に炉だゝみ青し衣がへ 浪化(白扇集@)
八畳に炉畳ミあまるころも更 風雅戊寅集
炭とりとしらで瓢のつぼみかな 支考(梟日記@)
釜に立龍をつら/\雲の峰 野坡(野坡吟艸@)
飛石の間やぼたんの花に影 介我(句兄弟@)
飛石の石龍や草の下涼み 俊似(曠野@)
水無月も鼻つきあはす数寄屋哉 凡兆(猿蓑@)
茶の湯にはまだとらぬ也瓢汁 其角(類柑子@)
茶にやつすたもとも浅し山清水 支考(梟日記@)
風炉かけて淋しき松の雫かな 支考(梟日記@)
川霧や茶立ふくさののし加減 其角(五元集拾遺@)
まつむしのりんともいはず黒茶碗 嵐雪(安達太郎@)
秋草や茶人落つく水の冷 野坡(野坡吟艸@)
爐次下駄に雪の音あり萩の露 支考(梟日記A)
初秋や数寄屋足袋はく草履取 許六(韻塞@)
さかやきに月こそのこれ朝茶の湯 二休(皮籠摺A)
風炉釜の肩まで菊の雫かな 浪化(屠維単閼@)
菊の香に風炉すさまじき数寄屋哉 浪化(屠維単閼@)
口切もけふに成たる茶湯かな 浪化(浪化上人発句集@)
煁掃のちりにかくるゝ数寄屋哉 史邦(有磯海@)
すゝ掃や茶臼抱て四畳半 卯七(淡路島@)
口切や峰の時雨に谷の水 野坡(放生会@)
口切のやくそくするや蔦の宿 素覧(鳥の道@)
口切の其みなもとの茶の木原 分橋(北国曲A)
炉びらきや若き隠居の手なぐさみ 可和(庵の記A)
薄氷折目のまゝの茶巾哉 介我(雑談集@)
初雪や火袋古キ石燈籠 木因(きれ/\@)
 
季題としての茶
茶の花や白にも黄にもおぼつかな 蕪村(句集@)
住ばかく茶の花垣ぞうらやまし 白雄(白雄句集@)
茶の花や鴬の子のなきならび 浪化(有磯海@)
茶の花ニ隠んぼする雀哉 一茶(七番日記@)
茶の花の香や冬枯の興聖寺 許六(草苅苗@)
茶の花や利休が目にはよしの山 素堂(素堂句集A)
鴬や茶の木畠の朝月夜 丈艸(浮世の北@)
うぐひすや次第上りの茶木原 丈艸(白馬@)
茶畑には遊ばぬ宇治の螢かな 也有(蟻つかA)
そらは雪茶の木より飛ぶ鼠かな 秋挙(曙庵句集@)
野ゝ雪や高き所は茶の木原 蝶夢(草根句集C)
ひしげたる茶園の上やはるの雪 許六(風俗文選犬註解@)
我庵や都の茶つみ宇治の里 安静(鄙諺集B)
我がいはふは大ぶく辰巳宇治茶哉 玄札(懐子B)
宇治山のきせん群集は茶摘哉 重頼(犬子集@)
手初はいろはをえらぶ宇治茶哉 春可(犬子集@)
山つゞき朝日も宇治の茶摘かな 五瀬(浪化上人發句集A)
宇治に来て屏風に似たる茶つみ哉 鬼貫(七車A)
藤の花さすや茶摘の荷ひ籠 許六(韻塞@)
摘み/\て人顯はなる茶園哉 蘭更(俳諧發句題叢D)
新茶つむや女すがたと三葉二葉 嘉辰(洛陽集@)
古笠へざくり/\とこき茶哉 一茶(七番日記@)
鷹の爪もとる日をえらふ茶摘哉 玄茂(玉海集A)
手も鷹の爪に名のたつ茶つみ哉 素丸(素丸發句集A)
柳から見込メは庫裏の茶時哉 朱滴(稲筏E)
螢見や勢多の茶時の天道干 之道(己が光@)
物うりを畑てよぶや茶摘時 三谷(浪化上人發句集A)
山門を出れば日本ぞ茶摘うた 菊舎(手折菊@)
春雨やはれ間/\の茶摘哥 不知(其便@)
鶯のだまつて聞や茶つみ唄 一茶(文化六年句日記@)
大和路ハ男もす也茶つミ歌  一茶(文化句帖@)
宇治に似て山なつかしき新茶哉 支考(梟日記@)
嵯峨の柴折焚宇治の新茶かな 蓼太(蓼太句集@)
宿/\はみな新茶也麦の秋 許六(芭蕉盥@)
香に匂ふ淺茅が宿の新茶哉 規風(新華摘A)
いざ古茶の名残惜まん五月雨 露川(北国曲@)
なつかしき古茶に床しき新茶哉 露川(北国曲@)
 
喫茶としての茶
白雨や茶を煎る所なを暗し 洞風(其便@)
雪を汲ンで猿が茶ヲ煮けり太山寺 其角(東日記@)
あたらしき茶袋ひとつ冬篭 荷兮(春の日@)
冬は猶奈良のならひで朝茶哉 宗祇(綾錦A)
朝/\や茶がむまく成る雰おりる 一茶(七番日記@)
はつしもや飯の湯あまき朝日和 樗良(樗良発句集@)
茶に塩のたらぬ朝也はつしぐれ 蒼虬(蒼虬翁句集@)
ならはしの塩茶のみけり瓜の後 其角(桃の実@)
連句「露寒き塩茶の淡に住ならひ」 一茶(株番A)
連句「こゝろのある歟塩茶迄出す」 北海(北枝發句集A)
立ちよれば振茶かをるや桃の花 半山(浪化上人發句集A)
連句「茶碗へは桶に立テたる泡汲て」 越人(鵲尾冠A)
水鳥やちゃせんにめくる浪の泡 寒枝(あみ陀笠E)
大ぶくの茶のあつさにやむめぼうし 愚道(犬子集@)
大ぶくや茶でや千年いきこくら 長頭丸(歳旦発句集@)
豆蒔をなら茶にしたる米の飯 乙由(麦林集@)
蕎麦の花なら茶の花はなかりけり 浪化(草苅苗@)
連句「各別な角豆奈良茶を艸の庵」 我常(末若葉@)
連句「ひけらかすこそはつ大角豆なれ」 長頭丸(紅梅千句@)
付合「所がらなら茶を月の夜振廻」友仙
八重桜京にも移る奈良茶哉 沾圃(続猿蓑@)
茶粥焚く柴の香によれ鹿の声 几董(丙申之句帖F)
行春にきのふもけふも茶漬哉 李由(笈日記@)
蚊屋つりて喰に出る也夕茶漬 一茶(八番日記@)
芭蕉忌に奈良茶三石の數積まん 英富(新類題發句集D)
ばせを忌の古則や茶食茶の羽織 素丸(素丸發句集A)
ばせを忌や飯をゆかりの茶に染ん 蓼太(蓼太句集@)
はせを忌や醍醐の味の奈良茶飯 虚白(虚白句集G)
芭蕉忌や不易に茶飯坐禪豆 虚白(虚白句集G)
いつか花に小車と見ん茶の羽織 素堂(素堂句集A)
初うりやまづ畑ぬしの茶振舞 暁台(暁台句集@)
茶もらひに此晩鐘を山桜 其角(五元集@)
春の日やゆふ月ごろの茶振舞 長翠(浅草はうごA)
摂待にたゞ行人をとゞめけり 俊似(曠野@)
摂待へよらで過行狂女哉 蕪村(句稿屏風A)
摂待や茶碗につかる数珠の房 蝶夢(草根句集C)
ゆく春や花によこれし荷ひ茶や 也有(蘿葉集D)
床脇は梅咲方が担ひ茶屋 丈艸(きれ/\@)
しら梅や北野ゝ茶店にすまひ取 蕪村(句稿屏風@)
花火せよ淀の御茶屋の夕月夜 蕪村(夜半叟@)
大和路はみな奈良茶也花ざかり 菊阿(正風彦根躰@)
なら茶屋も招く庭あり花八ツ手  吾山(あみ陀笠E)


出典
@ 創美社編『古典俳文学大系』集英社(中村俊定・森昭校注「1貞門俳諧集一」一九七〇年一一月/小高敏郎・森川昭・乾裕幸校注「2貞門俳諧集二」一九七一年三月/飯田正一・榎坂浩尚・乾裕幸校注「4談林俳諧集」一九七二年五月/井本農一・堀信夫校注「5芭蕉集」一九七〇年七月/阿部喜三男・阿部正美・大磯義雄校注「6蕉門俳諧集一」一九七二年一月/宮本三郎・今栄蔵校注 「7蕉門俳諧集二」一九七一年一月/安井小洒・木村三四吾・石川真弘校注「8蕉門名家句集一」「9蕉門名家句集二」一九七二年一一月〜一九七三年七月/鈴木勝忠・白石梯三校注「11享保俳諧集」一九七三年三月/大谷篤蔵・岡田利兵衛・島居清校注「12無村集全」一九七三年八月/島居清・山下一海校注「13中興俳諧集」一九七一年五月/丸山一彦・小林計一郎校注「15一茶集」一九七一年三月/宮田正信・鈴木勝忠校注「16化政天保俳諧集」一九七一年五月)
A峰晋風編『日本俳書大系』日本図書センター(「第3巻」「第4巻」「第6巻」「第7巻」「第12巻」「第13巻」「第14巻」「第16巻」一九九五年八月)、
B『新編日本古典文学全集』小学館(小沢正夫・松田成穂校注・訳「11古今和歌集」一九九四年一一月/峯村文人校注・訳「43新古今和歌集」一九九五年五月/雲英末雄・山下一海・丸山一彦・松尾靖秋校注・訳「72近世俳句俳文集」二〇〇一年三月)
C中道夫・田坂英俊・中森康之編著『蝶夢全集』和泉書院・二〇一三年五月
D『俳諧文庫』博文館(岡野知十校訂「第6編也有全集」一八九八年五月/尾崎コ太郎校訂「第22編俳諧類題句集前編」「第23編俳諧類題句集後編」一九〇〇年一二月〜一九〇一年三月)
E加藤定彦・外村展子編『関東俳諧叢書』(青裳堂書店・一九九七年九月)
F虚白(曙庵)編『虚白発句集坤』(~野嘉右衛門・一八九八年五月)、
G小野谷照彦校注『新日本古典文学大系』(岩波書店・一九九〇年一月)