【Advice】夕顔を歌に詠むには『源氏物語』が必須です。蚊遣火を歌に詠むには煙が立ちこめる景色が前提となります。また、一概には言えませんが、十七拍が三つに分割して相互の関係がわかりにくい場合は、助詞・助動詞を無視していることが多く、省略(推敲)を徹底する必要があります。
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◎夕顔やおほかたの書の捨てられず ひろし
→夕顔には「花の名は人めきて」(源氏物語)などとあるごとく、書物にもそれぞれに顔があって処分しがたいのだ。
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◎夕顔に昭和の母屋灯りけり 千年
→幽玄の表情をもつ夕顔は、人を昭和へと誘う。
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〇夕顔や舟出見送る人の陰 瑛子
→「人の陰」とまで親切に(説明的に)言わなくてもよい気がする。
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〇ゆふがほや産着縫ふ妻八ヶ月 由美
→姿は整っている。「妻八ヶ月」までは言わなくてもよい気がする。
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〇夕顔やはかなき恋の花言葉 美雪
→姿は整っているが、あまりにもストレートで怖いほど。 |
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△朝立ちや夕顔畑の間よぎり 憲
→「夕顔畑の間を」か。冒頭のAdvice参照。
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△夕顔や紫外線さけ吾も美白 智子
→夕顔はたしかに美白ながら、さりながら。
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◎蚊遣火や犇めき合うて島の家 海星
→蚊遣火が発想の原点にあって、美しい絵柄である。
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◎蚊遣して五合目の夜を過ごしけり 鹿鳴
→完成している。「過ごしけり」を捨てるという方向もある。 |
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◎蚊遣香や吾子の寝息のやはらかき 貴美
→子どもと結んだ人の世の美しさ。「蚊遣香」のやわらかさまでが伝わる。
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◎蚊遣火やはしやぎ疲れし子の寝息 千寿
→これも、子どもと結んだ人の世の美しさ。「子」は言外に置く方が余韻あり。 |
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◎蚊遣火のはしゃぎ疲れて幼睡る 右稀
→これまた、子どもと結んだ人の世の美しさ。「蚊遣火の」の「の」は切れ字「や」と同じ働きをする。「や」で強すぎると思う場合は「の」がふさわしい。「幼睡る」の「幼」は千寿さんの句同様に無くもがな。
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〇隣家から諍ひの声蚊遣香 悠児
→蚊遣香と諍いのゆくえを想像させて面白い。
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〇しくじりも慰め上手蚊遣豚 和子
→慰める具体的な様子がもう少しほしい。
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〇蚊遣火や相槌打つて独り言 ひぐらし
→「相槌打つて」とはTVとでも会話しているのか。そこがややあいまい。
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〇蚊遣火や記憶の奥の九才の日 静枝
→誰にも心当たりのある姿。「九才の日」は個人的すぎて、読者には想像がむずかしい。
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〇蚊遣火にそよめく風も少し背に 香粒
→「風が背をのぼる」とすれば景色がはっきりする。
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〇留守番の時そばに置く蚊遣かな 真美
→留守番のときの蚊遣はいつもより親しみがあるという思いとみたが、「そばに置く」が熟していない懸念もあり。
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〇蚊遣火や家族の記憶ひとり笑む ムーミン
→「家族の記憶に」か。「ひとり笑む」を捨てる手もある。
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△蚊遣火やジジババの家夢の中 窓花
→「ジジババの家は」か。冒頭Adviceを参照のこと。
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