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兼題解説

花野(はなの)
〔本意・形状〕

秋の草花が咲き乱れる野をいう。にぎやかななかにも、どこか秋のさびしさが込められている。

〔季題の歴史〕 「村雨の晴るる日影に秋草の花野の露や染めてほすらむ 大江貞重」と『玉葉集』にある。『連歌初心抄』(正保二)に秋として初出。
〔別名・傍題〕 花野原 花野道 花野風
  ・吹き消したやうに日暮るる花野かな     一茶
  ・夕花野風より水の急ぎけり          黛執
  ・秀嶺の夢かとつづく花野ゆく         大峯あきら
  ・手を突いて花野の岩を一つ跳ぶ       茨木和生
  ・雲の帆をゆつくり渡す大花野         加藤耕子
(根本文子)

 

鶏頭(けいとう)
〔本意・形状〕

ヒユ科の一年草。その花がとさかに似ていることからついた名前。夏の終わり頃から、茎の先端が鶏のとさかのようになり、下に小花が群れて咲く。赤、黄、だいだい、などいろいろな色がある。高さは60cm位になり、仏花にも用いられる。(三秋)

〔場所〕 庭など
〔季題の歴史〕 古名の「韓藍(からあゐ)」は万葉集の歌にもあるが、「鶏頭」は江戸時代の俳書「花火草」(寛永13年)、「毛吹草」(正保2年)などに、八月または兼三秋の季語として掲載。
〔別名・傍題〕 鶏頭花・鶏冠・韓藍(からあゐ)
〔分類〕 植物
  ・鶏頭の頸動脈をさぐるかな         坂巻純子
  ・我去れば鶏頭も去りゆきにけり      松本たかし
  ・鶏頭より少し気弱な赤を着る        金子孝子
  ・水枕の水捨てにけり鶏頭に         松野苑子
  ・鶏頭の切り束ねたる暗さかな        波戸岡旭
(安居正浩)

蓑虫(みのむし)
〔本意・形状〕 ミノガ科の幼虫。青葉の頃から木の葉や小枝を綴り合わせて蓑のような巣を作り、その中に潜む。その形が蓑を着ているように見えるので蓑虫という。雄は羽化して蛾になるが、雌は一生蓑の中で生活する。木の枝からぶら下がって秋風に吹かれて入る様は寂しい。実際には鳴かないが、文学の世界では「ちちよ、ちちよ」と果敢なげに鳴くとされている。
〔場所〕 山野・庭園その他
〔季題の歴史〕 『枕草子』40段「虫は…蓑虫いとあはれなり。鬼のうみたりければ…」の文章が有名であるが、連歌式目書である『無言抄』(応其・慶長8年頃)に秋として初出。俳書により8月とするもの、7月とするもの、三秋とするものがある。現代の歳時記では三秋とされている。
〔別名・傍題〕 鬼の子・鬼の捨子・木樵虫・蓑虫鳴く
  ・蓑虫の音を聞きに来よ草の庵           松尾芭蕉
  ・蓑虫にならねばぶらりともできず         鷹羽狩行
  ・鬼の子の揺れて八方不況なり          上谷昌憲
  ・蓑虫の蓑の薄さよ海女の墓            松本 旭 
(堀口希望)