<発表のまとめ>
1.発表のポイント
◆ブータン訪問の目的:ブータン国民の97%が幸せと感じているのは本当なのか、
そのブータンとはどんな国なのかを知ること。
◆ブータンの概要:
・インドアッサム州と中国の間に位置し、国土の大半は標高2千メートルを超える。
・四季はなく、雨季と乾季の国、気温は年間を通じ長野県に近い。
・国土面積は九州とほぼ同じ、人口は約77万人
・おもな産業は水力発電、林業、鉱業、農業だが、環境破壊を恐れ産業振興には消極的。
・言語:英語、ゾンガ語を中心とした多言語が存在。母国語はゾンガ語で普及は国民の2,3割程度、ゾンガ語には文字がなく新たに起こしているが普及は今一歩。このため
英語が教育や公共用言語として主流になっている。
・宗教:チベット仏教ドウク派が主、ヒンズー教、仏教他派も多い。
・婚姻:母系社会で土地は母から娘に相続される。基本は一夫一婦制であるが、姉妹婚、一夫多妻婚も認められている。離婚・再婚率も高い。
・教育:1960年代に近代的な教育制度を導入、7-2-2-2学制(義務教育ではない)をひきその上に大学がある。母国語に文字がなかったため、インド人による英語での教育でスタート、逐次ネイティブ化(教師、言語)を進めている。
・教育費、医療費は無料
・小国であるが地勢的な恩恵に浴しインド影響下のもと奇跡的に王政国家として存続して来た。長く王政をひいていたが2008年王政を廃止、立憲議会制民主主義国家に移行。
◆ブータンの現状課題
・隣国ネパールからの難民に長年悩まされている。近年戸籍法を制定し不法難民の国外退去等の対策を進めている。
・国是であるGNH(Gross National Happiness:国民総幸福量)を推進するに当たり伝統文化保全の成文化を推進しているが、押し寄せる外来文化との葛藤が続いている。
・特に、都市部への人口集中化と若年層の失業率の増加は最大の課題となっている。
・経済的自立が出来ず、国家予算の約30%は国外支援に頼っている。
◆GNHについて。
・GNHの4本の柱;@経済的自立、A環境保護、B文化の推進、C良き統治
・GNHの9指標(4つの柱を細分化したもの)
@精神面の幸福、A人々の健康、B教育、C文化の多様性、D地域の活力、E環境に多様性と活力、F時間の使い方とバランス、G生活水準・所得、H良き統治
・ディグラム・ナカジャ精神:調和ある生活を意識的に送る精神
・家族崩壊、核家族化に反対し片親家庭、高齢者を守るというブータンの伝統習慣を維持・推進する。
・大家族のネットワークを大切にし、これを社会のセーフティーネットとする。
・これは諸国の福祉制度では享受できない良質な感情的、経済的、社会的ニーズを満たすものである。
・この考えは「家族は自然発生だが国家支援は人為的」なため内在的持続が不可能であることに基づいている。つまり「幸福の基本は人間関係」という考えに基づくもの。
◆ブータンの人々(ブータン関係の文献とブータンに滞在して感じたこと)
・最近、若年層に昔はいなかった鬱病が多くなっている。これは社会的、人的繋がりが年々希薄になってきていることではないかと思われる。
・若者の農村離れが多くなっている。→ 都市への人口集中化
・ティンプー(ブータンの首都)の人口推移 → 43,000人(2000年)→100,000人(2010年)
・国全体の失業率→3.3%(2010年)、しかし都市部に限っては20.7%に跳ね上がる。
・ブータンの死生観は仏教の影響からか輪廻転生の思想が色濃く残っている。このため葬儀には死者への祈りはもとより、遺された人々への前途(別れの悲しみ、今後の生活)への祈りが主体となっている。
・ブータンの人々には、自分の幸福よりも他者への思いやりを優先する気質が濃厚に残っている。日本では「情けは人のためならず」という諺があるが、このような国民性を有している面、とても日本人に近い面がある。
2.発表を聞いての所感
・ブータン滞在時の豊富な写真を使った臨場感のある発表だった。発表によるとブータンが外国人観光客を受け入れたのは1974年であるが、現在でも観光地の規制は厳しく、ガイドがつかない自由な単独観光は許されていないようである。これも国民のGNHを意識した国の施策と思われる。ここにも国民の幸福を考えるブータン国家の姿勢が窺える。
・写真を見る限り、自然は勿論のこと建築物や道路は清潔さが保たれていて気持ちが良い。その清潔さに国民の高いモラル意識が感じられ、GNHが維持されている社会であることが判る。
・ブータンは母系社会で現在でも母系家族制を維持しているとの発表を聞き、わが国の平安時代の家族制度がそのまま維持されている点に驚く。同時に国民性が日本に似ている原点はこの母系社会にあるのではないかと思った。
・心理学者河合隼雄によれば、日本人の深層心理の基底に母性があるという。これは縄文から長く続いた母系家族がもたらしたものと思われる。母性は基本的に性善説志向をもち公平、安定を望む。これに対し欧米人は父性基底の深層心理をもち性悪説志向の傾向があり、区別、変化を好む性向があるとのことである。
・欧米社会が国際的にマジョリティーをもつ中で、ブータンの提唱するGNHが世界の中で認知されるには、価値観の共有という点で前途に多くの困難が予想される。
・同じ母系基底の深層心理をもつ国民として日本はブータンのGNHを理解し、国際的な普及に協力してゆくべきかと思う。
・最後にGNHに関心をもちブータンに一週間滞在し、ブータンのお国柄やGNHの実体を体感して来た山崎さんに敬意を表すると共に、併せて資料作成の労に感謝致します。
(了) |