【○】梅干しの個性筵に入り乱れ 安居正浩
■海紅評=日本語に力あり。「個性」を具象化できれば、さらに人の胸に迫る。
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【△】梅干せば笊移ろはす陽射しかな 柴田 憲
■海紅評=梅を干して、その笊を見るともなく見ていると、日影が少しずつ移ってゆくという意か。「陽射し」に詠嘆の「かな」が付いているが、感動の焦点を梅か、陽射しか明確にできるとさらに美しい。
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【元】梅干の笊に声かけ姑笑みし 小出富子
【参】姑出て梅干の笊に声かけし
■海紅評=「笑みし」は言い過ぎ。姑が笊の梅に声をかけたと言うだけの方が余情あり。
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【△】ちぎれ雲梅干す屋根に影ひとつ 谷地元瑛子
■海紅評=「ちぎれ雲」の「影ひとつ」か。とすれば、梅を干す屋根の上にちぎれ雲の影が動いてゆくとか、来て止まったなどととりなせば抒情性が増す。
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【元】梅干のトッピング焼きうどんかな 谷 美雪
【参】梅干しをトッピングして焼きうどん
■海紅評=トッピングに趣向があるのだから、「かな」は捨てよう。
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【元】梅干して匂ひ膨らむ縁の先 かずみ
【参】梅干すは縁先らしや匂ひ来る
■海紅評=「膨らむ」が過剰表現。
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【×】干し梅の縁側孫のハガキ着く 西野由美
■海紅評=感動の中心を「干し梅」か「孫のハガキ」のどちらかに。
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【○】世話女房皺も程好く梅を干す 礒部和子
■海紅評=「皺も程好く」が過剰表現。「世話女房」とあれば、干し加減の上手なさまも自然と目に浮かぶ。 |
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【×】紅梅の黄色の実をも梅干しに 平岡佳子
■海紅評=「紅梅」でなければならない理由、「黄色の実」への思い入れが伝わらない。 |
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【元】昭和去り梅干し昆布影うすし 天野喜代子
【参】梅干し昆布昭和育ちになつかしき
■海紅評=「影うすし」不要。「」などでよい。 |
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【×】雨後の便手に濡れ移る夜の秋 櫻木とみ
■海紅評=「便」が何かわからない。「夜の秋」は晩夏の夜に早くも感じる秋の気配のこと。 |
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【元】屋形船ぽつんと闇に夜の秋 柴田 憲
【参】屋形船ぽつんと見えて夜の秋
■海紅評=「夜の秋」だから「闇」は不要。「ぽつんと見えて」とかでよい。 |
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【○】西部劇つぎつぎに死や夜の秋 梅田ひろし
■海紅評=「つぎつぎに死や」は熟さない表現なれど。 |
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【元】かな文字の紙幅に見入る夜の秋 ムーミン
【参】かな文字の一軸を掛け夜の秋
■海紅評=「かな文字の紙幅」だけでは何のことかわかりにくい。 |
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【元】手を添へてゆっくり歩む夜の秋 こま女
【参】手を添へて試歩の始まる夜の秋
■海紅評=歩くのは一人か、それとも二人か。「歩み」の内容がわからないので「夜の秋」が生きてこない。 |
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【△】高階に風のにほひや夜の秋 菅原通斎
■海紅評=「夜の秋」にはたぶん風も含まれているはず。よって中七要らず。 |
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【○】東山三十六峰夜の秋 ひぐらし
■海紅評=表現に無駄なし。ただし類型的かもしれない。 |
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【元】喪の服に湯熨斗あて替ふ夜の秋 月子
【参】喪服脱いで湯のしあてがふ夜の秋
■海紅評=「喪の服」は「喪服」の方でよい。「あて替ふ」は「宛がふ」に同じか。近く葬送があるのか、終わって戻ったのか、やや難解。 |
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【×】闇深き音符なき音の夜の秋 光江
■海紅評=「夜の秋」だから「闇深き」は要らない。「音符なき音」も抽象的でわからない。
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