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兼題解説 片陰・ヨット・空蝉

片蔭(かたかげ)
〔本意・形状〕 夏、太陽が真上から照りつける時はほとんど日陰ができないが、太陽が傾くと建物などの影ができ、人々は選んで歩く。このような炎暑の日陰をいう。季節は晩夏。
〔季題の歴史〕 荷兮(一時期蕉門)に「夏蔭やはや蓼の穂の志」の句があるから古くからの季題かと思われる。
〔類題〕 片かげり・日陰・夏蔭(近年あまり使われない)
  ・片蔭や夜が主題なる曲勁し     中村草田男
  ・片蔭に入りてしばらく世に出でず  岡本麻子
  ・酒蔵の大片蔭にむかしあり     山本かず
  ・片蔭を出て測量士声高に      大川鶴園
(堀口希望)

 

ヨット
〔本意・形状〕 夏の帆走用の舟。元々はボートやカヌーと共に交通手段として作られたが、現在では実用としてよりも、娯楽や競技用として使われている。
外洋で使う大型のものから、湖や川用の小型のものまで種類は多い。
(三夏)
〔場所〕 海・湖・川
〔分類〕 生活
  ・若き四肢ふんだんに使いヨット出す  桂 信子
  ・朝の海へ出でゆくヨット網戸越し    草間時彦
  ・まだ白く炎ゆるヨットの帆を畳む    坂巻純子
  ・魂ぬけしごとくヨットの帆下さる    福西立杭
  ・ヨットの帆遠ざかるほどヨットふえ   千田 敬
(安居正浩)

空蝉(うつせみ)
〔本意・形状〕 地下に数年間生息していたセミの幼虫は、やがて蛹となり地上に這い出してくる。近くの木の幹などに登り、夜の間に背中を割って抜け出し成虫となる。あとに残った透明で褐色の抜け殻をいう。
〔季題の歴史〕 『古今集』巻十・物名に「空蝉の殻は木ごとに留むれど魂の行くへを見ぬぞ悲しき」。『源氏物語・空蝉』に「空蝉の羽に置く露の木がくれて忍びしのびに濡るる袖かな」。蝉の脱殻と、 脱ぐ蝉から、生きものの生きる営みのあわれさ、はかなさも感じられる。『連珠合璧集』(文明八)に「うつせみとあらば、から衣、もぬけ、玉の向道、羽に置く露、むなしき世」。
〔類題〕 蝉の殻、蝉の脱殻、蝉のもぬけ。
  ・梢よりあだに落ちけり蝉のから        芭蕉
  ・空蝉のいづれも力抜かずゐる        阿部みどり女
  ・空蝉を頒つ太郎の掌次郎の掌       佐野まもる
  ・空蝉の身の透くばかり恋着す        稲垣きくの
  ・空蝉の脚のつめたきこのさみしさ       成田千空
(根本文子)