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兼題解説 |
巣立 (すだち) |
〔本意〕 |
晩春から初夏にかけて、成長した小鳥の雛が巣を離れて飛び立つこと。
この季語の季節をいつとするかは、歳時記により「春(晩春)」とするものと、
「夏(初夏)」とするものとがある。
―例―「春」とするもの……「俳句歳時記(春の部)」(角川文庫)
「最新俳句歳時記(春)」(山本健吉・文芸春秋)
「夏」とするもの……「角川俳句大歳時記(夏)」(角川書店) |
〔季題の歴史〕 |
『連歌諸学抄』(一条兼良著・室町時代の連歌論書)に「三月」、『合類俳諧忘貝』(伸也著・江戸後期の季寄)に「四月」として所出。 |
〔別名〕 |
鳥巣立つ・巣立鳥・親鳥・子鳥 |
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・巣立たんと眼光すでに鷹なりけり 枡井純子
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・巣立鳥東塔西塔啼きかはし 福田蓼汀
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・巣立鳥地球の果てより子の電話 成田千空
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・巣立鳥朝の散歩を案内す 和田富雄 |
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・すずしげに鳰の子泳ぐ巣立かな 細木芒角星 |
(堀口希望) |
桑摘 (くわつみ) |
〔本意・形状〕 |
蚕に与えるための桑の葉を摘むこと。
幼い毛蚕(けご)に与えるやわらかい若葉摘みに始まり、蚕の成長に合わせてだんだん大きな葉を摘み、最後には枝ごと摘んで与える。
「桑摘唄」もあり、活気ある田園風景であるが、その最盛期には雨でも、夜でも摘む。主に女性の担う大変な仕事でもあった。(桑は摘みたし梢は高し誰に負われて摘んでとる)
桑の葉を食べるので蚕を(桑子)とも言う。 |
〔場所〕 |
桑畑 |
〔季題の歴史〕 |
『万葉集』東歌、「筑波嶺の新桑繭の衣はあれど君が御衣あやに着欲しも」。
『花火草』(寛永13)『毛吹草』(正保2)以下に「新桑摘」として所出。 |
〔別名〕 |
桑摘女・桑摘み唄・桑籠・桑車 |
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・毎日の同じ時刻の桑摘女 高野素十
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・桑摘む娘呼ぶや飼屋の二階より 松本たかし
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・かなしいほど速い桑摘む老婆の手 森武司
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・夜葬通りしあとの桑を摘む 大橋桜坡子 |
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・母小さし桑にかくれて桑を摘む 倉田紘文 |
(根本文子) |
袋角 (ふくろづの) |
〔本意・形状〕 |
春から初夏にかけて、はえ変わる鹿の新しい角のこと。びろうどのような柔らかい皮膚でつつまれ、血管が目立つ。初めは小さくて茸状であることから、「鹿茸」とも言う。
九月か十月には骨質の立派な角になる。 |
〔季題の歴史〕 |
『毛吹草』(正保2年)『増山の井』(寛文3年)などに所出。
『和漢三才図会』(正徳3年)に「鹿茸は和名、鹿のワカツノ、俗に袋角といふ」とある。 |
〔別名〕 |
鹿の袋角・鹿の若角・鹿茸(ろくじょう) |
〔分類〕 |
動物 |
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・袖かけて折らさじ鹿の袋角 園女
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・袋角熱あるごとく哀れなり 中田みづほ
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・見おぼえのある顔をして袋角 後藤夜半
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・わが血よりたしかに熱し袋角 渕上千津 |
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・女生徒の紺がとり巻く袋角 桝井順子 |
(安居正浩) |
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