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兼題解説 西行忌・山笑ふ・諸葛菜

西行忌(さいぎょうき)
〔本意・形状〕

陰暦2月15日。西行の忌日。享年73歳 「願はくば花の下にて春死なむそのきさらぎの望月の頃」と死の時期の願望を歌にしたのが有名になった。歌人としての西行を芭蕉が尊敬していたことが、独特の味わいを添える。(仲春)

〔季題の歴史〕 『日次紀事』(貞享2年)により陰暦2月15日が西行の忌日とされている。『四季名寄』(天保7年)、『栞草』(嘉永4年)にも2月15日とある。
〔類題〕 円位忌・山家忌
〔分類〕 行事
  ・花あれば西行の日とおもふべし   角川源義
  ・月負うて雲も旅する西行忌      林 翔
  ・口で紐解けば日暮や西行忌     藤田湘子
  ・花の下は花の風吹き西行忌     村山古郷
  ・西行忌我に出家の意(こころ)なし  松本たかし
(安居正浩)

 

山笑ふ(やまわらふ)
〔本意・形状〕

春の山の明るい様を人の姿に譬えていう表現。季節は三春に亘る。
次の中国の詩に由来する。
「春山淡冶ニシテ笑ウガ如ク
夏山蒼翠トシテ滴ルガ如ク
秋山明浄ニシテ粧ウガ如ク
冬山惨淡トシテ眠ルガ如シ」
【なお、上記の詩の出典は、『最新俳句歳時記〈春〉』(山本健吉編・文芸春秋刊)は『臥遊録』(作者記さず)とし、『俳句歳時記〈春〉』(角川学芸出版編)は北宋の画家・郭熙の『林泉高致』とし、『角川大俳句歳時記〈春〉』の長谷川櫂の解説は郭熙の『郭熙画譜』としている。その他にも諸説あり、確定できなかった。】

〔季題の歴史〕

『通俗誌』(員九著の俳諧作法書・享保2)に1月として所出。2月とする書もある。現代の歳時記は多く「春」「三春」としている。

〔類題〕 笑ふ山
  ・東山三十六峰みな笑ふ         清水基吉
  ・連山の肩組み合つて笑ふなり     本井英
  ・歌はれて会津磐梯山笑ふ       森岡正作
  ・みどり児に貝ほどの舌山笑ふ     辻美奈子
  ・阿夫利山笑ひ相模の川応ふ      松木実
(堀口希望)

諸葛菜(しょかっさい)
〔本意・形状〕

アブラナ科の二年草で、草丈30センチから50センチ。四月、五月頃、淡い薄紫色の小さな花をつけ群がって咲くのが見られる。一般的な通り名として、ハナダイコンと呼ばれるが、俳句では大根の花を花大根というので紛らわしい。

〔季題の歴史〕 江戸時代中国から渡来、揚子江沿岸に野生するとも言われるが、現在日本でも河川敷や城跡、個人の庭などいたる所で見られる。中国、三国時代の蜀の丞相、諸葛孔明が辿った跡には、この紫色の花が夥しく咲いたのでこの名があるとされる。
〔類題〕 むらさきはなな、はなだいこん
  ・足もとに点るむらさき諸葛菜         草間時彦
  ・一日(ひとひ)一日は旅立に似し諸喝采  山田みずえ
  ・諸葛菜大空の色たたへ咲く         邊見京子
  ・東京を一日歩き諸葛菜           和田悟朗
  ・諸葛菜不安をもって安とせむ        河原枇杷男
  ・姉といふ媼もよけれ諸葛菜         千代田葛彦
(根本文子)