|
◎今日のことすべて消し去る白雨かな 啓子
→心当たりあり。まことに夕立らしい。
|
|
◎軍艦の形消えゆく驟雨かな 瑛子
→省略が利いてよき姿。「消しゆく」という意志を選択する道もあり。
|
|
◎夕立して俄かに忙し間宿 ひぐらし
→「間宿」はアイノシユク。宿場間に自然発生した休憩所(非公認)のことであろう。中山道の吹上(鴻巣市)・甲州街道の烏山(世田谷区)・水戸街道の亀有(葛飾区)・佐倉街道の船橋(船橋市)などがその例。歴史に取材した一枚の名所絵(浮世絵)のようだ。古風はこの作者の好み。
|
|
◎みんなして濡れて喜ぶ夕立かな 俊彦
→心当たりのある景色。素直で好感の持てる表現。
|
|
◎涼しさを招く夕立ハンモック 和子
→夕立でにわかに涼しい風が流れる経験は誰にもある。季重ねだが、これは「夕立」の句としてよいだろう。むろん部屋の中のハンモックだね。 |
|
○灯に映へしガラスを美しく夕立かな むらさき
→夕立を室内から称える景。この作者は凝り性らしく「美しく」をハシクと読ませたい由だが、俳句には「叩く」などと即物的な言葉遣いがふさわしい。表現をスリムにして、言い過ぎない心掛けが読者をつかむ。
|
|
○下校道たたく夕立ひとりぼち 山茶花
→「夕立」はユダチと約めることができるから、助詞を省略せず「夕立を」としたい。「ひとりぼち」は感傷的。
|
|
○夕立や油絵の筆ゆすぐ時 真美
→骨格は古風で安心して読めるが、なぜ夕立なのかが伝わらない。
|
|
○夕立や館内にティラノサウルス 由美
→「夕立」と「ティラノサウルス」との関係、つまり取り成した意図が見えない。 |
|
○褄あげてかけぬけてゆく白雨かな 貴美
→「ツマあげて」は好もしく艶やかだが上品すぎるか。「裾からげゆく」ぐらいが気風があっておもしろい。「幾人かしぐれかけぬく勢田の橋」(丈草・猿蓑・冬)という名句を思い出した。
|
|
◎ゆうるりとこの世ながめしサングラス 憲
→長い間世話になったサングラスを、こんなふうに、分身のごとくながめる年齢になった。わかる気がする。 |
|
◎大人への夢ありし日のサングラス 酢豚
→心当たりあり。帽子も、煙草も酒もそうであった。 |
|
◎男言葉交はせる少女サングラス ひろし
→心当たりのある景。「交して」という手もある。
|
|
◎誰のかな遺品の中のサングラス ムーミン
→口語調で成功している。遺品とは記憶にあるものばかりではないのだ。「遺品の中に」としてもおもしろい。
|
|
○隣人か戸惑ふ会釈サングラス 静枝
→「隣人か」を捨て「会釈され戸惑ふ露地やサングラス」などと場所を添えてみてはどうか。
|
|
○サングラス兄貴ぶつてる背伸びして 美雪
→「兄貴ぶつてる」「背伸びして」は類似の姿ゆえ、どちらか捨てたい。
|
|
○夕立ちに手を合はせゐる農夫かな 喜美子
→「手を合はせゐる」理由は想像できるが、表現として、如何ともしがたいモドカシサがある。喜雨ともそうでないともとれるからだ。
|
|
○サングラスして川漁師帰岸せり 千年
→報告に終わっている。つまりサングラスがトピックになりきっていない。
|
|