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兼題解説 |
桜貝(さくらがい) |
〔本意・形状〕 |
東京湾、伊勢湾、瀬戸内海など浅い海の砂泥域に生息する美しい二枚貝、殻の長さ3センチ程。色と形が桜の花弁に似ているのでこの名がある。真珠のような光沢があり、可憐な美しさが貝細工に用いられる。小さな宝物のような春の貝である。
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〔季題の歴史〕 |
『夫木和歌抄』に「吹く風に花咲く波のくるたびに桜がひ寄る三島江の浦 西行上人」。『連理秘抄』(貞和五)に一座一句物として初出。 |
〔別名・傍題〕 |
花貝 紅貝 薄ざくら 五色ざくら 樺ざくら しぼりざくら |
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・ひく波の跡美しや桜貝 松本たかし
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・眼にあてて海が透くなり桜貝 松本たかし
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・桜貝二枚の羽を合せけり 阿波野青畝
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・桜貝恋路が浜に拾ひけり 吉田冬葉 |
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・桜貝西風(にし)に和泉の海荒れて 茨木和生 |
(根本文子) |
矢車(やぐるま) |
〔本意・形状〕 |
鯉幟の竿先、籠玉(または天球)の下部に飾る矢羽根。軸の周りに矢の形の輻(や)を放射状に取り付け輪で囲んだもので、ふたつを一対として車の両輪のように飾る。風を受けてからからと音を立てて回る。季節は初夏。 |
〔場所〕 |
限定されず。 |
〔季題の歴史〕 |
鯉幟は江戸中期から町人階級が男の子の健康と出世を願って戸外に立て始めたというが、いつ頃から矢車を付けたかは調べられなかった。 |
〔別名・傍題〕 |
なし |
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・矢車に朝風強き幟かな 内藤鳴雪
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・矢車や柱の傷の兄を越え 岩崎慶子
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・矢車を組み立ててをり祖父と父 津久井秀子
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・止るかと見えし矢車逆まはり 塚原愛子 |
(堀口希望) |
卯の花腐し(うのはなくたし・うのはなくだし) |
〔本意・形状〕 |
旧暦四月(別名・卯の花月)の頃に降り続く長雨のこと。盛りの卯の花を腐らせるように降るのでこの名がある。(初夏) |
〔季題の歴史〕 |
『毛吹草』(正保2年)の「連歌四季之詞」や『増山の井』(寛文7年)、『寄垣諸抄大成』(元禄8年)などに、「卯の花くたし降る」として出ている。 |
〔別名・傍題〕 |
卯の花降し |
〔分類〕 |
天文 |
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・ひと日臥し卯の花腐し美しや 橋本多佳子
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・卯の花腐し寝嵩うすれてゆくばかり 石橋秀野
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・旅の髪洗ふ卯の花腐しかな 小林康治
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・母起きて来し音卯の花腐しかな 近藤栄治 |
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・卯の花腐し父の万年筆太し 仁平 勝 |
(安居正浩) |
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