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兼題解説

鰤起し(ぶりおこし)
〔本意・形状〕

能登を中心とする北陸で、鰤漁が始まり本格化する12月から1月頃の雷を「鰤起し」といい、豊漁の前兆として喜ぶ。季節は三冬。
この頃、北陸一帯に寒冷前線の通過に伴う積乱雲が生じ、雷が発生する。この雷が鰤を起して豊漁をも たらしてくれるという意味でこのように言う。

〔場所〕 主に北陸の海岸部
〔季題の歴史〕 調べられなかった。思うに北陸の漁師の間では古くから言われていた言葉であろうが、江戸・京阪の俳人の間では季題として定着せず、近年に至って季題になったものではなかろうか。
〔別名・傍題〕 特になし。
  ・終着の始発に変る鰤起し          森岡 正作
  ・鰤起し能登根こそぎに揺らぐかな     広瀬 長雄
  ・文学碑一基さらして鰤起し         志麻 知子
  ・立山の襞引き締めて鰤起し        蔵 巨水
  ・鰤起し旅寝の手足まだ覚めず      奈良 文夫
(堀口希望)

 

雪女(ゆきおんな)
〔本意・形状〕 雪国の伝説にある妖怪。『年浪草』(天明二年)には、「深山雪中、希に女の皃(かお)を現ず。これを雪女といふ。雪の精といふべし」とあるが、さまざまに伝えられている。岩手県遠野地方では小正月(旧暦正月15日)の夜、又は冬の満月の夜、雪女が童子を連れて遊ぶといい、この夜には雪女が出るから子供は早く帰れと注意する。青森県津軽地方では、正月元日に雪女が降り、最初の卯の日に帰るとされる。雪女がいる間は稲の花がしぼむので卯の日の遅い年は作が悪いという。地方によって美女だったり老婆だったりする。
〔季題の歴史〕 『毛吹草』(正保二)『山の井』(正保五)に「雪女」として11月に掲出。
〔別名・傍題〕 雪女郎(ゆきじょろう)、雪鬼、雪坊主、雪の精
  ・みちのくの雪深ければ雪女郎      山口青邨
  ・雪女郎おそろし父の恋恐ろし      中村草田男
  ・雪山のどの道をくる雪女郎        森澄雄
  ・肩の荷のにはかに重し雪女       小原啄葉
  ・雪女しんと佇ちたる寒さかな       笹本千賀子
(根本文子)

 

喰積(くいつみ)
〔本意・形状〕 現在は重詰めの御節料理を言う。元々は新年の祝儀に三方の盤上に白米を盛り、上に熨斗鮑(のしあわび)・伊勢海老・勝栗・昆布・野老(ところ)・馬尾藻(ほんだわら)・串柿・裏白・譲葉・橙・橘などを飾ったもの。年賀の客に饗した。(広辞苑)   (新年)
〔季題の歴史〕 語源は、正月の島台に盛った取り肴を食い摘む意であるとする説と、喰い積みの字面どおり、食うべき物を集めて積み飾る意とする説とがある。
〔別名・傍題〕 食積・重詰・重詰料理・ほうらい
〔分類〕 生活
  ・喰積にさびしき夫婦箸とりぬ      松本たかし
  ・喰積のみちのくぶりも母ゆづり     小竹よし生
  ・喰積や底見えてきしひとところ     嶋田麻紀
  ・食積の螺鈿またたく蓋をとる      木田素子
  ・食積にあきたる坊主めくりかな     梅田 津 
(安居正浩)