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論文を読む会のまとめ

・発表テーマ 長谷部文孝「消された俳句−第二芸術論争の空白」を読む
・発表者    伊藤無迅
・日時     平成27年3月15日(日)、14時30分〜17時
・場所     東洋大学白山校舎6号館 谷地教授研究室
・資料     @テキスト長谷部文孝「消された俳句−第二芸術論争の空白」
                 (俳誌『炎環』第一回評論賞受賞作品)
         Aレジメ (発表者作成)
・出席者    谷地快一、相澤泰司、堀口希望、安居正浩、菅原通斎、根本文子、
         鈴木松江、宇田川うらら、伊藤無迅 <9名>
・議事録作成  伊藤無迅

<発表のまとめ>
1.発表の概要
 戦後間もなく発表された桑原武夫『第二芸術』は、俳壇のみならず日本の文学界全体に衝撃を与えた。発表から約七十年を経た現在、議論は尽くされた観がある。しかし、その議論から全く抜け落ちてしまっていた部分があることはあまり知られていない。それにも拘わらず、この件について桑原本人も当時の俳壇も何も触れていない。この件に焦点を当てた長谷部文孝氏の『消された俳句―第二芸術論争の空白』を読む。
2.発表のポイント
・初版本以降に発行された桑原の『第二芸術』は、初版本に載っていたある俳句とそれに関わる文章が削除されていた。この事実は不思議なことに全く知られていない。 
・桑原はこの削除理由を明らかにしていないし、俳壇側からも一切言及がない。
・削除部分は、加藤かけいの「言挙げぬ国や冬濤うちかへす」という俳句と、この句の解説文(俳人岩田潔が『俳句研究』昭和二十一年六月号で行ったもの)を桑原が引用した箇所である。
・テキストでは当時の『第二芸術』論に関する論争資料はもとより、加藤かけいと岩田潔に関する資料を詳細に調査した上で以下の推論を導き出している。
  ・桑原が削除した理由 →以下の二つの理由が考えられる。
    ・全体の論旨(俳句全否定)と矛盾する。つまり解釈次第
     では削除句を評価している一節となっている。
    ・GHQの検閲(WGIP:war guilt information program)
     を意識した。  
  ・俳壇が黙殺した理由 →以下の二つの理由が考えられる。
    ・加藤かけいと岩田潔自身が桑原の言を概ね認めている。
    ・加藤・岩田側からの反論がない。(当時の俳壇資料から
     加藤・岩田の反論資料が全く見当たらない。
  ・戦後間もなく発行した加藤かけいの句集からも該当句が消されている。
    ・GHQの検閲によるトラブルを避け発行を優先したためか。 
3.まとめ
 本テキストは従来の「第二芸術論争」に以下の配慮が必要であることを提起している。
・当時の論争は厳しいGHQ検閲下で行われており、残存する論文・書籍については、この影響を考慮した読み解きが必要。
 また発表者からは論争自体が不完全であったとして以下の指摘があった。
・戦前・戦中にかけて俳壇の中心にいた俳人達は、若手俳人から厳しい戦争責任の追及を受けており、その影響から論争そのものに参加していない。
・論争を仕掛けた桑原本人が論争に全く参加していない。 

 (了)