わくわく題詠鳩の会会報 40
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鳩ノ会会報40
兼題
鰤起こし・雪女・食積
舌頭に千転せよ
(去来抄)
【鰤起し】寒雷の俗称のひとつ。鰤漁のころなり。
◎鰤起し田より飛び立つ朱鷺一羽
松村 實
「田を飛び立てる」。
○鰤越こし佐渡の朝市活気付く
礒部 和子
景情確かなり。
○鰤起し人生もう一度見直すか
千葉ちちろ
意表を突きましたね。
○良寛のうしろ姿や鰤起こし
ひぐらし
孤影明らかなり。
○鰤越こし佐渡廃山に響きけり
五十嵐信代
景情確かなり。
○鰤起し夜汽車は直に北上す
堀口 希望
景情確かなれど通俗か。
○吉崎坊降り込めらるる鰤起し
柴田 憲
「降り込める吉崎御坊」。
○鰤越こし家族一つの灯を囲み
清水さち子
「家族一つに」。
○立山も黒部も揺らぐ鰤起こし
谷 美雪
「揺らぎ」。
○この地より拉致されたらし鰤起こし
大江 月子
「拉致といふ悲しき話鰤起こし」
能登岬めがけて鳴るや鰤起し
つゆ草
「めがけて鳴るや」不要。
紅ひきて急ぐ港や鰤越し
吉田いろは
「舟の灯の急ぐ港や」。
鰤起し友の笑顔のはじけゆく
尾崎喜美子
「友」抽象的なり。
故郷を出て鰤越し遠く聞く
水野千寿子
「遠く聞く」不要。
鰤越し鳴れば大漁いざ出港
天野喜代子
「鳴れば大漁」捨てよ。
鰤越しこの神託を何と聞く
梅田ひろし
「何と聞く」で輪郭曖昧に。
あまの家成人祝ふや鰤起し
西野 由美
「海女の子の成人祝ひ」。
派遣切り故郷で聞く鰤起し
中村こま女
「失職の帰郷の空や」。
豊漁を願ふも怖し鰤起こし
小出 富子
「怖し」不要。
雷鳴に驚く師走鰤豊漁
平岡 佳子
「頼もしき師走の空や鰤起こし」。
御神乗の鬼荒ぶるや鰤越こし
有村 南人
「荒ぶる」通俗なり。
雪起し佐渡はいよいよ眠らむか
大原 芳村
「眠らむか」弱し。
旅の宿夢にも聞けり鰤起し
竹内 林書
「夢にも聞けり」不要。
派遣切り浪寄せ返せ鰤起し
米田かずみ
「浪寄せ返せ」不要。
妻は今加賀能登あたり鰤越こし
金井 巧
季題の効果怪し。
起こされて鰤は銀座に運ばれる
根本 文子
季題曖昧になった。
鰤起こし海くらくなり暗くなり
安居 正浩
繰り返しの効果怪し。
漁民の血騒ぎ始める鰤越し
天野 さら
中七うがち過ぎか。
舟だまりめがけてあるる鰤越し
三島 菊枝
中七うがち過ぎか。
半身でも撥ねる魚ぞ鰤起し
市川 千年
鰤の説明になってしまった。
潮さわぎ白波寄する鰤起し
尾崎 弘三
説明に終わった。
【雪女】雪の魂、精神、つまり神・鬼・霊のたぐい。雪女郎ともいう。起源は古代信仰までさかのぼるはず。
◎雪女ばさりと竹を跳ねかへす
柴田 憲
美の極限を描きたる。
◎イケメンのポスター見やる雪女
梅田ひろし
あはれあり。
◎雪女上野で降りて雑踏へ
大江 月子
あはれあり。
○峠より道は閉鎖に雪女
吉田いろは
景情ととのへる。
○雪女座敷わらしの母であり
根本 文子
長年の疑問解決せり。
○雪だるま夜は雪女待つごとし
安居 正浩
「ごとし」捨つればなほ可。
○雪女郎人も心も閉ぢ込めし
尾崎喜美子
「人が心を閉ざすとき」。
物言はぬ雪女いよいよ白く
水野千寿子
「物言はぬ」不要。
寂しさに人里近く雪女
小出 富子
「人里近く」不要。
白川郷窓にふはつと雪女
つゆ草
「窓にふはつと」不要。
月の絵馬闇に消えしは雪女
松村 實
「月の絵馬」の含意知りたし。
旅姿吹雪く十字路雪おんな
谷 美雪
「吹雪く」不要。
水茎は白寿の友よ雪女郎
礒部 和子
「雪女郎」が付かない。
ビニール傘雪女のように舞う夜道
中村こま女
「雪女ビニール傘をさしてゆく」。
雪女帰る伏所のあるのやら
清水さち子
「帰る臥所のなきごとく」。
囲炉裏消え温風吹かす雪女郎
天野喜代子
「温風吹かす」うがち過ぎなり。
老いらくの恋の幻想雪女
金井 巧
「幻想」捨てたし。
おまえさま逃さぬぞへと雪女
有村 南人
「おまえさま」とは誰か。
雪女郎津軽じょんがら叩き弾く
大原 芳村
「叩き弾く」の主語あいまい。
雪女蓑をかぶつて荒野行く
竹内 林書
「荒野行く」は嘘。
雪をんな吐息一山鎮まれり
ひぐらし
誰の「吐息」か。
横なぐる風に渦たつ雪女
尾崎 弘三
説明に終わった。
寂しくておらほサ雪鬼あらはれる
西野 由美
メルヘンなれど。
雪女孝行娘やもしれぬ
市川 千年
飛躍しすぎなり。
籠り堂幽かな念仏雪女
五十嵐信代
雪女の居場所不明。
消息絶つ!雪女に会ふツアーとか
堀口 希望
趣向大胆なれど、句意平明。
北の宿ここに立たせむ雪女郎
三島 菊枝
なぜ立たせたいのか。
満月や雪女庭にと祖母が言う
平岡 佳子
なぜ祖母なのか。
雪女の眉にも似たり細き月
千葉ちちろ
雪女の眉を知っているのか。
追ひかける永久のまぼろし雪女
天野 さら
感動の焦点はどこに。
雪女絵本を閉ぢて幼子走る
米田かずみ
雪女は居場所あいまい。
雪女はつと振り向く背に気配
堀 眞智子
振り向くのは誰か。
【食積】お節料理の名のひとつ。新春を寿ぐ心なり。
◎喰積や皿に絵を描く如く盛り
つゆ草
「盛る」。
◎喰積みや昆布の結びきりりつと
米田かずみ
「昆布の結び目きりりとす」。
◎喰積の伊達巻だけがよく売れる
天野 さら
景情ととのひたり。
◎喰積に幸せの嵩見えし頃
根本 文子
「喰積の」。懐旧しきりなり。
◎喰積やわつと来て去る子の一家
安居 正浩
三が日の一景。
○喰積につなげていかう祖母の味
尾崎喜美子
「繋がつてゐる」。
○母の味まねて喰積守りをり
清水さち子
「まねし」。
○喰積に息子夫婦の皓歯かな
金井 巧
「息子の妻の」と絞ってはどうか。
○喰積に山海の幸つめ終る
尾崎 弘三
「揃ひけり」。
○喰積に里で実りしみかん添ふ
吉田いろは
「食積や」。
幼らの好物添へる喰積よ
水野千寿子
「好物」を具体的にしたし。
喰積を供へし器華やぎて
小出 富子
「華やぎて」不要。
喰積の煮しめにしみる妻の味
ひぐらし
「しみる」捨るべし。
喰積のハムをほおばる若き人
西野 由美
「若き人」まで言わないこと。
喰積の色とりどりや迷ひ箸
三島 菊枝
「色とりどり」を具体的に。
喰積によからやからや眠たかり
柴田 憲
「うからやから」か。
いろいろな喰積みセット一人箸
五十嵐信代
「いろいろな」とはなにか。
喰積に迷ひ箸などふいの客
有村 南人
「迷ひ箸」の主語はなに。
食積に一年の計をつめこむ
竹内 林書
「食積や」と切ってみよう。
喰積の日に箸のばす父はなし
千葉ちちろ
「日に箸のばす」捨つべし。
喰積や三日睨みて夕の膳
谷 美雪
睨んでは句になるまい。
喰積や幼き顔の初参加
堀 眞智子
孫なら孫とはっきりと言おう。
喰積に飽きてラーメン啜れる子
梅田ひろし
季題の本意を逸れたり。
喰積や波おだやかに朝の海
松村 實
食積に配して凡。
喰積と御神酒と朝の日差しかな
市川 千年
発見がほしい。
独居に喰積の箱棚の上
天野喜代子
季題を正面からとらえたい。
喰積はフランス料理嫁がきた
堀口 希望
下五が乱暴なり。
喰積に家族の名を書き祝箸
平岡 佳子
祝箸の句になってしまった。
喰積を手作り重ねて婆となり
大江 月子
美的想化不足なり。
喰積を味好く煮上げ古女房
礒部 和子
美的想化不足なり。
年毎に煮染の種類が減る喰積
中村こま女
美的想化不足なり。
重詰に残りし福をいただきぬ
大原 芳村
美的想化不足なり。
海紅切絵図
鰤起し郷里に老いることも佳し
海 紅
雪女日高昆布を売りに来し
同
食積にまじる白髪もいとほしき
同
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