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兼題解説 梅干し・夜の秋 |
梅干(うめぼし) |
〔本意・形状〕 |
青梅を塩漬けにして赤紫蘇を加え、莚に並べて天日に干し、水気を発散させた漬物。俗に「三日三晩の土用干し」といっており、夜干しを行なうこともある。日本人の食文化に深く根を下ろした健康食品である。 |
〔類題・傍題〕 |
干梅・梅漬・梅莚・梅干す・梅漬ける |
〔季題の歴史〕 |
梅干の歴史は江戸時代以前に遡るかとも思われるが、俳諧書では『毛吹草』(江戸初期の正保2年刊)に「六月」として所録されている。 |
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・梅漬けてあかき妻の手夜は愛す 能村登四郎 |
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・梅漬けて玲瓏たりしきのふけふ 大石悦子 |
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・干梅の匂へば母の在るごとし 冨所陽一 |
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・ふるさとの闇の香となる夜干梅 宮坂恒子 |
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・干梅の温みを甕に納めけり 小松誠一 |
(堀口希望) |
夜の秋(よるのあき) |
〔本意・形状〕 |
「秋の夜」とは違い、夏の季語である。晩夏の夜、ふと秋らしい感じがする時の洒落た語感の季題である。「土用なかばにはや秋の風」と昔から言われてきたが、今日の意味の用例は大正初め頃からである。「晩夏」の季題としての初出は、大正二年『ホトトギス雑詠全集』の「粥すゝる杣が胃の腑や夜の秋 原石鼎」とされる。 |
〔類題・傍題〕 |
特になし。 |
〔季題の歴史〕 |
『新撰袖珍 俳句季寄せ』では「夏の末近き頃、夜は北風涼しくて、宛ら秋の如きをいふ」とあり、『新撰歳時記』(明治41)には季題の収録がない。暁台の「玉虫の活くるかひなき夜の秋」は「秋の夜」と同意とされる。 |
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・まろび寝の小さき母や夜の秋 福田蓼汀
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・灯の下の波がひらりと夜の秋 飯田龍太
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・涼しさの肌に手を置き夜の秋 高浜虚子
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・名曲いま潮満つごとし夜の秋 楠本憲吉 |
(根本文子) |
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