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◎宿坊の目覚め促す鹿威し 和子
【評】平明だがまずはめざすべき感性と技量を備えている。一つの手本といえる抒情あり。
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◎天狗党よぎりし村のばつたんこ 希望
【評】尊王攘夷思想の天狗党と添水の音はよく映発する。天狗党の通った道々では農民も多く合流したから、この景情には普遍性が備わる。 |
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○葉隠れに添水の音や京の旅 むらさき
【評】「添水」に「京の旅」はよく似合うが、似合いすぎると絵葉書の物足りなさに似て来る。添水の場をもう少し限定する方が「葉隠れ」が生きる。
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○山川に京の風情や鹿威し ひぐらし
【評】「鹿威し」の意味は案山子や鳴子にまで及ぶので、「京の風情」ではやや大味。 |
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○ばつたんこ鳴るかと待てば案の定 ひろし
【評】まことに人間の心理はこのようなものである。 |
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○添水聴く目に秒針の遅速あり 月子
【評】「秒針の遅速」はこだわりの表現だが、穿ち過ぎという感も否めない。
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○里に来て添水の音で胸どきん 佳子
【評】気負いも巧む欲もなく、ほとんど童心の世界。「里に来て」は安易だが、抒情では成功している。 |
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◎子の名前考へてゐる良夜かな 啓子
【評】良夜の満たされた印象と、子どもの名前を考えるという密度の濃い人の暮らしがよく映える。この作者の代表句になるだろう。
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◎雲少しきれたと声す良夜かな ムーミン
【評】「声す」なら「きれし」だろうな。「雲少しきれたと誘ふ」とすればやや上等になる。 |
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◎童謡を口遊みたくなる良夜 ちちろ
【評】「唱ひはじめる良夜かな」など、実際に唱ってしまう方が上等。 |
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◎家あかり良夜を共に過ごしけり 貴美
【評】「良夜を共に過ごしけり」だけで満点。良夜は明るいので「家あかり」以外の何かにしたい。 |
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○良夜に生れ十とせの髪を梳る 梨花
【評】個別の事情にこだわって一般性や収斂度に欠ける。 |
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○いささかは乱世夢見る良夜かな 酢豚
【評】良夜の穏やかさを喜びつつも、どこか物足りなさをおぼえる気持ちはわかる。
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○黒々と海湛へたる良夜かな 千年
【評】満月には大潮が多いというから、月明によって海の色が際立って黒く見えるという景色か。
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○見送りて一人も楽し良夜かな しのぶこ
【評】これでは、見送ってスッキリしたと受け取られかねない。一応「一人となりし」としてみようか。 |
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○良夜なり喜寿の祝ひのクラス会 美雪
【評】「喜寿祝ふクラス会ある良夜かな」と穏やかに。 |
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○子を寝かせ小瓶のワイン良夜かな 由美
【評】「小瓶の」を捨てて、「子を寝かせ」と「ワイン」の関係をもう少しスムーズにしたいね。 |
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○姪揃ふ北の大地の良夜かな 瑛子
【評】「姪揃ふ良夜」「北の大地の良夜」はそれぞれ結晶度が高い表現。ところが「姪揃ふ北の大地の良夜かな」となると散漫になるのはなぜか。姪が揃う理由、名月の北国らしさをスケッチして、二句に分けてはどうか。 |
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○仕舞場の窓開け放つ良夜かな 靖子
【評】能の「仕舞」は知っているが、「仕舞場」はわからなかった。能と無関係か。とすれば別のことばで言い替えることはできないだろうか。「窓開け放つ良夜」はよくわかる。
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○藻の下に魚の眠る良夜かな 俊彦
【評】穏やかな景色ではあるが、物足りない感もある。
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△月うたふ言の葉交はす良夜かな 静枝
【評】句は二つの世界を結びつけよう。「月うたふ」「言の葉交はす」「良夜かな」と三つの場面に分かれると、相互関係が生み出す抒情を読み取れない。
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△疎開時良夜こはごは畑荒らし 山茶花
【評】句は二つの世界を結びつけよう。「疎開時」「良夜こはごは」「畑荒らし」と三つの場面に分かれて相互関係が生み出す抒情を読み取れない。
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△大連やこんな良夜の妻は寝ぬ 憲
【評】「大連」難解。どんな良夜かを詠むべきだと思う。
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