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兼題解説

貝寄風(かいよせ)
〔本意・形状〕

「貝寄せの風」のつづまった言い方。陰暦二月二十日前後に難波の浦に吹く季節風のこと。季節は仲春。かつて、大阪四天王寺の聖霊会(二月二十日)に使う造花は、その頃に難波の浦(大阪)に吹く強風によって岸辺に吹き上げられた貝殻で作ったからこう云うとされている。

〔場所〕 歳時記・辞書により、「二月二十日前後に難波の浦に吹く季節風」とするものの外、一般的に「二月二十日前後に吹く季節風」とするものもある。
〔季題の歴史〕 『俳諧鑑草』(寛延二)他に二月として出ており、江戸時代中期には既に季題になっていたことがわかる。
〔別名・傍題〕 貝寄(かいよせ)
  ・貝寄する風の手じなや若の浦     松尾芭蕉
  ・貝寄風に乗りて帰郷の船迅し     中村草田男
  ・貝寄風や難波の蘆も葭も角      山口青邨
  ・貝寄風の鰈はりつく箱生簀       吉田やゑ
  ・貝寄風に湯煙なびく別府かな     林徹
(堀口希望)

 

目刺(めざし)
〔本意・形状〕 真鰯や潤目(うるめ)鰯などに塩をふり、5〜6尾ずつ竹串や藁に通して干したもの。目を刺したものを目刺、エラから口を通したものを頬刺と呼ぶ。 (春)
〔季題の歴史〕 江戸時代の前期は鰯でなく、白魚の目刺を季語とした。
〔別名・傍題〕 頬刺(ほおざし)
〔分類〕 生活
  ・木がらしや目刺にのこる海のいろ     芥川龍之介
  ・天の蒼さ見つつ飯盛る目刺かな      渡辺水巴
  ・温泉の町に銀座もありて目刺売る     中村吉右衛門
  ・行儀よき目刺よ遠き日の生徒        林 翔
  ・頭より目刺はかじれ中年は         作山泰一
(安居正浩)

 

一人靜(ひとりしずか)
〔本意・形状〕 山野に生えるセンリョウ科の多年草、四月頃に対生する四枚の葉の間から花軸が伸びて白い小さな花が咲く。花軸が一本なのでこの名がある。花に花弁はなく、白く見えるのは花糸状の雄しべである。文字どうり林間等にひっそりと靜かに咲いて風情がある。ヒトリシズカに対比されるフタリシズカはやや遅れて夏近いころに咲く。
〔季題の歴史〕 一説には源義経が愛した静御前になぞらえてこの和名がつけられたともいわれる。その連想を誘う名前が美しく名に興ずる句もつくられる。吉野山中での義経との別れから別名ヨシノシズカとも言う。因みに眉掃草という別名は花の形状が細いブラシに似るので化粧に使う眉掃を連想したものとされる。
〔別名・傍題〕 吉野静(よしのしずか)、眉掃草(まゆはきそう)
  ・花穂ひとつ一人靜の名に白し         渡辺水巴
  ・逢ひがたく逢ひ得し一人靜かな        後藤夜半
  ・山祇(やまつみ)も一人靜も雨の中      木村蕪城
  ・道暮るる一人靜も去りしごと           伊沢正江
  ・花了へてひとしほ一人靜かな         後藤比奈夫
(根本文子)